The child of livestock②

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 ぎゅってして。


     ちゅってして。

  がりっつ!



 血の味。


 痛そうなのに、血の出たとこもっとっていうから絶対痛いのにもみもみする。


 リネンのとなりのリーンのお部屋のリーンのベッド。 


 わたしは、お約束したからリーンのお願いを聞いてあげてるんだけど……ホント変なお願いね。


 「リーン楽しいの?」

 「はい! このまま死んでもかまいません!」


 リーンったら、はだかんぼのお胸でぎゅーってするから溺れちゃう!


 楽しいのに死にたいなんて、ホント今日のリーンはいつもより変なんだから!


 「ぶぶぶっ! もう……まだするの?」


 「はい! お願いします!」


 真っ赤な顔をしたリーンは、うるうるしながらベッドにコロンってする。


 「血が出てもう真っ赤だよ? 痛くないの??」


リーンは『はひぃ……』って、ぷるぷるしてる……そうよね……お願いきたげるって約束したものがんばらなきゃ!


 わたしは、も一回リーンのお腹に座ってそれから_____ガリッツ!


 「ひゃう!! あ ああ!」



 ギチギチギチ……!



 お願い通り、血が出るまでがじがじしてあげる。


 リーンは、もじもじして痛そうに顔真っ赤にして嬉しそうに『もっと! もっと!』っていうの。


 もう!

 ちぎれても知らないんだから!


 ガリッツ!


 「ああああああ!」


 リーンったら大声だして、強くわたしのことぎゅうぎゅうするの! 


 やめて!

 くるしっ!

 リーンのお胸で溺れちゃうってばぁ!!



 「あぶっ ぶぶぶっ! うじゅっつ じゅううううう!」


 「ひゃん! お お嬢様っ!」

 

 それから、リーンが離してくれるまでいっぱいいっぱい噛んであげたからお胸がわたしの噛んだあとで血も出て真っ赤……ほんとうに痛くないのかな?


 でも、リーンなんだかうれしそうだものこれで黙っててくれるのかな?


 わたしは、寝ちゃたリーンのお口からナプキンでよだれを拭いてメイド服のボタンをしめて毛布をかけてあげる。


 はぁ……顎がつかれちゃった……。

 わたしはリーンのベッドからおりて、イスにかけてあった自分のお洋服を着る。


 ふぅ、リーンはホントに痛いのが好きなのね……この前ロノバンが、人によって罰は違うって言ってたけどこういう事なんだわ!


 わたし、ようやくわかった気がする!



 ひらっ。



 わたしのお洋服のポケットから写真が落ちる……あ、もって来ちゃったんだ。


 落ちた写真を拾ってジッと見る……。



 黒くて長いとってもキレイな髪。


 黒い目。


 黄色い肌のすごく可愛く笑ってる薄いピンクのドレスを着た女の子の『だるま』。


 この子、ルゥと同じ種類の『だるま』なんだわ。


 「かわいい……♡」


 見れば見るほど、この子がかわいいのが分かる。


 この前のパーティーのとき、お客さん達が連れてきていた『だるま』の中にも黄色い子はいたけどこの子はそんなのよりうんとずっとかわいい!


 もちろん!


 ルゥだって負けてないけど、ルゥは男の子だもん!


 女の子のかわいいとは違うってだけなの!


 「この子、どこにいるんだろう?」


パパに聞いたら教えてくれるのかな……でも、聞いちゃったらわたしが勝手に書斎に入って机を開けちゃたことバレちゃう。


 わたしは写真をスカートのポケットに入れて、リーンのお部屋をそっと______。


 「お おじょうさまぁ……」


 寝ちゃってると思ってたリーンが、ベッドから手を伸ばして出て行こうとしたわたしの手を捕まえる。



 「なぁに? もっとなの?」

 

 そう聞いてもリーンはおめめにいっぱい涙を溜めてお顔を真っ赤にしてぷるぷるして、わたしの手をぎゅーってるだけで何も言わないの。


 「……仕方ないんだから……」


 わたしは、リーンのおでこにキスしてぎゅーって抱きしめてあげる。


 なんで痛いのが嬉しいのかは分からないけど、多分リーンはわたしよりもずっと大きいけどうんと子供で寂しがりや屋さんなのよ。


 だから、わたしがルゥと仲良くするの焼もちしてルゥに意地悪な事をしたりわたしのこと舐めたり触ったりしようとするんだわ!


