54区 ミス桂水決定

「それでは、知力・体力・時の運をすべて兼ね備え、決勝に残った2名に改めて自己紹介をしてもらいましょう」


司会者がマイクを私に近付ける。


「駅伝部所属、1年6組澤野聖香です」

「生徒会所属、生徒会長。3年3組、城亜紀子です」


私達の自己紹介に周りから拍手と歓喜の声が上がる。「澤野さん、こっち向いて」と男子生徒の声まで聞こえて来るありさまだ。


「若いっていいわね」

私の横で生徒会長がクスッと笑いながらつぶやく。

なんだかとっても恥ずかしいのだが。


「いよいよミス桂水も決勝戦。ここで勝てば、優勝です。優勝は自分の力で勝ち取ってもらいましょう。さあ、決勝戦の種目はこれです」


司会者が元気よく手を伸ばす。


すると、1人の男子生徒が机をステージ中央まで運び、別の女子生徒がそこへあるおもちゃを置く。


「みなさん。説明は不要でしょう。黒ひげ危機一髪です。ちなみに、今回は黒ひげくんが飛び出た方が勝ちとなります」


自分で勝ち取ってもらうと言っていたわりには、今回も思いっきり運頼りなのではないだろうか。


「いいわ。あなたからどうぞ」

生徒会長の城さんが私に先行を譲ってくれる。


「おっと、生徒会長の余裕か。先攻は駅伝部の澤野さんのようです」

お言葉に甘えて私は先に剣を刺すことにした。


えいっと目の前にあった穴に剣を入れる。それと同時に、ポンッと勢いよく黒ひげくんが飛び出した。その音に反比例するかのように、会場が静寂に包まれる。


「え……っと。なんと、一発で勝負がついてしまいました。生徒会長、なにも出来ず。これはまさに文句なし! 今年のミス桂水は駅伝部所属、1年6組の澤野聖香さんです。みなさん! 拍手!」


会場中から盛大な拍手が沸き起こる。なんというか、これで良いのだろうか。ほとんど運のみで勝ち上がってしまった。そもそも、一番最初の○×で終わってもいいやと思っていたくらいなのに。まさに無欲の勝利といったところか。


「優勝した澤野さんには、こちらを掛けて今後のけいすい祭を過ごしていただきます」


司会者が差し出したものを見て私は青ざめる。そこにあったのは、デパートのパーティーグッズコーナーで売っている、白い生地に赤色の縁取りがしてあるタスキだった。


しかも白い部分に手書きで「今年の女王様」と書かれている。司会者は嬉しそうに私の肩に掛けて来るが、私のテンションは急降下だ。

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