The child of livestock

The child of livestock①

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 桜だ。


 あたり一面に広がる淡やかな桜色。


 鎖につながれた俺は、ただただ見上げる。


 今まで生きてきた中で、これほど美しい桜を見た事があっただろうか?


 暖かな風。


 吹き荒れる花びらの中、あの子が眠る。


 気が付いたらその白い首に鎖を巻きつけて、締め上げてる自分がいた。


 許せなかった。


 自分に起きたこの理不尽が。


 この幼く無知な少女が。


 どこかで諦めていた怒りがもたげ、俺は更にその首を絞めあげた。


 見開いた目、赤くなる顔、掠れた声が俺を呼ぶ。



 ぁあ、何やってんだ……俺。



 鎖を緩めると、少女は咳き込み嘔吐して泣きじゃくる。



 ああ、ごめん……もうこんな事しないから。



 だから、俺を________



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 5がつ1にち


 

 ヒミツのヒミツ





 「はい、ルゥ____あ~ん♡」


 「…………かぷっ。 むちゃむちゃ……」


 

 ふふふ♪


 ぐちゃぐちゃにしたチェリーパイでお口べたべたのルゥ……かわいい♡

 

 「はい、ミルクものんで♡」


 「ぶぶぶぶっ!? ごくっ、けふっ! けふっ!」


 

 もう!


 ルゥったら、鼻からミルクでちゃてる~。



 わたしは、ミルクとチェリーパイのクリームでぐちゃぐちゃのルゥの顔をナプキンでふいてあげる。


 ごしごししたら短いおててばたばたしてウ~ウ~するの……うん。


 これだけ元気なら、もうオムツはとってもいいかもね!


 「ふふふ、オムツと包帯もかえようね!」



 『ウウ』って言ってるルゥのお腹の包帯を外してみる…黒い糸がお腹のお肉に食い込んでジグザグして……ああ……。


 わたしは、メンフィス先生に貰った赤い消毒液を染み込ませたコットンをジグザグにぺたぺたする。


 「ぐっ……ぎっ!」


 ルゥは、痛そうにギッてしておめめのぎゅってとじて少し震えて……まだ痛むのね……。


 しっかり消毒して包帯をまいてルゥをころんとさせて、オムツをとっておしっこ臭いおまたを濡れたタオルでよく拭く。


 「ううう、ふっ! くっ……!」


 「あばれちゃダメよ? お腹の縫ってるのやぶけちゃうんだから」


 

 真っ赤な顔。


 おまたやお尻を拭くときのルゥってば、不機嫌に眉をよせて恥ずかしそうにするけど自分じゃ拭けないからがまんするの。


 かわいい。


 さっぱりしたルゥは、ゆっくりゆっくり歩いてマットにのぼってぷいって壁の方をむいちゃう。


 お腹のジグザグは、この前よりもずっと良くなってるけれどもう少しかかるわね。


 わたしは、汚れたオムツやタオル、チェリーパイのお皿をバスケットに入れて地下室の階段をのぼる。



 「ルゥ、また後でね!」

 

 

 地下室のライトをパチンと消して、わたしはドアを閉めた。

 


 「ふぅ、よ~し!」


 わたしは、汚れたタオルとオムツをリネンに持っていってそれからキッチンにお皿を返してそれからそれから……。


 「お嬢様」


 後ろの方から声がして、ふりむいたらそこにはマンバが立っていた。



 「申し付けてくださればわたくしめが致しますのに……」


 マンバは、しゅんとして言う。


 「ううん、ルゥはわたしの『だるま』なんだから出来る事は自分でするの!」


 「お嬢様……!」


 わたしがそう言ったら、なんだかマンバは嬉しそうに笑ってる。


 どうしたんだろう?


 何かいいことでもあったのかな?