 「心配しないで、わたしもリーンが好きよ」


 そういってあげたら、リーンったらルゥみたいにお口をぱくぱくしてる……かわいい。


 ちょっとの間、リーンのことぎゅーってしてあげてたんだけど遠くの方からマンバがわたしを呼ぶ声がする。


 いけない! もう、ロノバンのご用はすんだのね!


 「リーン、わたしもう行くね! 約束よ、パパの書斎に入ったの二人の秘密なんだからね!」


 わたしは、ぐちゃぐちゃになっちゃったリーンの黒く染めた髪をなでてあげる。


 あ。


 首、思いっきり噛んでってお願いされたとこわたしの歯のあとから血が出てる。


 ちょっと触っただけでもリーンは『うう』っていうの。


 とっても痛そうだけど、なんだかうっとりしててとってもうれしそうなリーン。


 「リーン……今日は、『お願い』だからこんなに噛んじゃったけど、どうしてリーンは痛いのが好きなの?」


 リーンは、うるうるした目でにっこり笑う。


 「それは、リーンがお嬢様を愛しているから……その手で口で足で傷つけられる事がリーンに生きている事を教えていただけるからですわ」


 アイシテル?

 痛いのが生きてる事?


 どうして? って聞こうと思ったけど、マンバの声がどんどん近づいてきちゃう!


 「大変! わたし行かなきゃ! いい? リーン、約束よ! パパに言っちゃダメなんだから!」


 わたしは、ぎゅーってしてるリーンの指をいっこずつ外してやっとお部屋をでる。


 そっとドアを閉じて、マンバに気付かれないようにお部屋にもどら_______ぽん!


 「っきゅっ!」


 「はぁ はぁ お嬢様っ、此方にいらしたのですか! お探ししましたよ?」



マンバは、汗びっしょりになって息をきらしてる。


 わたしの事、一生懸命さがしてたのね。


 「こちらは、リーン様の……? どうして此方に?」


 マンバの声がちょっと低くなって……どうしよう!


 怒ってるのかな?


 「えっ! えっとねっ、うんと……」


 「あれ? お嬢様、胸元のボタンが……お召し替えの時にちゃんとお留めしたはずなのに……?」 


 マンバは、ちょっと眉をしわってしてずれちゃったボタンをプチプチなおしてくれる。


 「どうなさったんですか?」


 ボタンを留めながらマンバがじっとわたしをみる……うう……どうしよう、リーンのお部屋でお洋服脱いだの怒られちゃ、ううん、それだけじゃなくてパパの書斎に入ったのだって……。



 「まさか_____」



 マンバは、リーンのお部屋のドアをちらちら見る。



 「…え と、そう! ルゥ! ルゥと遊んでて外れたの!」


 「ルゥ様と……?」


 

 マンバはじどってわたしをみてる……ううう……。



 「……わかりました」


  わたしのワンピースのボタンを上から下まできっちりなおしたマンバは、『お部屋に戻りましょう』っと言って手をぐっいってした。


 ……ふう、疲れちゃった。


 マンバったら、あれからお夕食までずーっと傍からはなれなかったからわたしお部屋から出られなかったの!


 寝る前にはルゥに絵本を読んであげるお約束してるって言っても、マンバってばお風呂も入って寝る頃になって命令するまでいやいやして……もう!


 わたしは白のネグリジェにケープをはおって、フランダースの犬の絵本とあの写真を持ってルゥの地下室にいく。


 絵本を読んであげるのは、ルゥとの大事なお約束なの! ちゃんと守らなきゃ!



 でも、今日のマンバに気付かれたらまたお部屋に戻されちゃう!


 そーっと、そーっと。


 階段を下りようとしたら、パパの書斎のドアが見えた。

 

 パパ……。


 パパは、どうして『まま』の事わたしに教えてくれないんだろう?


 パパは、机の中にどうして『だるま』の写真を隠していたの?


