55区 葵先輩、本領発揮?
駅伝部の模擬店に戻ると、みんなが大爆笑していた。
「今日から聖香のあだ名は女王様かな」
「あ、女王様。お疲れでしょう。なにか飲まれますか?」
からかう晴美と麻子の頭を軽くポカっと叩いておく。
「いやぁ、かなり笑わせてもらったんだよぉ~」
紗耶は笑いながらもしっかりと携帯で私を撮っている。よく見たら久美子先輩まで。もう、反論する気も起きなかった。と、ステージからアナウンスが流れる。
「みなさん。今から行う大食いコンテストにまだ空きがあります。我こそはと思う方。ステージまでお願いします。ちなみにケーキの大食いですので、甘い物が大好きな女性……と言うと同時に、女性の方が参加表明です」
先ほど模擬店から逃げたはずの葵先輩が、ステージに上がっていた。
とてつもなく反応が早い。
大食いコンテストの参加者は全部で10名。葵先輩は紅一点だった。しかも他の参加者は野球部が2名、柔道部が3名、サッカー部が2名、水泳部が1名、体育教師が1名と、いかにも大食いが得意そうな体つきをしている。
「可哀想に」
「でも、あおちゃん先輩が勝手に参加したんですよぉ~」
久美子先輩の一言に、紗耶がため息交じりに反論する。確かにいくら葵先輩が大食いでもそれは女性の中での話であって、同年代の男子などと比べると……。
「可哀想なのは男子。葵の圧勝」
私達1年4人は驚いて久美子先輩の顔を見る。
そして、それはすぐに現実のものとなった。
「さぁ、ケーキの大食い30分一本勝負。駅伝部から参加の紅一点、大和葵さん。なんと4ホール目に手を付け始めます。まったく手を止めることなく、ひたすら食べ続けています。自己紹介の時に甘い物が大好きと言っていただけあって、ペースが落ちる気配がありません。さぁ、男子生徒に舟入先生も頑張ってほしい。2位は柔道部2年の富山君か。しかしそれでもまだ1ホール半。トップを独走している大和さんとはすでに倍ほどの差がついてしまっている。それにしても直径15cmある5号のホールケーキ3つが、いったい大和さんのどこに収まっているのか。本当に信じられない光景です」
司会者がかなり興奮気味に解説をしている。葵先輩の大食いを何度か見たことある私達ですら、あっけにとられていた。司会者の説明によると、5号のホールケーキがだいたい4人から6人用の大きささらしい。
これが葵先輩の真の実力なのだろうか。
「これで体重が大幅に増えたら、大和はしばらくロングジョグだな」
永野先生は葵先輩を見ながら苦笑いしていた。
結局、この試合は葵先輩が1人で5ホール半食べ圧勝した。
「それでは、優勝されました駅伝部の大和さん、一言お願いします」
司会者が葵先輩にマイクを向ける。
すると葵先輩は目の前に残ったケーキを指差して「もったいないんで持って帰っていいですか?」と、真面目な顔で聞いていた。
その一言に司会者も言葉が出ないようだった。
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