68区 俗に言うテコ入れ回
食事が終わるとみんなでお風呂へと行く。
「はるちゃんの胸が大きいのがムカつくんだよぉ~」
紗耶が湯船で晴美の裸を見て、わけの分からないことを突然言い出す。
「いや、それは何というか……。みんなは走ってばかりだからじゃないかな」
晴美の一言にうなだれる麻子と……私。
「いや、逆転の発想よ。あたしの胸が小さいのはバスケ部と駅伝部で運動をしまくっているせいなのよ! 本当はもっと大きいはずだもん」
麻子の一言は、もはや言い訳にしか聞こえなかった。それを見て笑う葵先輩は、晴美ほどではないがしっかりと大きさもあり、張りのある綺麗な形をしている。
「別に気にしても仕方ない」
そう言う久美子先輩の胸は、麻子よりも小さい感じがした。
と、久美子先輩と目が合う。
「でも、聖香よりは大きい」
もしかして心を読まれた? いや、多分、私の目線が胸に行っていたせいだろう。
その時、入口のガラス扉が開き、永野先生と由香里さんが入って来た。永野先生は入ると同時にじっと私達を見て来る。
「うーん……。園村、大和、藤木、湯川、北原、澤野の順かな。澤野が2位にしっかりと差を付けて1位でゴールってとこか」
それが私達の胸の大きさ順であることはすぐに分かった。
えぇ、私が断トツで小さいのは理解してますとも。
麻子の言葉をもちいて説明するなら、中学生の時から走ってばかりで、運動量が相当多いせいだ。いや、そうに違いない。そうであってほしい……。
「まぁ、これに比べれば私も含め、どんぐりの背比べって感じだけどな」
晴美と葵先輩の間くらいの大きさの胸をした永野先生が、由香里さんの胸を指差す。
由香里さんに初めて会ったのは、夏合宿の打ち上げだった。あの時も圧倒的だと思っていた。しかし、こうして直接見ると、圧倒的と言う言葉すら、言葉足らずのような気がする。
駅伝部の中では天上天下唯我独尊。世間一般的にみても史上最強と言った感じだ。
いや、もちろん言葉の意味が大いに間違っているのは分かっている。
「ちょっと綾子。あんたって人は」
怒る由香里さんを紗耶がじっと見ている。その視線に由香里さんも気付いたようだ。
「えっと……藤木さん?」
「由香里さん、何カップですかぁ~」
紗耶が真面目な顔をして、由香里さんに質問する。「えっと……」と返答に困る由香里さんに代わり、「聞いて驚け、由香里はIカップだ」と永野先生が自慢げに答える。
いや、なぜ永野先生が自慢げな顔になるのか?
と、由香里さんが永野先生の頭をパシッと叩く。
「余計なこと言わないで」
「いえいえ。女同士なんだし、良いじゃないですかぁ~」
紗耶がニコニコして由香里さんに返す。そして、湯船から出てスタスタと由香里さんの前に行き、両手を由香里さんの胸に当てる。
「うわぁ、すごい弾力だよぉ! そしてこの柔らかさ」
なぜか嬉しそうな紗耶と、驚きと恥ずかしさで顔を真っ赤にして、言葉が出ない由香里さん。はたから見るとなんとも不思議な光景だ。
ちなみに紗耶は麻子と葵先輩に思いっきり頭を叩かれていた。
お風呂から上がり、ミーティングをして消灯まで自由時間となる。私と晴美でテレビを見ていたのだが、CM中にふと葵先輩を見ると、なんと勉強をしていた。さすが駅伝部唯一の理数科クラス。
「こんな時でも勉強なんですか? つい先日定期テストが終わったばっかりですよ」
「まぁ、来年は受験生だしね」
私が聞くと、葵先輩はすでに来年の受験を見据えて勉強していることを告げて来る。
こういう考え方が出来る葵先輩を素直に尊敬してしまう。晴美が「どこの大学を受けるんですか?」と聞くと、「まだ内緒。うちの中ではすでに決まってるけどね」と笑顔でごまかされた。
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