The child of livestock③

  ルゥ。


 お前がなんであろうとそんなの関係ないわ。


 「あいしてる」


 そういったら、ルゥはひどく脅えた声で鳴いてガタガタふるえだした。


 どうしたんだろう?


 ぎゅーを緩めて顔を見たらルゥってば、脅えた目をいっぱいいっぱい開いて真っ青な顔して口もあうあうして震えて……うふふ。


 「やっぱり、パパのなんかよりずっとかわいい……」


 ルゥの黒い目ガクガクして、わたしがうつって、うるうるして、見てるだけで胸がきゅーってする。


 かわいい、かわいい、もっと見せて?


 「ぅぁっ____ぷっぇぁっつ!」


 ルゥのお口に噛み付いて、いっぱい、いっぱい舐めたげる。


 ひっくり返っちゃったルゥが、いやいやしてばたばたしてたけど、だんだん動くのを止めて大人しくなった。


 ルゥは、お口の中を舐めるキスが大好き。



 すぐにトロンとして、気持ち良さそう。



 リーンは痛いのが好きだけど、ルゥは気持ちいいのが好きなのよ。



 ルゥ。


  ルゥ。



 いいよね?



 その腕も、足も、歯も、おまたや、声だってみんなパパが取っちゃったんだもん。


 もう、元には戻らないもの。

 

 「あいしてる。 あいしてあげる。 ずっと、ずっと大事にする……!」


 

 キスしてたらルゥの真っ青なほっぺにわたしの血が落ちて、わたしはそっと指ですくって白くなちゃったルゥの唇に塗ってみる。



 ああ、ルゥにはやっぱり赤がよくにあうわ。


 わたしは、もう一度ルゥをぎゅーってする。


 そうしたら、ルゥは何だかアヒルの首を締め上げたみたいな声で鳴いて短い手をばたばたした。


 「大丈夫、こわくないよ……こわくない……わたしがずっと一緒にいて抱きしめてあげる、キスしてあげる、だから泣かないで……!」



 あいしてる。


  あいしてる。



 パパがあのあの子のにそうしてたみたいに、わたしもルゥのこときっと『あいしてる』。





 朝が来て。



 食事を済ませて、いつもの様に地下室に行く。

 ルゥにご飯をあげて、お尻を拭いてトイレを流して、髪の毛をブラッシングして、オートミールでベタベタの顔をタオルで拭いてからお腹の傷を消毒して包帯も取り替える。


 破けちゃってたお腹は、もう随分良くなっているわね。


 ……本当に、本当によかった……。


 今は、タオルで拭いてあげる事しか出来ないけどこれないらあと少しでお風呂に入れてあげられるかもしれない。


 ルゥはバスタブが大好きだもの、きっと悦ぶわ。

 小さくゲップってしてるルゥが可愛くて、わたしはぎゅーってしてほっぺにキスをする。


 ルゥってば、やっぱりいやいやしてマットレスの方に逃げちゃうけどそんな所もかわいいの!


 ルゥは、かわいい。


 黄色の肌も、黒くて艶のある髪も、ぎってしてる黒い目も、短い手も足も、歯の無いお口も、ぷりぷりのお尻も、叫び声だって! 



 でも、もっともっと可愛いのは笑顔。



 ……たまに……すごーくたまにルゥは笑う。



 真っ青な顔も、ガクガクしてるのもたまらなく可愛いけれどもやっぱり笑顔にはかなわないの。



 どうしたら、パパのだるまみたいに___『ママ』みたいに笑ってくれるんだろう?



 ルゥのお世話が済んだわたしは、マットレスの所でルゥにぎゅーってしながら考える。



 コンコン。



 「お嬢様」



 地下室ののドアが開いて、マンバがわたしを呼ぶ。



 「まもなく旦那様のお戻りの時刻です! お出迎えの用意を」



 わたしは、あったかなルゥからむっくり起き上がって『わかったわ』っていう。



 そうよ。


 ……パパに聞けばいいのよ……。



 もう、怒られるのなんて怖くないわ!



 だって、パパはわたしに嘘ついてた!



 怒るのはわたしの方だもん!



