56区 駅伝部の模擬店大繁盛
お土産を手に、葵先輩が駅伝部の模擬店に帰って来る。
「せっかくだから、今食べちゃうわね。その間、お店よろしく」
「それは困るかな。今からお店が大変なことになるのに」
晴美が止めようとするが、葵先輩はあっと言う間に、どこかに行ってしまった。
「てか晴美? なんで忙しくなるの? まだ昼前だし大丈夫じゃない」
私が晴美に聞くと、ものすごく冷たい顔をされた。
「忙しくなるのはどう考えて聖香のせいかな。まぁ、売上アップに繋がるからいいんだけど。と、言うより聖香。頑張ってね」
最初はその言葉の意味が分からなかった。
しかし、すぐに身を持って理解する。
駅伝部の模擬店にお客が殺到し始めたのだ。
それも私目当てで……。
私と写真を撮りたいと言う人。
握手を求めて来る人。
サインを求めて来る人。
後から後からどんどん人がやって来る。
あまりの人だかりに収集がつかなくなり始めた時だった。
「はいはい。お前ら、駅伝部のお好み焼きを1枚買うと澤野とツーショット写真。2枚買うとサインが。3枚買った人は握手が出来るから列になれ」
永野先生がとんでもないことを言いだす。いくらなんでも、それは反発が出るだろうと思ったが、押しかけた生徒は誰も文句を言うことなく、さっと列を作る。
そして、お好み焼きが飛ぶように売れて行った。晴美が半泣きになりながら野菜を切り、久美子先輩と紗耶が必死に焼いて行く。麻子は半分パニックになりながらもレジを行い、戻って来た葵先輩が、みんなのサポートに回る。
あまりの売れ行きに、永野先生が近くのスーパーへ肉や野菜などを買出しに出かける。ただ、大量に買って帰るも、それすらあっと言う間になくなり再度買出しに行く始末。
その間、私は手伝いたいと思いながらも、握手をして写真を撮って、サインをしての繰り返し。本当はミス桂水が終わったら制服に着替えようと思っていたのだが、そんな暇もなく、結局その時もスクール水着に制服のブラウスのままだった。
ようやく客足が落ち着いたのは14時頃。もうすでに、みんなくたくただった。晴美にいたっては、「野菜を切りすぎて手が痛い」と悲痛な声を上げている。
「実家に野菜用の電動スライサーがあるから、明日持って来てやるよ」
晴美は永野先生の言葉を聞いて、安堵のため息をつく。
「もう今日は模擬店を閉めましょう。正直、売り上げも目標金額の3倍に達しているもの」
葵先輩の提案に誰もが頷く。
「まさに聖香効果。明日もその格好でよろしく」
「え? やっぱりこの格好じゃないとダメですか」
久美子先輩の要請に抵抗してみるものの、反論は一切受け付けてもらえなかった。
店を閉めると、みんなで美術室へと向かう。晴美が作った作品を見るためだ。晴美は駅伝部と美術部を兼任しているものの、割合的には駅伝部に顔を出していることの方が多い。
一度、そのことについて晴美に聞いてみたのだが、
「大丈夫。その辺は美術部の先生とも話がついてるから。それに私が今やりたいことって学校より家の方が捗るかな。むしろ、美術部に顔を出してる時は例の全国高校駅伝ポスターの図案を考えたりしてるだけかな」
そう答えて笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます