93区 ゴールまで残りわずか
「先生、今どこにいますか?」
「監督ルームだ。こっちに帰って来たのか」
「はい、今正面玄関にいます」
「だったら、そのまま玄関からゴール側に延びている通路を通って、ゴール前のスタンド下まで来てくれ」
それだけ言うと永野先生は電話を切ってしまった。
言われたとおりスタンド下へ行くと、永野先生が待っていた。
「澤野お疲れ。よくやった。正直、見てて興奮したぞ。間違いなく、他のメンバーに良い影響を与えたな」
私はその言葉が嬉しいのと同時に、少し照れくさくて「ありがとうございます」と言うのが遅れてしまった。
恥ずかしさをごまかすように辺りを見ると、オーロラビジョンに駅伝の中継が映っているのに気付く。なぜか音声は出ていないようだ。
未だに先頭は城華大附属高校だ。少し差が開いたのか、後ろに麻子の姿は見えない。
「今どれくらいの差なんですか」
「どうかな。2キロ通過時点では、湯川が4秒差まで詰めたのだがな。たぶん湯川にとっはオーバーペースだったんだろうな。あいつ、藤木のラストスパートの勢いに乗せられて飛び出して行ったからな。4キロ通過地点では逆に11秒差まで開いてしまった。そろそろ先頭が帰って来そうだな」
オーロラビジョンを見上げながら永野先生が説明してくれる。
画面には、藍葉が県道から競技場の敷地内に入って来るところが映し出されていた。それと同時に競技場内にアナウンスが流れる。
「さあ、先頭が戻ってまいりました。先頭で帰って来たのはゼッケン1番、城華大附属高校です。昨年まで22年連続都大路に出場している城華大附属高校。そのアンカーを走る1年の山崎さんが、今競技場に姿を現しました」
藍葉がトラックに入って来ると、上のスタンドでは多くの歓声が上がっていた。藍葉にしては珍しく、かなり必死に走っていた。いつもはもう少しクールに淡々と走るイメージあるのだが……。
その理由はすぐに分かった。
藍葉がトラックに入り、50m程通過した時に、またアナウンスが流れる。
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