 ルゥはなんだか心配そうな顔でわたしを見上げて『ううう?』って、言う。


 わたしは、ルゥにもう一度キスをしてから階段をあがって電気を消した。






 「さっ、サシャ?」

 


 スペインから戻ってきたパパ。


 わたしは、パパの手を掴んでぐいぐい引っ張る!


 お出迎えしてるみんなが、すごくびっくりしてるけどそんなの関係ないわ!


 パパは、『おやおや、どうしたんだい? パパの天使さん?』なんて言うけど、そんなのそちのけで腕を引っ張って廊下をずんずん歩く!


 わたしは、にこにこしてるパパをルゥみたいにギッて睨んで階段を登って書斎に押し込んでドアを閉めた!


 「おととっ、どうしたんだい? 何か______」



 パパは、机の上に出しっぱなしの手帳と写真に気付いて少しだまってから『悪い子だね』ってぼそっていってふうって溜め息をしてイスを引いて座ってじっとわたしをみた。



 「……怒ったかい?」



 パパは、にこにこ言う。



 「うん、怒ってる……わたし怒ってるの……パパわたしに嘘ついたっ! ルゥの事生まれ変わりだって! サンタクロースのプレゼントだって! でもっ! それよりも!!!」



 なんで、ルゥにそんな事したの?


 どうして、『だるま』をわたしにくれたの?


 あの子は、その『だるま』は、どうしてそんなに幸せそうに笑っているの?


 聞きたい事がわああああああってなって、言葉が出てこなくてあうあうしちゃう……なんだかルゥみたい。



  ぽろ。


   ぽろ。


 ぽろ。


   ぽろ。



 「パパ……?」


 にこにこしてた……いつもにこにこしてるパパの青い目から涙……パパが、パパが、泣いてる……。


 「アレに……もう一度、遭いたかったっ……」



 そう言って、パパはわたしが机に広げておいた写真の一枚をそっと指で撫でた。



 パパは、あの『だるま』が今でも大好き……ううん、『あいしてる』のね……。


 写真に写ってる『だるま』もあんなに可愛く笑っていたんだもん……きっとパパの事あしていたんだと思う。



 わたしを産んだ人。


 ママ。


 パパの『だるま』。


 カチクノコ。


 あいしてる。



 わたしは、パパのところまで行って涙で濡れちゃったほっぺをナンプキンで拭いたげる。


 「サシャ……」


 「パパ、勝手に書斎に入ってごめんなさい。 わたし悪い子ね……けれど、パパだってルゥにあんな事したり『ママ』の事や『だるま』の事かくしたりして……悪い子なんだから!」


 「ごめんね……コレはサシャがもう少し大きくなったらって、思ってたんだ……」


 パパが、わたしの頭をくしゃって撫でる。


 「サシャ……これからどうしたい?」


  わたしを撫でながらパパがなんだか不安そうに言う。


 「え?」


 パパが何をいっているのか分からなくて、わたしカクンってする。


 「ルゥをどうしたい?」


  パパは言う。


  なにそれ? あれ? それ、ずーと前にロノバンも言ってたっけ?


 「気持ち悪ければ処分しても良いんだよ?」



 え?


 なに? なによそれ!


 パシン!



 わたしは、パパのほっぺを思い切り引っ叩いた!

 

 「パパのバカ! なんて事言うの!!」


 「サシャ…」


 「何であっても関係ない! ルゥはわたしの『だるま』よ! 何があっても手放さないし処分なんてだめよ!」


 

 パパは、すごくびっくりした顔でわたしの事をじっとみてそれからぎゅーてする。


 「パパ?」


 「サシャはルゥが好きかい?」


 

 少し震えた声で、パパがわたしに聞く。


 「うん! とっても……」


 「そうか」


 


 パパは『愛しているよ、パパの天使さん』と言って、わたしのせなかをとんとんする。


 あったかな手……パパにそうされると何だかとっても安心する……あの子もそうだったのかな?