 パパは、『まま』の事を聞くとどうしてあんなに悲しそうな顔をしたの?


 ソウルが言ってた、パパは『まま』をアイシテいたからわたしがいるって。


 リーンも言ってた、わたしをアシテルって。


 アイシテルってなに?


 大好きよりもっともっと大好きってことなのかな?


 もしそうなら『まま』は、わたしをアイシテる?


 「まま……」


 気が付いたら、わたしはパパの書斎のドアのまえにいた。


 ……もう一回……もう一回だけパパの机の中をさがしたら……!



 ギィィィィ……。



 真っ暗なパパの書斎。


 窓が今朝からずっと吹いている強い風でカタカタして、引いてあったカーテンが少しだけ揺れて隙間からお月様の光が入ってちらちら机を照らしてる。


 わたしは、窓のところまで歩いてカーテンを開けた。


 窓の外は、強い風がごうごう吹いて芽を出したばかりのチューリップやお庭のもみの木やチェリーブロッサムをゆらして真っ暗な空も雲がどんどん流されていくからお月様がたった一人ぼっちで書斎を明るくしてくれた。


 うん、これで良く見えるわ。


 わたしは、パパの机の小さな引き出しを開けて中身をそっと出して底のふたを取る。


 そこには、やっぱり古ぼけた黒い革の手帳あってわたしはベルトを外す。


 中にはやっぱりあの可愛い『だるま』の写真。


 お月様の光で照らされてピンク、ホワイト、カーマイン、ギンガムチェック、フリルにリボンの綺麗なドレス。


 綺麗な髪。


 編みこまれてリボンを飾られて、一枚一枚緑や花に囲まれてとても幸せそうに笑ってる。



 大好き。


  大好き。



 って、写真が言ってる。


 この子はきっと、パパの事が大好きなのね……。


 ホントかわいい。


 この子は、どうしてこんなに幸せそうなんだろう?


 パパはどうやって、この子にこんな顔をさせる事ができたんだろう?


 わたしのルゥは、一度だってこんな風に幸せそうにしてた事はないのに……。


 パパは、自分が『だるま』を飼っていたなんてわたしに教えてくれなかった。


 だから、これはきっとパパの秘密……なんだわ。


 わたしは、手帳から写真を全部だしてパパの机の上にならべてみる。


 1……2、3……写真は全部で12枚かな? もっとないかな?



 「あれ?」


 写真を探して手帳をめくったら、何か書かれてる…。


 「b……br……Breeding diary……?」


 これ、この手帳……日記だ……パパのパパの……。


 駄目なのに……勝手に見ちゃ駄目なのに……自分がこんな事されたらきっと嫌な気持ちになるのに。


 わたしの指がページをめくる。


 どうしよう、今のわたしっ……とっても悪い子。


 けど、でも、だって、もしかしたら『まま』の事が書いてあるかもだもん!



