319区 【湯川 麻子】

【湯川 麻子】 ゆかわ あさこ

★初登場回 2区★

誕生日:9月25日

身長:157センチ

血液型:A型

愛用シューズ:アシックス


もちろん、誰が欠けても成り立たないという前提はあるものの、湯川麻子がいなければ桂水高校女子駅伝部と言う存在自体がなかったのかもしれない。


湯川麻子がいなければ、部員が1名減り、部として成り立たなかったのはもちろんのこと、彼女がいなければ澤野聖香が再び走り出すこともなったはずである。そうなれば、若宮紘子も入部してこず、県駅伝にも参加してないので、大和梓が入ってくることもなかったからだ。


彼女自身は、母親がバスケをやっていた影響もあり、小学の時からミニバスを始め、中学でも迷わずバスケ部に入る。


中学の時はそこまで強いチームではなく、ミニバス経験者の麻子は入部直後から交代要員として試合に出ることもあり、1年の冬にはレギュラーを勝ち取っていた。


だが、ミニバスと違い中学では先輩後輩の関係が強かったり、部内での派閥争いがあったりと色々と面倒くさいことも多く、3年生の夏に引退した時には、「高校ではもうバスケはやらない」と思うようになっていた。


ただ、湯川家がスポーツ一家だったこともあり、何かしらの運動部には入ろうとは思っており、受験勉強の現実逃避もあって、引退したのちもランニングを毎日の日課としてこなしていた。引退しても走っているのを、たまたまバスケ部顧問が見たのをきっかけに、桂水市駅伝に参加する流れとなったのである。それも、バスケ部としてではなく、中学内で足の速い子を集めた選抜メンバーとしてである。


部活内では誰も敵わないほどに圧倒的な走力のあった麻子。さらにはタスキを貰った時には、前に多くのチームがおり、ひたすら追いかける展開であったこと。逆に澤野聖香はその二週間前の県中学駅伝で3位となり、やり切った感があったこと。たかが桂水市駅伝という思いがどこかにあったこと。さらには2位に大差をつけてタスキをもらい、ずっと1人で先頭を走っていたこと。それらの要因が重なり、麻子が聖香に勝つという結果となる。


この結果に、麻子本人よりも、周りの人間が大騒ぎとなった。


閉会式で麻子の区間賞が発表されると、まずは聖香とその中学のメンバーが「え?」と、騒ぎ始める。桂水市駅伝では毎年、各中学校が学校選抜メンバーを作って出場しており、聖香の中学にいたっては、県3位となった駅伝メンバーがそのまま桂水市駅伝に出場し「全員区間賞で完全優勝」を目標としていたくらいである。


ましてや聖香には、区間賞は当たり前として、区間新記録を何秒更新できるか? にメンバーのみんなが期待していたほどだった。


次に麻子の学校の先生方が「なに?」となった。先生達も、聖香達は別格であり勝てるとは微塵も思っていなかったからである。


そして最後に麻子の周りが「うそ?」となったのだ。


その後も麻子の周りは大騒ぎとなり、先生方からも「お前は絶対に高校で長距離をやるべきだ」などと何度も言われ、麻子もやってみようかなと思うようになったのである。


また、その時何度も「あの澤野聖香に勝つなんて、とんでもないやつだな」とも言われたが、当の麻子は、聖香が何者か分からず、陸上部の同級生や陸上部顧問にどれだけ彼女がすごいのか、またその彼女に勝った麻子がどれだけすごいのかを熱弁されてしまう。


「ほら、あの子。今、優勝カップを持っているあのショートカットの子。あれが澤野聖香。あれだけ足が速いと、高校だって絶対に推薦で城華大付属に決まっていると思うよ。あ、城華大付属高校って、県内はもちろん、全国でも上位クラスなの」

と、その時同級生に説明されたのが、湯川麻子が初めて澤野聖香を見た瞬間であった。


そして、高校生となり、部活紹介で真っ先に駅伝部(仮)に向かった麻子。


そこで、あと2人の部員が必要だと言われ、中学の同級生でそれなりに足の速かった子を強引に連れてこようと考える。


みんなが好き勝手に散らばっている体育館。それも皆同じ制服。いったいどこにいるのかと、あちこち見た時に、「あれ?」と思ったのだ。


あの、入口付近でしゃがんでいるのは、数か月前に同級生が教えてくれた澤野聖香じゃないだろうか。でも、確か城華大付属高校に推薦で決まっているって……。まあ、いいや。間違っていたら「ごめんなさい」の一言だ。