 ぎゅーってされてるパパの腕の隙間から、机の上の写真がにこにこしてる。


 「ねぇ、パパ、ソレはわたしを愛してた?」


 そう聞いたら、パパはわたしをぎゅうぎゅうして『ああ、とっても』と言った。



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 【執事少女の献身】



 ウチが_____わたくしめが、このお屋敷でお嬢様にお使えして丁度一ヶ月がたちました。


 そこで、わたくしめはご執事としての所作から読み書きまでご指導いただいているロノバン・グノーシス様よりかねてからすすめられていた自分史を書いてみることにしました。


 ロノバン様が仰るには、コレは文章の書き方の練習引いては今後お嬢様に関する報告書の作成に役立つとの事です。


 執事業務に報告書。


 このような大役、黒奴であるわたくしめに任せて頂けるなんて何て光栄な事でしょう!


 感謝とこの幸運に震えながらこの度、筆をとらさせていただきます。



 わたしくしめは、両親が貧困に窮し兄と二人で奴隷として売られました。


 奴隷などと言うと、そんな物は当の昔に解放され存在などしないといわれるかも知れませんがそんな事はありません。


 わたくしめの住んでいた村は貧しく、兄やわたくしめのように子供が売られたり誘拐されたりして売り買いされるのなんて珍しくもないのです。



 『解体されないだけありがたいと思え』


 わたくしめと兄に奴隷主はいいました。


 そして、二人で同じ主人に買われた事を少なからず幸運だと。

 ……その時は思ったのです。


 ローズウッド家。


 かつて、この国で1・2を争う爵位を持っていた貴族の家。


 貴族制度など無くなった現在でもその影響力は計り知れないほどのお金持ちの家。

 わたくしめはそこでメイドとして、兄は下働きとして馬車馬のように働きました。


 苦しいけれど、貧しかった村より食べられたしなにより兄妹二人が一緒にいられるだけでわたくしめは幸せでした。


 しかし、ある日の事。


 夜中、皿洗いをしているわたくしめのところへ兄が駆け込んで来て『今すぐ此処から逃げるんだ!』と腕を引きました。


 何故か? と聞いても兄は答えません。


 着の身着のまま屋敷の外へ駆け出そうとした瞬間、わたくしと兄は他の使用人に捕まってしまいました。


 逃亡は死。


 分かっていた事です。



 木に縛られ当主様に猟銃を向けられた時、『妹は殺さないでくれ! オラがなるから!!』と兄が叫びました。


 それを聞いた当主様はにやっと笑い、他の使用人に命じ兄を何処かへ連れて行ってしまったのです。


 それから、何日も何日も兄は戻りませんでした。

 わたくしめは、逃げた罰で仕事が倍になり探しに行く事も出来ず途方にくる事しかできません。


 『なる』って、一体なんのことだろう?


 兄の叫んだ言葉の意味を考えながら、大広間の床を磨いていると執事長に呼ばれ付いてくる様に言われました。


 執事長は、わたくしめのような黒奴が立ち入る事の出来なかった屋敷の地下へと下ります。


 何を聞いても『黙ってついてきなさい』と言うばかりでわたくしめはわけも分からず付いていく事しかできません。



 長い長い階段下り切ると、目の前には鉄の扉。



 入るように執事長に言われ中に入ると、ツンとした汚物の匂いが鼻をつき反射的に湧き上がった吐き気にわたくしめは思わず口を押さえます。


 薄暗いレンガ張りの牢獄のような場所……そこには、無数の『人のようなモノ』が蠢いていました。



 執事長は『お前には今日からこの『だるま』達の世話をしてもらう』それだけ言うとわたくしめをそこに放り込み鉄の扉を閉めてしまいました。


 もぞもぞと蠢く、『だるま』と呼ばれたそれらは呻き声を上げながら何かを伝えようとするのですがそれは言葉にはなりません。


 わたくしめはそのあまりの醜さに恐怖し、その場を逃げ出し衝動に駆られ閉ざされた鉄の扉をむちゃくちゃに叩いたけれど外から鍵が掛けられビクともしませんでした。


 「うああ!!」


 「うー! うー!!」



 脅えるわたくしめの足に短い手足でまとわりつく『だるま』。



 いやっ止めて! 