 まま……まま……。



 手帳……パパの日記、難しい言葉がいっぱいで大変だけどわたしはスペルを一生懸命読む。



 えっと、……最初のたった一行だけのページにかかれてる……多分



 『August 1:When I saw it for the first time, I spit out everything in my stomach』


 8月1日:僕は始めてそれを見たとき、胃の中の物を全て吐き出した。



 って。


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 Daruma breeding diary


 『8月1日:僕は始めてそれを見たとき、胃の中の物を全て吐き出した』



 『8月2日:もう一度そこへ行く、が、それを目の当たりにしたらやはり吐いてしまう。 するとソレは言った「大丈夫ですか?」と』



 『8月3日:自分がなぜそうしたのか分からない。 気が付いたらそこに足を運び血と汚物にまみれたソレを自室に持ち帰りクローゼットに放り込んでた』



 『8月4日:兎に角臭い、僕は使用人の目を盗んでソレを洗う。 おぞましい。 触れることすら嫌悪する。 僕は何をしているんだ?』



 『8月5日:僕のシャツを着せて食事を与える。 痩せ具合から長期にわたって十分な食事を与えられえていなかったようだ。 傷だらけだ、激しい暴行を受けていたんだろう』



 『8月6日:何故そのような姿であの場所にいたのか? 食事と睡眠で大分おちつたソレに僕は問う。 するとそれは言った、自分は廃棄されたのだと』



 『8月7日:ソレは自分を『だるま』だと名乗った。 馬鹿げてる。 頭がおかしいのか?』



 『8月8日:使用人にバレる。 給仕係だ、食事の量が増えた事と極端に外出を控えていた事に気が付いたらしい。 ソレを見せたら酷く興奮して協力を申し出てきた』



 『8月9日:排泄をさせ、体を洗浄する。 短い手足だ、誰が何の為にこのような事をしたのか? そして、何故この屋敷の焼却炉にいたのか? 問うても要領をえない』



 『8月10日:だいぶ色艶が良くなった。 そしてよく笑う。 こんな状況でもそんな風に笑えるのは何故だ?』



 『8月11日:洗浄ついでにソレの体について観察する。 髪、肌、目、顔立ちからして東洋人と思われる。 会話は可能だが、どうにも自身の認識にズレがあるようだ』



 『8月12日:コレとかソレとかオイとか、言うのも何なので名前を問うが自分は『だるま』で『家畜』だと繰り返すばかりだ。 まさか……いや、考えすぎだ』



 『8月13日:『サクラ』僕はソレをそう呼ぶことにした。 東洋の日本と言う国の木の名だ。 「君の名前はサクラだ」というと___サクラは短い手足を器用に使って嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた』


 『8月14日:この所、サクラの世話に掛かりきりだ。 「坊ちゃんが、何かに夢中なんて珍しい」給仕係がおどけて見せる。 確かに僕が何かを傍に……ましてや世話を焼くなんて自分でも驚きだ』



 『8月15日:サクラは、よく食べ、よく笑い、短い手足で僕の部屋の床を元気に這い回る。 いろいろ丸出しだ、すぐに下着を用意しないとな』



 『8月16日:サクラについて。 どうやらサクラは自分の事を本気で家畜だと思ってるらしい。 何という事だ、おそらくサクラはそう言った趣向の為に物心つく以前に加工されたと見て間違いないだろう……僕の推測がほぼ当ってしまったと言ってもいい』



 『8月17日:サクラの体調がすぐれない。 恐らく風邪だとは思うが、いかんせ僕は表向き病弱を装っているが、実のところ病気に掛かった事が無い為どうしてよいか分からない。 給仕係に頼んで体の温まる食事を用意させるが、あまり食べてくれない』



 『8月18日:なんという事だ。 こんな時に限って僕は父の主催する下らないパーティーに出席を余儀なくされた。 念のため自室には鍵をかけクローゼットにサクラを隠したが、あの熱で震えなら僕の帰りをまっているかと思うといてもたってもいられない』



 『8月19日:苦しそうなサクラ。 やるだけの事はした。 医者を呼んでやれればよかったが、この屋敷で僕にそんな権限はない。 それに、もしサクラが見つかるような事があれば間違いなく殺されるだろう。 僕は籠の鳥。 無力だ』


 『8月20日:サクラの体調が持ち直す。 ほっとしている僕をみて「坊ちゃまも人間だったのですね」と、給仕係が笑う。 こいつ、僕を何だと思ってたんだ?』


 『8月21日:ひなが一日、部屋でサクラを眺める。 サクラは実にお喋りだ、ころころ表情を変え僕を見て、僕が食事を残そうものなら心配する。 自分の方が遥かに悲惨な状態なのだが、自分を『だるま』なのだと疑わないサクラはきっとそれすらも分からないのだ』


 『8月22日:吐き気がする。 僕は、サクラが何故屋敷の焼却炉にいたのかその理由を知った。 おおよその予想は立てていたとは言え最悪だ。 父は……あの男は人間じゃない』


 『8月23日:僕のクローゼットで眠るサクラ。 警戒心のまるでない安らかな寝顔。 それを眺めているだけで心が落ち着く。 妙な気分だ』


 『8月24日:サクラは自分を人間だと自覚していない。 生まれながらにそうされて飼育されてきたのだ無理もないことだが、この状態が良い事ではないのは明白だ。 しかし、それを伝えてどうなる?』


 『8月25日:活発なサクラの長い髪が這い回るのに邪魔そうだったので、僕のループタイで簡単に結い上げる。 留め具の翡翠のカメオが気に入ったのか、鏡の前から動かない。 すごいはしゃぎ様だ。 女の子はやはりああいった物が好きなのだろう。 今度、何かアクセサリーでも手に入れてこよう』


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 そこから後のページが破けて、ペンでぐりぐりされててよめない……。


 かこう?


