66区 2人目の城華大付属1年生

急いで2階の大広間に行くと、すでに数名の人がいた。

しかもよく見ると城華大附属の陸上部だ。


「加奈子先輩、優勝おめでとうございます。すごい走りでしたね」

葵先輩が城華大附属の宮本さんを見つけ、優勝を称えていた。


そういえばこの2人は中学の先輩、後輩の間柄だ。


「澤野聖香。私の走りをしっかりと目に焼き付けたのかしら?」

後ろから私を呼び声がする。振り向かなくても、その声が山崎藍葉であるのは明白だ。


「見たわよ。2位おめでとう」

「優勝したあなたに言われると、嫌味にしか聞こえないんだけど」

いや、別にそんなつもりは全くないのだが。そもそも各校のエースが集まる3000mでの2位はかなり立派なものだと本気で思っているし。


そんな山崎藍葉に、「素直じゃないなあ」と声を掛ける1人の城華大附属の選手。その顔を見た瞬間に、見覚えがある感じがした。私がそう思うのと同時に、後ろから紗耶が声を上げる。


「あれぇ? ゆーちゃんだよぉ~。え、城華大附属にいるのぉ? 今まで気付かなかった」


「私はさーやの3000mみてたよ。てか、さーやはてっきり、聖ルートリアか泉原学院のどちらかに行ったと思ってたから、桂水高校でビックリした」


その見覚えのある選手が、驚きのセリフを口にする。紗

耶が聖ルートリアや泉原学院に行ったと思っていた? それってつまり……。


「いやぁ。どちらにも、見学には行ったんだけどぉ……。なんか肌に合いそうになくて。両方とも推薦断っちゃったんだよぉ~。ゆーちゃんに会えなくて報告出来なかったんだよぉ~」


紗耶は胸の前で両手を合わせ、ごめんねと、ゆーちゃんと呼んだ城華大付属の子に誤るしぐさをみせる。


「え? ちょと待って。紗耶、聖ルートリアや泉原学院から推薦来ていたの?」

「聖香だけじゃなくて、紗耶も推薦もらってたの?」

葵先輩がビックリした顔で紗耶に質問する。

麻子にいたっては口を大きく開けて驚いていた。


「あれぇ? わたし話たことあるよねぇ?」

紗耶が不思議そうな顔でこっちを見る。


私も含め、桂水高校駅伝部全員が首を横に振る。

それを見て紗耶は苦笑いしていた。

てか、紗耶が双子だった件といい、今回のことといい、紗耶は案外自分を語らないのだ。ただ、当の本人はすでに言った気でいるでいるようだが……。


「いまさらだけど、実はわたし推薦が来てたんだよぉ~。でも今話したとおり、結局断ったんだけど。で、こっちは貴島祐梨さん。中学の時に、よく1500mの決勝で競り合ってたんだよぉ。まぁ、あまり勝った記憶はないんだけどぉ~」


紗耶の言葉で思い出した。そうだ、どこかで見たことがあると思ったら、中学の1500m決勝で見たのだ。


「それにしても、中学生の時に決勝ではるか前を走っていた、藍葉とか澤野さんと同じチームってお互い変な感じだよね、さーや」


なんだか恥ずかしそうに私と藍葉を見て、貴島祐梨は笑いながら紗耶に同意を求める。


「だよねぇ。わたしも4月の部活紹介で、目の前にせいちゃんがいた時は、本当に驚いたんだよぉ~。中学の時は、決勝前とかに会っても声を掛けられなかったし」

と、紗耶も嬉しそうに貴島祐梨に返事を返す。


貴島祐梨は、うんうんと何度も頷き、そのセリフが間違っていないことを認める。


「確かに。藍葉と澤野さん、あと市島さん。3人は走りも別格だし、いつも3人でいて声掛けにくかったしね」


「私達って、そんな感じに見えたの?」

「祐梨。大げさに言わないで。確か私、中学の時に一度あなたと話したことあるわよ」

貴島祐梨のセリフに、私と藍葉はお互いの顔を見た後で意見を述べる。


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