 と、突き飛ばそうとしたその顔にわたくしめは凍りつきました。



 「コキュートさん……?」


 

 足にまとわりついていたのは、つい最近まで兄と下働きをしていた親友のコキュートという黒奴で半年まえから姿を見なくなっていたのです。



 コキュートさんは、わたくしめに何かを使えようとしますが何故か言葉が喋れずあーあーと言うばかり。

 

 なんて事だろう!


 コキュートさんは、腕と足を肘の辺りで同じ長さに切られて喉を潰されて……それだけじゃない、まるで鋭い刃物で切りつけられたのか背の肉が見えるほどに切り裂かれてそこからは蛆がわいている!



 『だるま』。


 話には聞いていました。


 当主様にそのような趣味があることは……でも、これは余りに酷すぎるではありませんか!


 呆然とするわたくしめに、なおもコキュートさんは何かを伝えようとします。


 ……そして、気付いてしまったのです。



 薄暗い牢獄のような地下室の床。



 蠢く無数の『だるま』たちの中に顔と手足にどす黒く変色した包帯を巻きつけたにひときは体格の良い黒い肌を!



 「兄ちゃん!!」


 駆け寄り抱きおこそうとしたのですが、怖くて触れる事が出来ません!


 信じたくありません。

 

 でも、それはまぎれもなくわたくしめの兄、ボルコフ・マンバでした。


 それからというもの、わたくしは昼夜問わす『だるま』達の世話に明け暮れました。


 不衛生な地下室を掃除し、怪我を負った『だるま』を介抱し、食事、洗浄、排泄、全てを一手に引き受けなりふり構わず現実から目を逸らし兄をボルコフを『だるま』として扱いました。


 コレは兄じゃない。


 そう思わなければ、わたくしめの精神は壊れていたでしょう。


 それでなくても、気が狂いそうな毎日でした。



 そして、あの日。



 この国で絶対的権威をもつ元伯爵家で開かれた秘密をまもれる選ばれた者のみが出席を許された『だるま』愛好家のパーティーで、そのお屋敷のお嬢様……サシャ・C・エステバン様に出合ったのです。



 サシャお嬢様は、黒奴であるわたくしめをまるで普通の子供のように扱いました。



 今まで人以下としての価値しか無かったわたくしめに手をさしのべ、ほほに触れて『汚れていない』と仰いました……それだけでもう十分だったのに……。



 お嬢様の純真さは、当主様の娘であるスカーレットお嬢様には伝わりません。


 それもその筈です、スカーレットお嬢様は姉であるヴァイオレットお嬢様をサシャお嬢様取られたと思い込んでいらしたのですから。



 その思い込みは、遂に昔貴族の間で戯れで行なわれていた『だるま』を使った決闘へと発展してしまいました。



 ボルコフとサシャお嬢様のルゥ様。


 雪の中、二匹の『だるま』が決して素早いとは言えない動きで争います。


 はやし立てる下衆ども、泣きじゃくるサシャお嬢様を命令に従い拘束するこの下衆な黒奴。


 遠めに氷が割れるのが見えました。


 目が合った気がしました。


 凍てつく氷の池に沈んだ『だるま』達。


 泣きながら氷を掘るお嬢様、爪が割れても諦めない。


 それに応えるように浮いてきたルゥ様、呼吸が止まっていてもお嬢様は諦めない。


 わたくしめは、いとも簡単に兄を諦めたというのに……。


 お嬢様はお優しい。



 それが、無知からくるものであろうともお嬢様はルゥ様を愛しておいでなのです。



 ウチにほんの少しでもそれがあったなら、兄ちゃんを見捨てたりなんかしなかったのでしょうか?


 

 兄は浮いてきませんでした。


 これでよかったのです。


 兄はいつも苦しそうでした、これで兄は解放されたのです。



 わたしくしめは、スカーレットお嬢様のエステバン家滞在にかこつけてローズウッド家から逃れロノバン様にこの屋敷で雇ってほしいと直談判しました。



 サシャお嬢様にお使えしたい……それに、兄の死んだこの池の傍から離れたくないその一身で。


 

 ロノバン様は、エステバン家に掛け合い当主であるアーサー・エステバン様は快くわたくしめを迎え入れて下さいました。



 こうして、わたくしめはサシャお嬢様の執事としてお使えする事になったのです。



 お嬢様。



 慈悲深く、純真な、無知で、無垢な……金色の天使。

 


 その微笑とエステバン家を守る為ならわたくしめはなんでもします。



 たとえそれが、いくつもの屍の上に成り立つものであろうとも。



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 ひさびさの日記



 あーあー……なんだか日記をかくのが凄くめんどうになってきちゃった。


 でも、決めた事はちゃんとしなきゃってがんばる。


 そうそう!


