第11話 捜査妨害

 銀河とともに榎戸が工場へ駆けつける。

 工場へ向かう道路はすでに封鎖されていたが、押しかけるように集まったマスコミや野次馬であたりは騒然としていた。マスコミだけではなく、野次馬たちも工場へカメラを向けている。安物のカメラでもじゅうぶんすぎるほどの画質が備わるようになったため、ジャーナリスト気取りの人間が増えるようになった。彼らは別に取材をするわけではない。人のプライバシーを大衆に売るのだ。

 爆発、流血、暴動。刺激的な映像を求めて彼らはここに集まったのだろう。

 警察手帳を掲げた榎戸が、銀河とともに彼らの間をすり抜けて前にでる。

 工場は相変わらず静寂に包まれていた。

 状況から察するに、クオルの動きは特にないようだ。

 榎戸はあたりを見回したが、乗ってきた車を見つけることはできなかった。どうやら、どこかへ移動させられてしまったらしい。

「これ以上は立ち入らないでください」

 前方を歩いていた銀河が、強引に警官に引き止められた。

「俺のつれだ」榎戸が声をかける。

 なめまわすように榎戸を見た警官は不服そうにその場をあとにした。

 下っ端の警官まで俺を目の敵にしているのか。ため息をついた榎戸がつぶやく。

「なにやってんだよ」

「薬を届けようと思いまして」銀河の手には留美から受け取った薬が握られていた。

「呑まないとすぐに死んでしまうような病気なのかよ」

「ええ」銀河がこたえる。「これを呑まないと血液が固まってしまうんです。最悪、動脈硬化で死にいたります」

 榎戸は驚いた。ちょっとした皮肉のつもりだったのに、まさか本当に死につながるような危険性をはらんでいたとは。

「それだけの病気なんだ。常時、薬を持ち歩いているだろう」

「……そうだとは思うのですが、こんなことになるとは思ってなかったでしょうからね。……きのう、きょうは大丈夫だとしても、このまま続くと……」銀河が言葉につまる。

「おい!」榎戸は近くの警官に声をかけた。「ちょっと入れてくれ」

「ダメですよ!」警官があわてる。「榎戸警部補はともかく、一般の方をいれるわけにはいきません!」

「一般の人間をいれるだけの話があるんだよ」 

 榎戸に詰め寄られた警官が言葉につまる。「け、けど……」

 榎戸はあきれた。こいつは自分が起こられるのが怖いだけなのだ。どこに行っても同じだ。警察になったばかりのころは事件を解決すること、人の役に立ちたいとことばかり考えていたはずなのに、いつのまにか生活のこと、出世のことばかり考えるようになり、仕事に流されていくのだ。

 榎戸は保身ばかり考える人間が大嫌いだった。

「いいから、早くしろ!」こらえきれずに榎戸が怒鳴った。

「か、確認してきます!」警官が指揮官車へ駆けていこうとしたとき、あたりがどよめいた。

 なにか動きがあったらしい。

「はやく行け!」立ち止まっていた警官に榎戸がはっぱをかける。

「はい!」警官は怯えるように駆けだした。

 どうせ、門前払いしてこようとするだろうが、こっちだって人の命がかかっているのだ。黙って待っているわけにはいかない。

「行くぞ!」

 榎戸が立ち入り禁止のテープを越える。

「え?」

「ここで待っててもなにも変わらねぇだろう。お前も早く来い!」

「は、はい!」榎戸に続いて銀河もテープを越えた。

 責任は俺がとる。どうせ、左遷されて冷や飯を食わされていた身だ。いまよりもヒドい境遇になることはない。

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