132区 罪作りな女・澤野聖香

大会2日目の朝。何かの物音で私は目を覚ます。


「ごめん。起こしちゃったぁ?」

隣に寝ていた紗耶が小声で謝りながら着替えていた。


時刻は6時。周りを見ても、まだみんな熟睡中だ。

ちなみに今回も全員でひとつの部屋となっていた。


「わたし散歩に行ってくるねぇ~」

「少し待って。私も行く」

みんなを起こさないように私も小声で答え、急いで着替える。


「わあー、空気が澄んでて気持ちいい」

旅館の玄関を出て深呼吸をすると、冷たい空気が体の奥深くまで入って来る。


「本当に気持ちいいよねぇ。もうすぐ6月とは思えないんだよぉ~」

紗耶も私を真似して深呼吸をすると、ゆっくりと歩き出す。


「いやぁ、わたしが800mで決勝に残れるとは予想外だったよぉ~。しかも準決は本当に僅差だったし」

「でも勝ちは勝ちだよ。紗耶、頑張ってたもん」

私が笑うと紗耶も照れ笑いをし、それをごまかすように別の話を始める。


「800mは何が良いかって、8人で決勝を行うから、最下位でも8位入賞ってところなんだよぉ。1500mだと15人くらいが決勝に残っているから、決勝進出イコール8位入賞ってわけじゃないんだよねぇ~」


「それは確かにあるかも。でも、せっかくだし、ひとつでも上の順意を目指してみなよ」


「あれ? せいちゃんは知らないんだぁ~。わたし、予選は流して、準決も一番遅い組の中で本当に僅差で決勝に残ったでしょ? はるちゃんが言うには決勝に残った8人の中で、わたしが一番タイムが遅いんだって。つまり、普通に走っても8位の可能性大なんだよぉ。そもそも800mで決勝に残ったのって人生初だし。正直、8位で当然だよぉ~」

今度は照れ笑いなどではなく、本気で紗耶は笑っていた。


20分程度2人で散歩をして旅館に戻る。部屋に入るとみんなまだ寝ていた。


「見てせいちゃん。ひろちゃんの寝顔可愛いよぉ~。この寝顔だけを見ると、とてもすごい選手には見えないよねぇ。ちょっと写真撮っておこうかぁ~」


「いや……。寝顔を撮るのは反則ですし」

紗耶の声で起きたのだろうか。紘子が寝ぼけた声を出しながら、ゆっくりと上半身を起こす。その顔はまだ随分と寝ぼけ顔で、紗耶の言うとおりちょっとだけ可愛かった。冗談のつもりで「紘子って可愛いね」とほほ笑むと、紘子はなぜかまた布団にもぐり、顔を隠してしまった。


「はぁ……。聖香は朝から何をやっているのかな」

いつの間に起きたのだろう。後ろから晴美が声を掛けて来る。


「本当に聖香って、罪作りな女かな」

 それだけ言うと晴美は洗顔道具を持って洗面所へと向かって行った。

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