 「なぁに? どうして笑っているの?」


 「いいえ、お嬢様におかれましてはそのままお健やかであって下さいまし」



 マンバは、ペコリってしてニコニコする。


 う~ん。


 マンバって、たまに難しいことばを使うから何を言ってるのかよく分からないことがあるの。

 

 「お嬢様?」


 「んう? ううん、なんでもないの! あ、そうだ! わたしこれからケリガーの所にいかなくちゃ!」


 「ケリガー様のところへですか?」


 「うん! ルゥのミルクに入れる薬草が足りなくなっちゃったの!」


 「それならわたくしめが____」


 「いいの! マンバはロノバンの御用があるんでしょ?」


 

 そう言ったら、マンバはやっと思い出したみたいにはっとする。


 今、マンバは一日のうち3時間だけロノバンにお仕事を教わってるからその間わたしは一人。


 ……あ、違う、ルゥとふたりきり。



 わたしは、お約束の時間が近いかくてなんだかおろおろしてるマンバに大丈夫よって言ってロノバンのところに行くように命令してあげる。


 マンバってば、こうでもしないとわたしの事ばっかり心配しちゃうから……。 


 わたしは、マンバがロノバンの所にいくの見てからリネンとキッチンに汚れたの置いてケリガーの道具小屋にいく。



 お庭の黄色いレンガの道を歩いて_______あ。



 遠くにチェリーブロッサムが見える。


 ……けれど、もうキレイだったピンクのお花はみんな散ってしまって今は緑の葉っぱが風にゆれてわさわさしてる。


 ピンクのお花、とてもキレイだったから無くなっちゃうのは残念だけども、もう少ししたらあの木には小さな実がいっぱいつく……すっぱくてそのままでは食べられないけれどロノバンは毎年それでジャムを作るの!


 とっても美味しくて、よくタルトやケーキの上に乗せられてるわ!


 「うふふ、たのしみね!」



 うれしくなちゃって、わたしはケリガーの小屋につくまでスキップする事にした!


 ふわっ。


 あったかな風。



 この前まで雪がつもってたうそみたい……ぽかぽかのお日様、真っ青な空。


 「……im to find me an acre of land, Parsley, sage, rosemary and thyme, Between the salt water and the sea-sand,

For then he'll be a true love of mine.」 



 「おっ、Scarborough Fairか~いい曲だ!」



 少し遠くから声がしてビックリしちゃう!



 お外とこっちを仕切るブロンズの薔薇の柵のむこう。


 赤いジャンパーを着たわたしと同じ金色の髪に青い目が、にっこり笑って手を振ってる!



 「よっ! サシャ」


 「お兄さん!?」



 この前来た刑事のお兄さんだ! 


 ああ、そうよ! お兄さんあの時リーンに撃たれて……! 


 わたしは、柵の所まで走る!



 ガシャン!


 「おっ、お兄さん! 肩! 肩大丈夫!? 痛くない!?」


 「お? ああ、もう全然だいじょーぶよ~」



 お兄さんは、肩をぐるぐるして見せる。


 そう、よかった~……あっ、でも、どうしよう……。


 「ん? どうした?」

 

 「ごめんなさい……わたし、わたしのメイドが……」


 お兄さんは柵の向こうから手を伸ばして、しゅんってしちゃったわたしの頭を優しくクシャってした。

 

 「気にスンナよ、あのネーちゃんもサシャの事が心配だったんだろ? 許してやれよ」



 お兄さんがにっこりする。


 パパと同じ優しい顔……なんだか安心する。




 「お兄さん今日はどうして?」


 「へ? いや、ほら、オレ刑事だからさぁ……見回りだよ! 見回りついでにさ、サシャどうしてるかなって?」



 お兄さんは、アハハってしながらサシャの頭をガシガシしてちょっと痛い。





 そうだ!



 「ねぇ、お兄さん! こっちにおいで! 一緒にお茶をしようよ! もうすぐマンバ……わたしの執事が戻って_____」


 「ダメだ!!」



 お兄さんが急に大声を出すから、わたしビクってしちゃう!


 「……? お お兄さん……?」 


 青い目がギロッて___なに?


 なんだか怖い。


 「あ、ごめん、ほら、さぁ……前の事とかあるからちょっと怖いみたいな?」



 『だから、オレとここで会った事はだまってて欲しいんだ』って、お兄さんは優しく頭をぽんぽんした。



 「お兄さ_____」


 「ソウル・バトゥスキー」



 え?



