94区 決着

「2番目に帰って来たのは、初出場、桂水高校であります。アンカーを走るのは湯川さん」


麻子は藍葉以上に必死で走っていた。

絶対に抜いてやると言う気迫がひしひしと伝わってくるような走りだ。


正直、先ほど永野先生の説明を聞いた時、オーバーペースで入った麻子は後半ペースがガタ落ちするかもしれないと思ていたが、決してそんなことはなかった。


むしろ、トラック内だけなら藍葉よりもペースが速いのではないだろうか。


いつもとは違い必死に走っている辺り、藍葉自身もそれが分かっているのだろう。


そう言えば数日前、スポーツ店で良いものを見つけたと、麻子はピンク色のヘアバンドを部活に持って来ていた。女子サッカー選手がよくつけている、ヒモのように細いヘアバンドだ。


今も、それを西遊記の孫悟空のごとく頭に付けているので、髪はしっかりと固定されているのだが、それがなかったならボブヘアにしている麻子の髪はものすごく後ろになびいているだろう。


そんなことが簡単に想像出来てしまうくらい、麻子の走りには勢いがあった。


「麻子! 頑張れ! まだ400m残ってる」

私はスタンド下からゴール近くまで出て、ありったけの声で応援をする。


役員に怒られるかと思ったが、8レーンより外なら何も言われなかった。


先頭が残り400mで約50m差。今の麻子の走りなら、まだ逆転の可能性は十分にある。


麻子もそれが分かっているのだろう。真剣な眼をしたまま力強い走りを続けていた。


「すごいな湯川。あきらかに差が縮まってるぞ」

珍しく永野先生も、わずかながら興奮していた。


藍葉がラスト200mを通過する。それを必死で追う麻子。

タイム差はもう10秒ないのは確かだ。


だが藍葉も力を残していた。ラスト200mで麻子を引き離しにかかる。


それにより2人の差がまた広がる。

差を広げたまま藍葉が1位でゴールテープを切る。


それと同時に、オーラビジョンには「優勝 城華大附属高校 23年連続都大路出場」とテロップが出る。


「麻子ファイト! ラスト!」

それでも私は麻子を全力で応援する。

城華大附属には負けてしまったが、まだ私達の駅伝は終わっていない。


それに昨日葵先輩が言っていた。今日の走りは来年へとつながっていると。

だったら、私の応援もきっと来年へとつながるはずだ。


麻子もそれが分かっているのだろう。決してペースを落とすことなく、最後まで必死で走り抜き、ゴールを駆け抜ける。


ゴール横にある電動計時を見ると、1時間8分23秒だった。

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