321区 【桜ケ渕大学 女子競走部】
【桜ケ渕大学 女子競走部】おうかぶちだいがく じょしきょうそうぶ
大学に入学し、市島瑛理と澤野聖香が廃部同然だった陸上部を手っ取り早く復活させる方法として選んだ手段は、「自分達がレースに出まくって周りの高校に名前を売ると同時に、勧誘のビラを配ること」であった。
2人でありとあらゆるレースに出場し、市島瑛理は800mや5000m、澤野聖香も10000mなど、本来の専門種目以外にも練習を兼ねて出場し、名前を売りまくっていった。
そして、10月頃にはついに大学側を動かすことに成功する。
全日本インカレや日本選手権で上位に入った2人に大学を通して取材がいくつかあり、これは宣伝効果が高いと判断した大学が陸上部に監督を付け、来年度以降スポーツ推薦枠を新設すると約束してくれたのである。
どんな監督が来るかと楽しみにしていた2人の前に現れたのは、なんと現役の女子長距離選手と水上舞衣子であった。
青寺小雪と名乗るその選手はもみじ化学所属の22歳。
聖香達と僅か3つほどしか歳が変わらなかったのである。
大学から同じ熊本にある水上舞衣子のいる実業団に監督を探すにはどうしたらよいか相談が入り、水上舞衣子が連れてきたのが、青寺小雪であった。
「彼女、島根県の土師南高校ってところからもみじ化学に来て、私が引退するまでの2年間、ずっと私の練習パートナーだったの。その2年間で私の知識と走りをすべて叩き込んでいるから。だから、絶対に監督として役に立つと思うわ」と水上舞衣子が笑顔で言うので聖香達も目が点になりつつも納得せざるを得ない状況であった。
さらにその後、青寺小雪から語られた今後のプランについて、2人は度肝を抜かれることとなる。
なんと、青寺小雪自身も自己推薦入試を活用して桜ケ渕大学を受験し、来年度以降4年間は選手兼監督として実働するというものであった。
ちなみに、青寺自身は高校卒業後実業団に入ったので、大学生活に憧れもあったらしく、大学に入れるなら実業団を辞めても良いと思っており、そのことを知っていた水上舞衣子が今回の件に適任だと判断したらしい。
監督に就任して以降、青寺小雪は受験勉強と監督業、スカウト業にとフル回転し、鍾愛女子高時代に市島瑛理を慕っていた1つ下の後輩と熊本県内の選手2名、福岡から1名、佐賀から1名の部員を獲得することに成功する。
「あなたたちがいたるところのレースで活躍してくれたおかげで、事実上これから立ち上げる競走部にしては優秀な部員を多く獲得できた」と青寺小雪は誇らしげにしていた。
その翌年、聖香達が2年生の時に、聖香と市島瑛理、無事に入学出来た青寺小雪、スカウトで取って来た5名の計8名を陸上部から切り離し、女子競走部として新規一転のスタートを切る。
だが、全日本女子駅伝九州予選で、無念の敗退。その結果に青寺小雪は、大学が留学生の受入れを積極的にしており、サポートも手厚いことに目をつけ、自身の出身高校である島根県の土師南高校にお願いして高校で走っていたルチア ワングイ マカヤを大学へと入学させる。
高校駅伝や実業団駅伝、男子の大学駅伝では留学生の出走は珍しくないが、近年の女子大学女子駅伝ではほぼ例がなく、賛否両論色々と話題となる。
「話題になるだけ、儲けものだね」と青寺小雪は笑っていたが、精神的には大分ストレスが溜まっていたらしく、聖香達が3年の大学女子駅伝九州予選の5000mレース中に倒れてしまい、上位6名の合計タイムで争う予選も5秒差で敗退。
青寺小雪は、走力的には桜ケ渕大学女子競走部の3番手だっただけに、敗因は自分のせいだと大きくふさぎ込んでしまい、一時期部が機能停止にまで陥るが聖香と市島瑛理の必死のフォローで2週間後にはどうにか部も再起動を果たす。
そして聖香と市島瑛理が4年生の年に、ついに念願の全国女子駅伝出場を果たす。
「全国で失うものは何もない。女子競走部の全力を持って挑む」と青寺小雪は宣言し、全国のオーダーも、1区市島瑛理、2区ルチア ワングイ マカヤ、3区青寺小雪と先行逃げ切りのオーダーで初出場ながら4区へタスキが渡った時点で4位と大健闘。4区で6位と順位を落とすものの、5区のエース区間で澤野聖香が明彩大の宮本加奈子と競り合い、チームを3位へと押し上げる。アンカーで5位に落ちたものの、初出場でシード権を獲得。さらには、25歳の選手兼監督、留学生の出走と、駅伝後、桜ケ渕大学女子競走部は随分と話題となっていた。
ちなみに、この年にシードを獲得してから、13年連続でシードを守り抜くほどチームは成長し、その間監督はずっと青寺小雪であった。
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