と、麻子は彼女に向かって行き、物語の幕が開けたのである。



そして、それから数週間後。湯川麻子は2つのことを感じていた。


1つ目は自分が澤野聖香に勝てたのは、やはり奇跡だったこと。


2つ目は、湯川家の中では一番勉強が出来ていたが、だからと言って背伸びして県内でも有数の進学校である桂水高校に来なくてもよかったのではないか……。正直に言って、勉強についていくのが精いっぱいというか、若干置いていかれつつあるということ。


その後、走りに関しては、キャプテンとなり走力的にも聖香や紘子などの圧倒的にレベルの違う人間には勝てないにしても、駅伝でもしっかり活躍出来ていたが、学力に関してはかなり危機感を覚えていた。将来はジムのインストラクターとして働きたいので体育系の大学に行きたいと思う反面、自分の学力で入れる大学があるのか心配になってしまう。


なので、都大路が終わった後、とある体育大から推薦が来た時には部員のみんなには申し訳ないが都大路出場が決まった時以上に嬉しかったようである。


なお、体育大では、鍾愛女子出身の古庄志乃と馬が合い大の親友となる。

持ち前の真面目さ故か、大学でも主将を務め、しっかりとチームをまとめ上げると同時に、好きなことなので興味もあったのか、高校時代と違い勉学の方面でもそれなりに優秀だったようである。


卒業後、できれば山口県内でと思っていたが、たまたま桂水市の大きなスポーツジムがインストラクターを募集しており、夢がかなってインストラクターとなる。ただ母親からは「まさか、あんたが実家に戻って来るとは思ってもなかったわ」と言われてしまう。


仕事も順調にこなし数年がたった時に、麻子にある事件が起きる。なんと、1年ぐらい前から、ジムに通っていた男性に食事に誘われたのである。運動、勉強、仕事と色々と経験してきた麻子だったが、恋愛経験は全くの0。焦った麻子は藤木紗耶と古庄志乃に電話をし、助けを求める。


それに対して藤木紗耶は「え? あさちゃん……、もしかして恋愛初心者? 御飯くらい気軽に行けばいいんだよぉ~。別に御飯食べに行ったら結婚ってわけじゃないんだよぉ~」と答え、麻子も「さすが紗耶。新婚者は説得力が違う」と納得していた。


また、古庄志乃は「あんたアホ? そぎゃんこつで悩むなんて、脳みそ小学生と? え? まさか今まで一度もデートしたことなかとか? 確かに、麻子は大学時代、男っ気がまったくなかったけど……」と大学時代にはあまり使ってなかった熊本弁でがっつりツッコまれてしまう。


その相談話を随分後に聞いた澤野聖香は「え? なんで麻子は私に相談してくれなかったの? 駅伝部の絆って、その程度のものだったの?」と真面目に聞いてみたが「いや、だって……。聖香、どうみても恋愛経験皆無そうじゃん」と麻子に即答され、何も反論ができなったようである。


ちなみに、当の麻子は紗耶のアドバイスもあり、食事に行くことを承諾。それから、話はトントン拍子に進み、食事に行った1年3カ月後には入籍してしまった。


結婚式はその半年後に行われ、麻子側の友人席はほとんどが長距離関係者で埋まったうえに、古庄志乃、若宮紘子、那須川朋恵、澤野聖香と現役選手が4人もおり、藤木紗耶から「今日の結婚式出席者だけでクラブチームを作って駅伝に出場しても、わりと高いレベルで戦えるんじゃないのかなぁ~」と笑われてしまう。


麻子自身は、その後、市民ランナーとして走り続ける傍ら、たまたまジムにやって来た中学のバスケ部の後輩から誘われ、その後輩のクラブチームでバスケも始める。


麻子の旦那も草野球をやっており、交代で子守をしつつ、夫婦でスポーツを楽しむ姿は湯川家とよく似ている。


それと、麻子は男兄弟の間に挟まれて育ったせいもあったのか、2人の息子に「片づけは?」「宿題は?」「ゲームは時間を守るって約束でしょ!」などとビシビシ言うことがあり、2人の息子達はいつの間にか、麻子がランニングやバスケに行っている間を「鬼の居ぬ間のパラダイスタイム」などと称して、パーティーのように騒いでいた。


だが、ある日運悪くそれを麻子に見つかってしまい、烈火のごとく怒られたが、その最中に次男が「また地獄の釜の蓋が開いた」と呟いたものだがら、麻子が閻魔大王も逃げたしそうな勢いで怒り出し、あまりの勢いに子供2人が本気で泣き出してしまい、たまたまそのタイミングで家に帰って来た麻子の旦那が子供を慰めるありさまであった。

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