100区 似た物同士
それにしても、なんとも静かだ。
この雪のせいで、車がまったく走っておらず、街全体が停止してしまったかのようだ。
だからこそ、私は動いていたあるものに一瞬で反応してしまった。
「久美子先輩!」
道路の反対側を走っていた久美子先輩に私は大声で声をかける。
相変わらずのショートヘアと、いつもの黒く細いフレームのメガネ。こんな日でも久美子先輩の姿は、まさに秘書といった感じだ。
久美子先輩は私に気付くと、左右を確認して私の方へと道路を渡って来てくる。
普段の交通量だったら、片側2車線のこの道路を横断するなんてほぼ不可能だろう。
「久美子先輩。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「こっちこそ、よろしく」
立ち止まってお決まりの挨拶をして、今度は2人で走り始める。
「ちょっと、高校のグランドまで行ってみようと思いまして。ほら、こんなに雪が降っているんですもん、走らなきゃ損でしょ」
私が笑いながら言うと、久美子先輩は何度も頷いてくれた。
「自分も同じ。でも、葵に言ったら呆れられた」
久美子先輩は、葵先輩を誘って走りに行こうとしたが、あっさりと断られたそうだ。
私も晴美に断られたことを話すと、久美子先輩は「風情を楽しむ心がない」と呟いていた。
2人で高校までやって来ると、そのまま真っ直ぐにグランドへと進む。
「すごい! 平原ですよ!」
グランドを見て私は思わず叫んでしまう。
普段は、周りのトラックの部分と中のフィールド部分の境に縁石があったり、幅跳びのピットや投擲サークルだったりと、何かとデコボコしているのだが、それらが全て雪に埋まってしまい、綺麗な平原となっていた。
「ここまでの雪は生まれて初めて。関東でもここまで積もらない」
久美子先輩がやや興奮気味に呟く。
「関東は少し積もるだけで、ニュースで大騒ぎしてますもんね。てか、桂水市でもここまで積もるって相当珍しいですよ。そりゃ、山口でも山間部に行けば、かなり積もりますけどね」
私の説明に、久美子先輩は「なるほど~」と頷いていた。秘書が似合いそうな久美子先輩の見た目のせいで、まるで自分が社長にでもなったかのような気分になって来る。
「だったら、葵も見にくればよかったのに」
「晴美もですよ」
お互いの言葉に思わず笑ってしまう。
と、久美子先輩がすっとメガネを指で上げ、クスッと笑う。
「紗耶は難しいとして、後1人残ってる」
その言葉に、私も思わず笑ってしまう。
「麻子の場合、すでに大騒ぎしてそうじゃないですか? なんか大きな雪だるまとか作ってそう。あ、しまった。私、携帯を家に置いて来たから、連絡取れないです」
「大丈夫。家の場所なら分かる。麻子の三軒隣がクラスメート」
久美子先輩がピースしながら答えてくれる。
そこで話はまとまり、私達2人はトラックを後にして麻子の家に向かうことになった。
てか、よくよく考えたら携帯を持って来るべきだった。
そしたら、この景色を写真に収められたのに……。
そんなことを考えながら走り出したのだが、麻子の家に着く頃には持ってこなくて正解だったと思わされる。
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