134区 まるで犬(笑)

「おかえり紗耶。いつもどおりすごいラストスパートだったわね。しかも4位なんて」

「いやぁ、レース展開に救われましたよぉ~。体力的にもラスト150mからのスパートが精一杯でしたもん。最初からハイペースで行っていたら、間違いなく最下位でした」

レースを終え帰って来た紗耶は、葵先輩の一言に手を振って謙遜する。


「それにしても、若宮、湯川、大和に続き藤木まで入賞か。みんなこの一年で随分と強くなったな」

「ですね。見ててください綾子先生。この勢いで駅伝も勝ってみせますから」

葵先輩の決意に私達も元気良く頷く。


紗耶の800m決勝が終わたのが13時。旅館のチェックインまで時間があるので、私はサブトラックで明日の最終調整を実施する。


刺激入れに600mを走ってみたが、自分の想像以上に脚が軽く安心する。昨日迷子になったせいで少々距離を走りすぎて不安だったが、これなら心配なさそうだ。


練習を終え、今日は由香里さんの車で旅館へ向かう。旅館に着くと荷物を置いて、すぐにみんなでお風呂へ。それから食事のため大広間へと向かう。


私の後ろから、紘子と住吉慶が仲良く喋りながらやって来る。そう言えば、この2人はレース以外では仲が良かったことを思い出した。まるで私とえいりんのようだ。


その2人の後ろから麻子が入って来る。


「聖香、永野先生見なかった?」

私が「見てないわよ」と答えると麻子はそのまま奥へと行ってしまう。


そんなやり取りを見て、住吉慶が反応する。

まるで尻尾を振って嬉しそうに近づいて来る犬のようだ。


「あなたが澤野聖香さん? どうも初めまして」

嬉しそうに私を見る住吉慶とは対照的に、紘子はなぜか気まずそうだ。


そんな紘子の後ろから今度は藍葉がやって来る。


「相変わらずあなたは有名人ね、澤野聖香。中学生の時、県中学ランキング1位……いや最近では県高校駅伝1区区間賞の方が有名なのかしら」

「いえいえ藍先輩。わたしが興味を持ってるのは紘が本気で、す……」

住吉慶が喋っている途中で紘子が彼女の腕をひっぱり、大広間の奥へと連れて行ってしまった。


「澤野聖香……。いったいあの2人はなんなの?」

「さぁ。むしろ私が聞きたいんだけど」

 私も藍葉も意味が分からず、首を傾げるしかなかった。

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