 「オレの名前だ、ソウルって呼んでくれ」



 手を差し出してにっこりする。



 「くれぐれも、オレと会った事は黙ってて……ね?」


 「誰にも言っちゃダメなの? パパにもロノバンにもマンバやリーンやケリガーにも?」


 「ああ、二人だけの秘密って事でどうだ?」



 ヒミツ……なんだかドキドキするけど……。



 「ルゥ、ルゥには話してもいい? ルゥはねわたしの____」


 「この前言ってたペットか? それないらいいよ」



 わたしは、お兄さん___ソウルの手をギュってして『約束』する。



 マンバとのヒミツの他にまたヒミツが出来ちゃった!


 お胸がきゅってちゃう!


 ソウルは、明日もこのくらいの時間に此処を通るからまた会おうねって言って手をふって、わたしもソウルの99って書かれたジャンパーが角を曲がって見えなくなるまで手をふる。



 うふふ、今日はルゥにお話しする事いっぱいね!



 「あ、早くケリガーのところに行かなくちゃ!」



 わたしは、ケリガーの道具小屋に向ってスキップしながら歩いた。





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 5がつ2にち



 ヒミツのお茶会





 「でね、でね、ルゥったらね______」


 昨日約束したとおり、わたしとソウルはブロンズの薔薇の柵のあっちとこっちで背中をつけてすわって持って来たヘーゼルナッツのクッキーを食べながらおしゃべりする。


 なんで背中を向けてるかって言うと、ソウルが向かい合ってたら誰か来たのに気付けないからっていうのよ?


 ……ソウルって怖がりさんなのかな?


 あーでも、リーンに肩をうたれちゃったから仕方がないのかもしれない。



 「_____サシャってさ、なんでそんなに指が傷だらけなんだ?」



 もう一枚クッキーを渡した手わたしのを捕まえて、ソウルが振り向いた。


 

 「これぇ? うん、ルゥのブーツにフェルト縫いつけたときに皮が硬くて針で刺しちゃったの」


 「じゃ、こっちの爪が半分しかないのは?」



 ソウルは、心配そうに人差し指をなでなでした。



 「これは、ルゥがパパの池に落ちちゃって氷の下に行っちゃたから助けようと思ってほってたらとれちゃったの……でもほら生えてきたでしょ?」


 「サシャもルゥもワイルドだな~ママが心配するんじゃないのか?」



 まま?



 「どうした?」


 ちょっと黙ったわたしを見てソウルが、少し変な顔をする。


 「もしかしてサシャって、ママいないのか……?」


 「うん、『まま』はいないよ」


 ソウルは、『あちゃ~』っていって自分の髪をガリガリした。


 「あー……ごめんな~オレたまにやらかすんだよ……」



  やらかす?


 ソウルったら、なにをそんなにしゅんとしてるんだろう?


 「ソウルに『まま』はいるの?」


 「あ? ああ、そりゃいるよ! もう随分会ってないけどな」


 

 ソウルは、腕につけていた時計を見て『そろそろ戻らなきゃ』って、言ってわたしの頭をくしゃってする。



 「明日もココにくる?」



  そう聞いたらソウルは『ああ』って、言って手を振って歩いていっちゃた……。



 ふふ、明日も来るんだ……楽しみ!



 でも、『ママ』ってみんなにいるのかな?


 わたし、そういうの本でしか見た事無かったからちょっとびっくりしたなぁ……。



 『まま』……わたしにはなんでいないんだろう?

 

 

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 5がつ3にち


 あめがざぁざぁ


 今日は、あさからあめがざぁざぁ。


 傘をさして待っても、ソウルはこない……まだかなぁ?


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 5がつ4にち



 5がつ4にち



 おやくそく




 今日はくもり。


 昨日ずっと待ってたのって、ソウルにいったらすごくびっくりしてた。


 雨だからわたしが来ないだろうって思ってたんですって!



 もう!



 お約束したんだから、ちゃんと来るのあたりまえなのに!


 そう言ったら、ソウルは急にわたしの事をじっとみて『少し決まり事をしようか』っていう。


 まず、



 ● もし、時間までにソウルがこなかったらその日はもう来ないからお屋敷に帰る事。



 ● 雨や風が強いときも同じ。



 ● そして、少しでも体調が悪いときはじめからココには来ない事。



 この3っつを必ず守る事ってソウルはいう。



 守れないなら、もうココにはこないっていうのよ?


 わたし、ソウルとお喋りするのとっても好きだからちゃんとお約束したわ!



