27区 来訪者の正体
しばらくして、永野先生が戻って来る。
「あやちゃん先生、お客さんが訪ねて来ましたよぉ~。白髪の人」
「かなり年配の男性でした。ふっくらした体型でお腹も少し出てたかな」
「先生の父親とかですか? 優しそうな雰囲気でした」
私以外の1年3人が先ほどの男性を説明をしようとするが、永野先生に上手く伝わらず、先生は首を傾げてしまう。
そんな状態に私はため息をつく。その男性が誰であるか、はっきり分かってるので、私が一言言ってしまえば話は終わる。だが、最初はそれを躊躇してしまった。
でもみんなを見ていたら、そんな自分がバカバカしく思えて来た。別に落ち込むことはない。色々あったのは事実だが、今はこんなに素敵な仲間がいるのだから。
「永野先生。ここに来られたのは、城華大附属の阿部監督ですよ」
私の言葉にみんなが一斉に私の方を向く。
「聖香、知ってたのね?」
葵先輩は、ハトが豆鉄砲を食ったような顔で私を見る。
その表情を見て笑いそうになるのを堪えながら、私は頷く。
「あなた、そんな人にいつ会ったことがあるわけ?」
麻子が不思議そうな顔をするので、推薦の話があった時のことを説明する。
一瞬、麻子がそれを聞いて気まずそうにするが、「私はこの駅伝部に入れてよかったと思ってるから別に後悔も未練もない」と素直に気持ちを打ち明けると、「そっか」と笑顔で頷いてくれた。
ちなみに永野先生は私の一言を聞くと同時に、あたふたと携帯を取り出し、電話をしながらどこかへ消えて行った。
「そういえば、なんであやちゃん先生と城華大附属の監督さんが知り合いなのかなぁ。ちょっと不思議なんだよぉ~」
「確かにさやっちの言うとおりかな」
紗耶と晴美が2人して疑問を口にする。
「まぁ、同じ県の陸上関係者なんだし、接点は色々あるでしょ。綾子先生も駅伝部の顧問になってまだ四ヶ月だし、色々な人からアドバイスをもらっているのかもしれないしね」
葵先輩の一言に、私は部の設立にいたった経緯を聞こうとしていたことを思い出す。
それを葵先輩に説明すると、先輩は笑いながら久美子先輩を見る。
「ご自由に」
久美子先輩は、いつものごとく手のひらサイズのパソコンのキーボードをタイプしながら、じっと画面を見つめたまま返事を返す。
タイプに集中しているせいか、それとも先ほどの800m予選の疲れからなのか、声が随分と怠そうだ。
「じゃぁ、簡単に説明するわね」
その一言に私を含め1年全員が何度も頷く。
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