第2話
朝ごはんを食べて車の準備をする。起きてしまえばしっかりしたい性分なので私の出掛ける準備は万端であるが、
娘はというと直前になると色々とし忘れたことを思い出しては自分の部屋に戻って準備が完了しない。
娘は確実にママの血を受け継いでいると実感する瞬間である。そのママはドライブには行かないと言う。
誘ってはいないのだが、誘われては困ると先手でこう言ってきた。
「洗濯と掃除が山積みよ。全部あなたたちが散らかしたものだけどね」
これは大変だ。怒っているようである。娘も同じ空気を感じたのか、ママの発言と同時に準備は完了した。
車に乗り込んだ私たちはどこに行くかもまだ決めていないが、それはいつものことで、
お互いにただドライブがしたいだけなので決まるわけがない。
「どこでもいいよ。パパのすきなとこで」
娘はいつもこれだ。ほんとに乗っているだけで満足なのであろうか。
悩んだ挙句まずは出発することにした。とりあえず発進した車はこの西帯広から南に向かっていた。
数分走り車は帯広の森にさしかかったところでふとひらめいた事を娘に相談してみた。
「ねこバス通りに行ってみないか」
ねこバス通りというのは私が勝手に付けた名前で、帯広の森から、旧帯広空港があった方面に行く道なのだが、
あのねこバスが走る森のイメージにぴったりな場所なのだ。娘もトトロは大好きで、たぶん二十回以上は一緒に見ている。
そんな道があるならと、娘はもちろん賛成してくれた。帯広の森球場などスポーツ施設がある場所を過ぎるとねこバス通りはある。
少し走って左にある森に一本だけ車で走れる道路があるのだ。
他にも道は数本あるが徒歩や自転車のための道なのだ。車用のそこに到着して左に曲がるとそこはいよいよねこバス通りである。
「わあ、すごいよパパ。ほんとにねこバスの道みたいだ」
道路の周りの木の枝が太陽の光さえも遮るようにうっそうと道路の上まで生え、それはまるで木のトンネルなのである。
娘に気に入ってもらい私も悪い気分はしない。ついでにその先にある旧帯広空港のことも話したくなってきた。
「昔はこの先に空港があったんだ。柵があってなあ、そこからすぐ目の前に大きな飛行機が見れてパパはそこから見る大きな飛行機が大好きだったんだ」
娘には私の下手な説明ではうまくイメージが伝わらないかもしれないが、めったにこんな話しをしない私を真剣に見てくれているのがうれしかった。
「ちょっと車を降りて見に行こうか」
ねこバス通りを抜けると、すぐその空港跡地はある。跡地と言ってもまだ現役で自衛隊が飛行場として利用しているようだ。
もちろん自衛隊の施設には入っていけないので通行の邪魔にならない少し離れた道路わきに車を止めふたりは管制塔の近くまで歩いた。
「いまも飛行機飛んでるよパパ」
「セスナだね。たぶん訓練じゃないかな」
そう言いながら私には幼い頃に間近で見た大きな旅客機が目の前に鮮明に蘇っていた。
幼稚園児のころにはここで写生会をした記憶も蘇ってきた。とても懐かしい気持ちに包まれた。
「次はどこに行こうか」
私は娘に話しかけながら車へ歩き始めた。
「次はねえ……」
そう娘が話し始めたところで、少し離れたとこに止めた車の横に誰かが立っているのが見えた。
年は私くらいか。少し長髪で半袖シャツにパンタロン。男性だろうというのはわかる。
どことなく古めかしい服装ではあったが嫌いではないセンスだ。
いったい誰だろうと、考えながら歩みを進めると車自体も違うことにようやく気付いた。
「あれ、パパの車じゃないぞ」
そう話して娘を見ると、そこにいたはずの娘がいなくなっていた。
「ありさ! どこだありさ!」
まわりを見ても見当たらない。これは大変なことになった。
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