 うれしい事があったの!

 それは最近パパが、お屋敷にいる事が多くなったてこと!


 お仕事をへらして、もっとわたしと一緒にいられるようにしたんだって!


 嬉しい!


 けれど……そうすると、ソウルになかなかあいにいけないの。


 ……ちょっと寂しい……見せてあげられないけど『ママ』の写真見つけたって『ママ』はわたしのことあいしてたのわかったって言いたいのに……。


 今度、パパが書斎で仕事の時にこっそりあいにいけたらいいな。 

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 5がつ26にち


 ソウルに会いに行く



 今日は朝からパパは書斎でお仕事だって!


 だからわたしは、マンバがロノバンの所にいったの見てからこっそり待ち合わせのところに行く!


 もう何日もいってないから、ソウルがいるか心配だったけどソウルはちゃんといたの!


 ソウルったら、もうずっと毎日ココにきてたんですって!


 わたしは、ソウルに写真を見つけた事、アレがわたしをちゃんとあいしてたってパパに教えてもらった事をいった。


 ソウルは、なんだか変な顔しながらわたしの話を聞いていたの……なんでかな?

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 5がつ27にち


 マンバのばか!



 マンバにソウルとあってるのばれちゃった。


 マンバったら、ソウルにもうあっちゃダメっていうの!


 たしかに、マンバにもヒミツにしてたのは悪かったと思うの……でも、でも、ソウルは前にリーンに撃たれたから怖がってるのよ仕方無かったのって言ったけどこれ以上会うというならパパに言いつけるって!


 なんでよ!


 ソウルは、いい人なのにマンバは危険だっていってダメって……!


 マンバのバカ! 


 わからずや!!


 もう、口なんてきいてあげないんだから!


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 5がつ28にち


 マンバが見張ってる。


 ソウルにあいにいけない……。

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 5がつ29にち


 ルゥのお世話をしながら、どうやってマンバに見つからないでソウルに会いにいけるか考える。


 「ふっ!? ううう!!」



 あ。


 考えごとしてたらお尻をごしごししすぎちゃった!



 「ああ、ごめんね」


 「ぐっ」


 ルゥが、じってわたしをみてちょっと変な顔する。 


 

 「……うん、そうなの、ソウルにどうやって会いにいこうかな……きっとずっと待ってると思うの……」


 ルゥのむにむにのほっぺを触っていると、ルゥがすりってしてきた。


 かわいい。


 うん。


 そうね、もっと考えなきゃソウルは大事なトモダチだもの……ちゃんと説明すれば、会ってもらえば、いい人だってマンバも分かってくれる……きっと。

 

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 5がつ28にち



 どうしよう!


 どうして ソウル あんな写真持ってるの!?


 ……ううん。


 ちがう。


 前にも見せてくれたはずなのに……気がつかなかった。


 ソウルの探してる人って_____



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 5がつ29にち



 マンバに謝らなくちゃ。


 マンバのいうとおりよ……ソウルにはあっちゃダメ……!


 ソウルはいい人だけど、わたしにとってのいい人じゃないもの……。



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 5がつ30にち



 ルゥをぎゅーってする。



 ごめんねっていっぱいっぱいする。

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 5がつ31にち



 ソウルとさよならする



 「サシャ! 近くにいるんだろ! どうして! 何故だ?」



 ソウルが、柵の向こうからわたしをよんでる。


 わたしは、近くのもみの木の所にかくれてソウルを見てた。


 ごめんね。


 もう、ソウルと仲良くなんて出来ないの……。


 「お嬢様、これで良かったのです 」


 後ろでマンバが言う。



 「うん……」



 わたしはソウルにお手紙をかいた。


 バイバイって、もう会わないって。


 いつもの待ち合わせの所にリボンで結んで、隠れてソウルが受け取るのちゃんと待ってた。



 「サシャ! 君は、やっぱり何か知ってるんだろう? 頼む! 教えてくれ! 大事な親友と同僚なんだ……家族だって心配してる! 早く、早く見つけてやりたいんだ!!」


 

 わたしは、耳を押さえて蹲る!