 しいく?


 パパ……パパ……?


 わたしは、ほかに読めそうな所は無いか手帳をめくる!


 手帳はいっぱいやぶけてて、読めたのはもう最後のほう。


 ……だけど、……パパの字、最初のページと違ってすごくぐちゃぐちゃでどうしても読めないところがある……。


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 『1月20日:最近、サクラが丸っこくなった。 給仕係の栄養管理はばっちりだし、太った訳ではない。 何故だか、洗浄の為触れるだけなのにやけに手触りがいい』


 『******:』たくさん破けている。


 『******:』たくさん破けている。


 『11月25日:この気持ちをどう表現していいか分からない。 アイシテル、アイシテル、サクラ、僕のサクラ。 そんな顔しないで、僕が    』



 『******:』たくさん破けている。



 『11月28日:サクラ、不安にさせてすまない……君たちは僕が  僕は強くなら   ては  あ   』



 『11月29日: 血にまみれた 壊れそうな肉の塊 抱きあげた。 あたたかい』



 『******:』たくさん破けている。



 『12月25日:どうして、何故こんな事になってしまったんだ? ようやく全てが僕のものになったのに。 僕らを置いてどうして? 言わなければよかった、触れなければよかった、愛さなければよかった! どこまで行っても所詮は家畜だ!』



 『*** 小さな手、小さな足、白い肌、僕と同じ髪に目の色、呆れるほどに   似ていない  僕の大切な 』



 『*** サクラ、サクラ、サクラ、サクラ、サクラ、サクラ、もう一度、もう一度……』





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 なに……コレ……?


 ぐちゃぐちゃ……頭の中がぐちゃぐちゃする……何を言っているの?


 ダメ……よんじゃダメ……パパ……どうして? 


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 『****** 見つけた 見つけた ああ……そんな所にいたんだね。 「わいんはいかがですか?」ウエイター服を着た君は幼児のようにたどたどしい口調でにっこり笑って言う。 「ありがとう」僕は答える。 ああ……早く取り去りたい君に必要ないその腕を、その足を、そうだ……今度は舌を噛み切られないように歯を抜こう……早く、早く、早く、早く!! ジッと顔を見られ、少し困った顔をする君に僕は言う。 「割のいい仕事があるんだ」』



 『******:』たくさん破けている。



 『12月24日:準備が出来たと知らせを受ける。 僕の心は躍った。 ああ、やっとやっと_____が、僕に待っていたのは絶望だった。 一目で分かってしまった。 違う 違う 違う、コレは彼女じゃない……タダの手足を短く切られた人間だ。 コレは僕の『だるま』じゃない______』


 『12月25日:用意していた子犬の代わりにサシャに『だるま』を与える。 かつて、父が僕にそうしたように。 サシャはその姿に初めは少し脅えたが、死んだ老犬の生まれ変わりだと言うと瞳を輝かせアレを目で追う。 サシャは『だるま』が何であるかを知らない……形は違えど僕もあの男と同じなのだ』



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 そこまで読んで、わたしは手帳を放り出した!



 いや……どうして……? 


 なんで……?



 わたし。


   わたし。


 パパ。 



 頭の中がぐちゃぐちゃで、ぐるぐるで気持ち悪い……まま、まま、わたしを産んだ人。



 にこにこ笑う写真の『だるま』。


 「まま……? まま____なの?」



 家畜……だるま……。



 スカーレットが言ってた、わたしは『カチクノコ』だって。


 こういう事だったんだ……スカーレットの言うとおり……わたしはなんておバカさんだったんだろう……。



 わたしを産んだのは『だるま』。



 どうしていいかわからない……ぐちゃぐちゃなの、気持ち悪いの、けれど、それよりも!