 ソウルって、とってもいい人。


 ルゥのお腹のジグザグをメンフィス先生にとって貰えたら、三人で一緒にお話したいなぁ~。


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 5がつ5にち


 『まま』のはなし



 お庭から帰ったわたしは、すぐに地下室に下りてルゥにソウルから聞いた『まま』の話をしてあげる。



 「しってる? 『まま』ってロノバンみたいに食事をつくってくれたり、リーンにみたいにお掃除やお洗濯をしたりマンバみたいにいつも傍にてお世話してくれたりするんですって! たった一人でよ? すごいよね!」


 

 マットの上でお座りしてたルゥは、ちょっとびっくりしたみたいな顔でわたしの事をじっとみて首をカクンってして『ウウ……?』って言う。



 「うーん、ルゥにはちょっとむつかしいかなぁ?」


 

 ソウルの『まま』は、ソウルがわたしくらいのころはいつも絵本を読んでくれたりプリンやケーキを焼いてくれたりして悲しい時や辛い時はぎゅってしてくれたんだって!



 まま。



   まま。 



 『まま』ってなんだかとってもいい響きね!


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 5がつ6にち



 あめの日



 きょうは、朝からあめがざぁざぁ。


 ううう……きょうはソウルは来ない……なんだかさびしい。


 ルゥのおしりを拭いてトイレを流して、お腹のジグザグを消毒して……それからそれから……そうそう!


 「ルゥ、また本を読んであげる! ちょっと待っててね!」



 わたしは、地下室を出て本のお部屋にいく。



 あれ?


 うふふ。



 わたしってば、こんなにルゥのお世話をしてなんだか『まま』みたいね。

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 5がつ7にち



 パパに『わたしにはどうして『まま』がいないの?』って、聞いたらなんだかとっても悲しい顔して『どうして?』って言ってなにも言わなくなっちゃった。



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 5がつ8にち



 マンバが『まま』というのはわたしを産んだ人のことだって教えてくれた。


 本の中だけの人ではないって、マンバに教えてもらってホントびっくりしちゃう!


 ソウルに、『まま』というのがわたしを産んだ人の事をいうんだって知らなかったっていったらすごくびっくりしてた。


 パパはどうして教えてくれなかったんだろう?



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 5がつ9にち



 パパがお仕事でスペインにいっちゃった。


 『まま』の事きこうと思ったのに……。 



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 5がつ10にち



 「写真とかあるんじゃないのか?」


 クッキーを食べながらソウルが言った。



 「写真?」


 「そ、写真。 パパはさ、ママの事愛してたからサシャが生まれたんだ多分どこかに_____」


 そう言いかけたソウルは、凄くばつの悪そうな顔をした。


 どうしたの? って、きいても『え~っと、愛とかなくてもできるもんだしな』っていってごめん忘れてっていってチェリー味のキャンディをくれた。


 

 キャンディはとっても美味しかったけど、愛とかなくてもできるってなんだろう? 



 写真……『まま』の写真……パパならもってるのかな?

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 The child of livestock




 今日は、とっても風がつよい日。





 雨はふってないけど、こういう時は行かないのがお約束だから今日はずっとルゥと一緒。



 「……だからね、わたし探そうとおもうの!」


 

 ルゥは、きょとんとしてわたしの話をきている。



 「ままの写真、きっとどこかにある……ソウルの話を聞いてから『まま』の事がずっとずっと気になるの……どんな人だろうってそのことばっかり気になるの!!」



 パパは『まま』の事ずっとわたしに隠してた。

 ……お屋敷の壁や暖炉にあるのは、みんなわたしやパパの写真や絵ばかりソウルの言う『まま』と言うのはいない。


 「きっと、パパがもってるなら書斎にあると思う……パパは今お仕事でいないの___だから探すなら今よ」


 

 そう、勝手にパパの書斎に入って。



 「ルゥ、わたし悪い子かな? でもね、でも、写真でもいい……わたし『まま』に会いたいの……!」


 「ウウウ」



 ルゥは、少し泣いちゃったわたしをみて心配そうな顔で口をぱくぱくしてる。


 ソウルの話をすとなんでか知らないけど、いつもルゥは困ったような心配そうな顔をするの。


 「こっそり入って、見つけたらちょっとだけ見てそれで戻ったらきっと大丈夫だと思うの」



 勝手にパパの書斎に入るなんて悪いことしたら、きっともうサンタクロースにプレゼントなんてもらえなくなるけど、けど、けど!