 いや! これ以上聞きたくない!!


 ルゥは、ルゥは、わたしのだもん!


 お家はここよ!




 耳に指をつっ込んでも、ソウル声がわんわんして、ぐるぐるして……ヤダっ……ヤダよ……!


 うずくまるわたしをマンバがぎゅーってしてくれる。


 少しの間そうしてから、マンバが背中をとんとんして耳を押さえてたわたしの手をそっとどかして『もう、行ってしまいましたよ』って教えてくれた。


 うん。


 ……これで良かったの……。


 でもっ、けどっ……。


 「も あえなっ……ぐすっ……ソウル……ソウル……」


 「ああ、泣かないで下さい……」



 マンバがナプキンでわたしの頬をそっと拭いて、にっこりする。



 「そんな顔ではルゥ様が心配しますよ?」


 「う"ん"……」


 そうね……泣きやまなきゃ……。



 マンバは、ロノバンのご用でキッチンへ。


 わたしは、ルゥの地下室へいく。



 お昼でも地下室は真っ暗。


 オシッコの匂いがする……トイレを流してあげなくちゃ。


 電気をつけて、階段を下りて、ルゥのちょんちょんしてるおまたも拭いて、それか、それから……。


 下りてきたわたしをルゥがじっと見てる。


 きっと、ソウルの話を聞きたいのよ……ルゥはわたしが会いに行くって知っているもの。


 「ルゥ……ソウルと友達なんだってね」



 わたしがそう言ったら、ルゥは目をまん丸にして顔が真っ青になる。



 そう、やっぱり。



 『ママ』の写真の話をしたら、ソウルは自分の持っている写真を見せてくれた。


 『大事な親友』だって。



 その写真には、男の人が写ってた。


 プールサイドに立っている笑顔のきれいな真っ黒に日焼けした水着姿の男の人。


 この写真は、ソウルがお屋敷に来てたときリーンと一緒に見たものだったけどなんであの時は気がつかなかったんだろう?


 わたしが近づこうとすると、ルゥは脅えた声で呻りながらじりじり後ろに下がってマットレスにぶつかっちゃった。

 

 「ねぇ、ルゥ……そんなに脅えてるって事はやっぱりまだ諦めてなかったんでしょ?」



 しゃがんでほっぺを触ったらビクンってして、ぶるぶる震えてる。


 ルゥったら、こんなに手も足も短いのに歯も全部抜かれて喉も焼かれて言葉も喋れないしおまたも短くされたのにまだ自分が人間のつもりなのね?


 「ソウルとわたしが仲良くなれば、お家に帰れると思ってたんでしょ?」



 わたしの目を見てる黒い目がガクガクして、お口もぶるぶるして、息をするのも忘れてるみたい。


 かわいい。


 たまらないくかわいいルゥ。


 あの写真に写ってたのや、すごーくたまに笑ってくれるのも勿論かわいい。


 けれど、今日のルゥはもしかしたら今までで一番かわいいかもしれない……!


 わたしは、ルゥをぎゅーってする。


 「お前はわたしの『だるま』 お家はココなの、ずっとココにいるの_____あいし」


 「があああああああああああああああああああ!!!」



 いきなりルゥが耳元で大声で吠えた!



 「うきゃっ!?」


 耳がキンって痛くて、わたしはルゥから飛退いちゃう!



