101区 雪女?×2
「ここが、クラスメートの家……。だと思われる。多分、麻子の家はすぐそこ……のはず」
かなりの疑問形で説明してくれる久美子先輩。
なぜ、疑問形かというと……。
あまりの猛吹雪で前が見えないのだ……。
10分前から、突然天気が荒れだし、5分前からは目の前も見えない状態。
前にテレビで見たことがあるが、こう言う状態をホワイトアウトと言うそうだ。もう麻子の家を訪問すると言うより、麻子の家に避難すると言った方が正しいのかも知れない。
このままでは、私も久美子先輩も遭難してしまいそうだ。
桂水市内で遭難だなんて聞いたことがない。それも百歩譲って山間部ならまだしも、市街地でだ。
「多分、ここ」
一軒の家の前で久美子先輩が立ち止まる。
凍える手を必死で動かし、入口の門の雪を払いのける。雪の下から湯川と書かれた表札が出て来た。間違いない、ここが麻子の家のようだ。
「久美子先輩、やりましたよ。これで私達助かりますよ」
きっと、この言葉だけを聞いたら、ただの悪乗りだと思うだろう。
だが、私の中では心の底から湧き上がる魂の言葉だった。
玄関先まで移動し、麻子の家のチャイムを推す。それと同時に、家の中からドタドタと音がして、玄関に人の気配がする。
ガチャッと音がして玄関が開くと、目の前に小学高学年くらいの男の子が立っていた。
そういえば、麻子は社会人の兄と小学生の弟がいたはずだ。
「うわっ! 麻子姉! 雪女が出た。玄関に雪女が2人もいる」
その男の子が叫びながら家の奥へと消えて行く。
雪女かぁ~……。確かにこの吹雪のせいで、頭には雪が積もり、髪の毛も凍り始めている上に、体中に雪が付いて真っ白なので、あながち間違ってないかもしれない。
「健太、何バカなこと言ってんのよ。寒いんだからドア閉めて。こんな日に人なんて来る…」
健太と呼ばれたさっきの男の子と、麻子が玄関先に現れる。麻子は私を見て、口をあんぐりと開ける。
「聖香? こんな猛吹雪の中、あんた何やってんのよ。バカでしょ? え? なんで久美子さんまでいるんですか! とにかく上がって。あたしの家24時間風呂だから、すぐにお風呂入ってください! シャレじゃなくて本当に凍死しますよ!」
冷え切った体に、麻子の大声は随分と響いて来るような気がした。
小さい頃は、姉や父親と一緒にお風呂も入っていたが、高校生にもなって誰かと一緒に家庭のお風呂に入る日が来るとは思ってもいなかった……。
「生き返る」
湯船に浸かっている久美子先輩が幸せそうな声を出す。
先輩が湯船に浸かっている間に、私は体を洗う。暖かいお湯をシャワーで全身にかけると、凍っていた体が、ゆっくりと解凍されていくような錯覚におちいる。
思わず「あぁ~」っと、ため息とも、吐息とも分からない声が出て来る。
まさに極楽と言うべきだろう。
その極楽の門が開き、女神様が顔を覗かす。
「今から2人の服を洗濯して、そのまま乾燥機にかけますから。取りあえず、あたしのスエットとかジャージとか出しときますんで、お風呂から上がったら着てください。あ、さすがに下着は貸せないんで、ノーパン・ノーブラになっちゃいますけど、ちょっとの間なんで我慢してくださいね。服もなるだけ透けない色にはしてますから。まあ、聖香は見られてまずい物も上半身にないし、大丈夫よね。それと、シューズも乾かしてますから」
麻子と言う名の女神様は、優しく微笑みながら悪魔のような事実を伝え、そのままどこかに行ってしまった。
いや、下着を付けずに服を着ろと? 確かに外の吹雪よりはマシだが……。
久美子先輩はどう思っているのだろうと、湯船を見るが、そんなことを一切気にすることもなく、幸せそうに湯船に浸かっていた。
この際、気にするのは辞めておこう。
そう思いつつ、久美子先輩が湯船から上がるので、交代で私が湯船に浸かる。
浸かった瞬間、本当にそんなことはどうでも良くなってしまった。
お風呂がこんなにも良いものだと思ったのは生まれて初めてだ。
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