迷惑メールの恐怖
姫宮未調
出会い系メール
ランダムで送られてくる出会い系メール。
相手の性別を知らないために、男性宛・女性宛両方が送られてくる。
興味のない人間には、実に迷惑なールだ。
ついうっかり開いてしまっても、中のURLを押さなければ大丈夫。
今の携帯ならば、ついうっかりクリックしても『アドレスにアクセスしますか?』と更なる警告文が出る。
だから、そうそう間違いなどないはずだ。
しかし……。
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「未読がまた50件?また迷惑メールかぁ。今日も既に100件超えたー。」
毎日毎日、本当に飽きないなと思いながら日課になりつつある削除作業。
大半が卑猥な出会い系メール。
『あなたに決めました。』とか意味がわからない。
しかし、今日は違っていた。
「あ…!」
操作を誤って開いてしまう。
しかし、それはアドレスは普通だった。
メッセージにもURLがついていない。
でも………。
「なにこれ……。『あ、ご近所さんじゃないですか!運命かも!』ってうざ…。
あたし女だし、ホント無差別だなぁ。」
返さなければ大丈夫だろうと削除した。
……数日後、見覚えのあるアドレスからメールが来ていた。
そう、間違って開いたあのメール。
名前のアルファベットだから何となく覚えていた。
"eriko-kano@××××××.ne.jp"
開かず削除しようとした。
けれど、件名を見て溜め息がでた。
『何で返事くれないの?』
流れだろうとそのまま削除した。
だがそれから毎日、あのアドレスから同じ件名のメールが来る。
流石にちょっと怖い。
そして、一週間経ったある日………。
『……メール、開いた癖に返さないとか酷いよね。』
寒気がした。
今のこの手の迷惑メールは、開いたことまで関知するのかと気持ち悪くなる。
いや、きっとそうマニュアルにあるんだと自分に言い聞かせて、削除した。
……それからも、繰り返し"彼女"からのメールが来る。
気持ち悪いから、他の迷惑メールと一緒に慎重にチェックを入れて削除していった。
………それから、1ヶ月ずっと同じ繰り返しだ。
麻痺し始めた私に更なる恐怖を感じさせ始めた。
見ないようにしていたのに………見てしまった。
『今、あんたの最寄りに着いたよ。』
ないない!そんなこと!
急いで削除するが、今日はいつもと違った。
一分起きにメールが入る。
『今、コンビニの前の交番まで来たよ。』
嘘だ!確かに駅前の目と鼻の先に、交番があって、その前にはコンビニがある。
そんなのどこにでもあるはずだ。
削除しても、すぐにメールが来る。
……迷わず、向かってる?
道順は私がいつも使っている順序だ。
あり得るはずがない…。
…メールが来た。
『今、あんたのマンションの前に着いたよ。』
私はもう、吐きそうだった。
次のメール…。
『今、エレベーターに乗ったよ。』
まさか!まさか……!
『今、七階に着いたよ。』
………なんで!
『今、あんたの部屋の前にいるよ。』
………!!
………………………………その後のメールが来ない。
イタヅラ、だったの?
………ドンドンドンドンドンドン!!
ドンドンドンドンドンドン!!
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!
チャイムがあるのに、誰かが私の部屋のドアを叩き続けている。
やめて!やめて!やめて!やめて!
…………音が止んだ。
しかし、次の瞬間…。
『………サッサトアケロォォォ!!』
掠れた声で若い女が叫んだ。
ドンドンドンドンドンドン!!
ドンドンドンドンドンドン!!
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!
また始まった。
私はスマホを握りしめ踞る。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!
………私は気が遠くなった。
遠近がわからない。ドアの叩く音と着信音がバラバラに聞こえる。
あれ…?私、間違って誰かに…?
………そのまま気を失った。
「………梨子!真梨子!」
誰かの呼ぶ声で意識が浮上する。
視界はぼやけていたが、次第にピントが合ってくる。
あ…れ?
「た…くや?」
彼氏の卓哉が心配そうに私を見ていた。
「びっくりしたよ。通話に出たら返事ねぇんだもん。
慌てておまえんち行ったら、"幽霊みたいな女"がすげぇ顔でおまえんちのドア叩いてたんだよ。」
「…"幽霊みたいな女"?」
夢じゃなかったの…?
…その後、私は警察に保護された女の話を聞かされた。
何でも、私のアドレスと出会い系の男のアドレスが一文字違いだったらしい。
返事がないものだから、GPSで住所を割り出して押し掛けたそうだ。
彼女は色々あり、精神的に不安定な状態で、表札も確認しなかったという。
彼女は確認のために会った私を見て酷く狼狽し、泣きながら謝ってきた。
…私は怒る気にもなれず、許した。
ただの間違いで良かったと安心出来たから…。
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