 「いった~~~! もう! ルゥ!」

 

 「がああ!! あ"あ"あ"あ"!!!」


  

 ルゥはわたしを脅えた目で見て吠え続ける……震えてぽろぽろ泣いて、オシッコもらしてる。


こんなに脅えてかわいそう。


 「ルゥ……ルゥ……」



 もう、人間になんて戻れないのにまだ諦められないのね……。


 わたしは、大声で鳴いて鳴いていやいやするルゥをぎゅーぎゅーする。




 おしっこ漏らして。



    吠えて呻って。


 バタバタして。


      わたしの耳に噛み付いて。


 「ルゥ、ルゥ 怖がらないで、大丈夫よ。 わたしがずーっと一緒だから、ここにいればご飯もお風呂もちゃんとするこうやってだっこしてあげる! ルゥが好きなキスもいっぱいしたげる!」



 わたしは脅えるルゥにキスしてあげようとしたけど、ルゥはぷいってして逃げようとする。





 「ルゥ、わたしお前の事_____」




 「お" え" …… い" ぁ ぃ がっ!」



 

 _______え。



 目からぼろぼろ涙を零して、怖くて震えてるけどぎってにらんでルゥが吠える。



 ルゥは、喉が潰れてるから呻ったり吠えたりするだけで言葉なんて喋れないから何を言ってるのかなんていつもなら分からなかったのに______。


 「……どうして……? 何で……そんな事言うの……?」


 

 ホントは分かってた。


 こんな事されて、そう言うのは当たり前よ……でも、でも……それじゃダメなの。


 ドン!



 わたしは、だっこしてたルゥを思いっきり突き飛ばした。


 タイルの床にごろんてしてもだもだするルゥ……起きてくる間にわたしはルゥのお世話の道具を入れてあるクローゼットの引き出しを開ける。



 ヒュン。



 その音を聞いて、ようやくゴロンってしたルゥがびくんってした。



 ああ、ルゥ。



 そんな顔しないで……だって、だって、わたしはお前の『ごしゅじんさま』だもん。



 『だるまのルゥ』を幸せにしなきゃいけないんだもん。



 「ダメじゃない______そんな事を言う悪い子にはお仕置きしなきゃ……」



 パパのくれたピンクの鞭を見て、ルゥが呻ってる。



 暴れるルゥの首輪にリードをつけて、フックに引っかけて逃げ回れないようにしてからいっぱいいっぱい鞭で打つ。



 背中。


      おしり。


         血が滲んでも。

   泣いても。


       わめいても。




        止めてあげない。




 どうして?


        どうして?




     どうして、分からないの?





 ルゥの悪い子!!




      こんなに、あいしてるのに!



 ビチャ!



 ルゥの背中、鞭の音が血でびちゃびちゃになっちゃった。



 ルゥはもう鳴き声をあげない。


 わたしはぐったりしてるルゥのリードをぐいってして顔を上げみる。





 「ルゥ……ルゥ……あいしてるの……」

 

 「ぅ……ぅ……」


 

 真っ青で、ぼろぼろ泣いて、あうあうして。



 かわいそう。



 わたし、ルゥにはやさいくしたいのに。


 「そんな顔してもダメよ、お前は『だるま』わたしのモノなのどこへもやらない……」


 そう言ったら、ルゥの目から涙がどんどんあふれてくる。



 ああ……ルゥ……。



 わたしは、動くのをやめちゃったルゥの鎖を外してから血がにじんで赤いミミズ腫れがいっぱいのおしりと背中をキレイにタオルで拭いてメンフィス先生にもらった消毒液を染み込ませたコットンでぬらす。



 『ううっ』て、ルゥは鳴く。



 それから、包帯もまいてあげる。


 マットレスまで歩けそうにないから毛布もかけて、哺乳瓶でお水をあげた。



 ルゥはぼんやり目をあけたまま、なんだかお人形みたいにじっとしてる。



 かわいいルゥ。


 もう、人間になんて戻れないかわいそうなルゥ。


 「ぅぅ……ぁ ぅぅぅ………?」


 

 いたそうにしてるルゥをそっと抱きしめてあげる。


 一緒に毛布に包まって、涙で膨れちゃった目をそっとふいたげたのにどんどん溢れてきて止まらない。


 いたい?


 さっきとはちがう、今度は顔をくしゃっとする……あれ?


 なんだかとっても____。


 ルゥが、頬を触っているわたしの手にすりってする。


 「ルゥ?」


 きっとルゥは納得していない……けれど今はコレでいいわ。


 わたしは、おでこにキスしてそっと目を伏せて寝るまでそばにいてあげる事にした。

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