 「ひどいよ……」



 ルゥは……ルゥは人間なんだ……!



 『だるま』は、人間から作られる家畜なんだ!



 パパ……どうして……どうして……ルゥにこんな事したの?

 

 「ぁ ぁ ぁ」



 わたし、わたし……ルゥに酷い事っ、だって、だって、みんなルゥの事『だるま』だって!


 人間だなんて教えてくれなかった!



 ルゥ……ルゥ……!



 だから、あんなに怒ってたんだ。


 こんな事されて、わたしの事なんて好きになってくれるはず無いじゃない!



 わたしは、パパの書斎を飛び出して階段を駆け下りる!



 ルゥ、ルゥ!!


 ごめんなさい、ごめんなさい!


 知らなかった!


 知らなかったの!!



 きっと、ルゥには本当のお家がある……パパやママもいるの!



 あっと言う間に地下室の扉の前について、首にさげてる鍵をさして______あ。



 ルゥをお家にかえす?



 それって、ルゥがいなくなっちゃうってこと?


 鍵を開ける。


 急に光がさしたからマットレスでねてたルゥがビクってして、ぼんやりと階段の上のわたしをみあげてあくびをした。

 

 「あ ルゥ あぁ……ごめんなさい……ごめんなさいっ……!」



 泣いてるわたしに気付いて、ルゥがへんな顔をする。


 わたしは、階段を駆け下り_____きゃあ!!



 ガタン! ガタタタ!!



 涙で目がふやけてて、うまく踏めなくて、わたしはそのまま上から下までごろごろ階段を転げ落ちちゃう!



 ぃ たいよぉ……。



 体中があつくていたい……頭がずきずきする……あ、血。

 


 「う"あ"あ"!? ああ! あああああ!!」


 

 階段から落っこちたわたしを見て、びっくりしたルゥが大声をあげながらマットレスから這い出してぺたぺたこっちに走ってくる。



 そばまで来たルゥは、どうしていいか分からないみたいでオロオロして動けないわたしを短い手でポンポンしたりネグリジェの裾に噛み付いて引っ張ったりして大声で鳴く。



 とっても心配な顔……どうして?


 どうしてそんな顔できるの?



 わたしやパパが、お前にどれだけ酷い事してきたか分かってるでしょ?



 そうよ……。


 ルゥは、知っててわたしを助けてくれた。



 バスタブで溺れたり、スカーレットに足を踏まれたり、決闘を申し込まれたりパパの池の氷が割れたときも!


 悲しいとき寂しいときだって、ぶすってしてたけど抱っこさせてくれたり抱きしめてくれた……わたし、お前にこんな事をした悪いパパの子なのに!

 

 わたしは、ルゥのおててのぷにぷにをモニッてつかまえた。



 「ふっ!?」


 

 大声で階段の上に向って鳴いてたルゥは、ビクってする。



 「ルゥ……」



 わたしが動いたのを見て、ルゥは少しほっとしたみたいな顔をした。



 ルゥ。


 わたしのルゥ……ごめんなさい……。



 わたしは、痛む体とずきずきする頭をおこす。



 血がポタポタしてるのを見て、ルゥが何か吠えてる。


 きっと、『じっとしてろ』っていってるのよ。


 やさしいのね。



 ルゥはきっと、すごく怒ってる……許してなんてくれないわ。



 けれど、それよりもっとうんと今のわたしを心配してくれる。



 ふふ……やっぱりルゥはおバカさんね。



 __________だからこんな目にあうのよ?___________




 わたしは、痛くて震える手でルゥをぎゅーってする。



 ルゥは、急にわたしにぎゅーってされてびっくりしたのかな?



 なんだかピクリとも動かない。



 ルゥ。



  ルゥ。



 わたしのルゥ。




 ごめんなさい。


   ごめんなさい。




 こんなのいけないの……すっごく悪い事よ。



 でも、でも、わたしっ、お前をお家に帰すなんて絶対嫌!


 もう、手放すなんてできない!!


 そんなの、考えるだけで胸のおくが痛いの!


 ルゥがそばにいないなんてもう無理なの!

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