第21話-epilogue-

あれから数週間後。

私は荷物を持って森を歩いていた。

ちょうど自分の家を出てきたところだ。

ただの外出ではなく引越し。ラブリュスと家財一式。

あの家はキャンベル親子に渡してきた。

私も一緒に住めばいいと言われたけど丁重に断った。

あの家で三人は狭いし、それに家族は家族だけで暮らすのが一番だ。

ジョアナには泣かれたけど、またいつものように遊びに来るという約束をして納得してもらった。

私の大事なジョアナ。

幼い頃から”ウルフェン”や”ブルートウ”との戦いの日常の中で、ジョアナは私の生きがいの一つだった。

ジョアナのおかげで今の私があることを決して忘れない。


しばらく歩いたところで休憩。

今度の家は、先日見張り台として使ったあの崖の近く。

例の洞窟も綺麗に整理した。

あそこならこの森を見渡せる。

キャンベル家とアルスフェイト王国を守るのに一番いい場所だ。

「よいしょ」と荷物を置き、ずきんを取って腰を降ろし一息つく。

暑くはないが、重い荷物を持って歩いていると汗はかく。

パタパタと顔を仰いでいると、前方から見知った顔が歩いてきた。

狼を取り巻きのように従えている。

「よう。約束通りこの森を出て行くのか?」

そういえばそんな事を言っていたような気がする。

「残念ね。確かに引越しの途中だけど、まだこの森にいるわ」

「そうか。じゃあまだお前を殺す機会はあるって訳だ」

「なんなら今から相手になりましょうか?あなたの体力も回復したそうだしね、ベス」

そう言って私は立ち上がって伸びをする。荷物を抱えて同じ姿勢でいたから、体を伸ばすと気持ちいい。

「そうだな。戦う日としては悪くない。でも楽しみは取っておくことにするさ」

「そう。それならこれからも退屈しなくていいことだわ」

きっとベスとはこれからもこんな会話をしていくのだろう。


「ところで後ろのちっこいのはなんだ?さっきから飯ばっか喰いやがって」

ベスは私の後ろを指差して言った。

キャンベルお母様からもらったお弁当は家に着いてからとあれほど言ったのに、まったくこの子は食べることしか頭にないんだから。

「ジョアナじゃないようだが?お前と同じ金髪だな」

「ええ。この子はルイーズ。元カルエナの手下よ」

「……マジか?」

「ええ」

驚くのも無理はない。

でもこの子を連れているのには訳がある。

「見ての通り、この子は食べ物に目がないの。先日のことでこの森に来た時に、森の果物がとても気に入ったんですって。たまには私が鹿や熊の肉を食べさせてあげると言ったらしっかり付いてくるようになったわ」

「そんな理由かよ」

「それにこの子もカルエナの魔術で生まれた子なの。鳥のキメラだから空も飛べるし、カルエナの事も熟知しているから今後の対策にいいのよ」

「寝返る可能性は?」

「最近のカルエナは領土侵略ばかりに目がいって碌な食べ物をくれなくなったらしいわ。それにもうカルエナからもらうお菓子には飽きたって」

「それだけかよ」

それだけではない。

カルエナの血を受け継ぎ、同じ金髪ブロンドの髪。

私は荷物を持って立ち上がった。

ルイーズも食べていた弁当を慌てて仕舞って立ち上がる。

「こう見るとまるで姉妹だな」

そう。ルイーズは私の妹も同然。

家族ならば、私が守らなくては。

「世界でたった一人の家族か」

「いいえ。家族はいるわ。立派なお父様に優しいお母様。それに妹がもう一人」

よく分からないというような表情のベスだったが、私たちは「それじゃあね」と言って歩き出した。


この森には怖い思い出や悲しい思い出も多いけど、それ以上に愛すべき思い出も多い。

その愛すべき人たちを守りたい。


私は赤いずきんを被り直す。


大切な人を守る方法はおばあちゃんが教えてくれた。

自分のすべてを差し出すことだ。


私は赤ずきん。

大切な人達を守るために大きな斧で戦う、純情可憐な一人の少女。

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