 「あ あ あっ !」



 マットの上でころんてしてたルゥが、こっちにむかてはいはいしておててをバタバタしてる。


 きっと、ダメだよって言ってるのね。



 「ルゥ……」


 わたしはルゥをぎゅーってする。



 「わたしの事心配してくれるのね……大丈夫よ、うまくやる……もし、いっぱいあったら一枚もってきてルゥにも見せてあげるね!」



 あうあう言ってるルゥのほっぺにキスをして、『またあとでね!』って言ってわたしは地下室の階段を登る。



 電気を消すとき、ルゥがとっても心配そうな顔でこっちを見ているのか見えた。



 わたしは、ゆっくりドアを閉めて廊下をそっとみわたす。


 うん、だれもいない……ランチも終わってマンバはロノバンのところだしリーンもリネンでお洗濯でケリガーはお庭だと思うし___今よ!



 廊下を足音を立てないようにそっとそっと歩いて、階段もゆっくりゆっくり……誰にも気がつかれないように……。


 

 「ふう」



 パパの書斎のドアの前に来て、わたしはちょっと休憩する。



 そっと歩くのってこんなに疲れるのね……でも、ままの写真の為だもん!



 ガチャ。



 わたしは、パパの書斎のドアを開けた。


 カーテンの閉まった薄暗くてひんやりしたお部屋。


 勝手に入っちゃダメなのに、それでもわたしは中に入ってそっとドアを閉める。


 「急がなきゃ……マンバが探しに来ちゃう……」



 モコモコの白い絨毯の上を急いで歩いて、パパの机の引き出しを上から順番に開けてく!



 どこ?


 どこなの?



 がさがさがさがさ。


 書類の下や本の下を探すけど見つからない___どうして?


 ソウルは、あるかもって言ってたのに!



 カタン。


 「え?」



 大きな引き出しの隣の小さな引き出しをごそごそしたら、底の方の板ががちょっとずれて中なら古ぼけた黒い革の手帳が出てきた。


 

 「なんでこんな所に?」



 わたしは、手帳のベルトを外して中を見てみる。


 

 ばさっ。


 

 「あっ!」


 

 手帳を開けたら、中なら何枚か落ちたの……写真……コレ……この人が?



 裏返しになってた写真を一枚取って、目をぎゅってつむってそっと表にひっくり返す。




 早く見なきゃ……でも、でも!



 おむねがパンクしそうなくらいドキドキする! 



 まま。


   まま。


 わたしは、そっと目を開けた。



 あれ?


 わたしは、ちょっと困っちゃう。


 だって、写真に写っていたのは黒くて長いとってもキレイな髪に黒い目で黄色い肌のすごく可愛く笑ってる薄いピンクのドレスを着た女の子の……『だるま』だったんだもん。



 パパの飼ってた『だるま』なのかなぁ?



 ちょっと困っていたら、下のほうからマンバがわたしを探す声が聞こえてきた!



 大変!



 早く片付けなきゃ!!




 ギッギッギッ……。



 ああ、足音どんどん近づいてくる!



 きっと、マンバね!



 いそがなきゃ!


 わたしは急いでばらばらにしちゃったパパの書類を机の上でトントンして、コロコロしちゃった万年質を捕まえて引き出しにそろえて!



 それからそれからっ!



 そうこうしている間に足音はドンドン近づいてきて_____ダメ!



 間に合わない!!!




 ガチャ!



 「!!」



 書斎のドアがあいて、びっくりしちゃったわたしはイスからころげちゃう! 



 ガタン!


   ドサッツ!



 もってた書類も床に落として、頭もぶつけて目の中に銀のお星さまがチカチカして、いたぁい!



 「おっ、お嬢様!?」



 頭の後ろを押さえてごろごろしていたら、大きな手がわたしをひょいってだっこしてお膝にのせる!


 「ふぇ? リーン……?」



 リーンは、ぶつけちゃった頭の後ろをなでなでしてくれるからちょっとだけ痛くなくなって____ああ、それより!


 どっ、どうしょう!


 みつかっちゃった!

 

 「おっ、お願いよリーン! このことパパに黙ってて!」


 わたしは、だっこされたままリーンのメイド服のお胸のリボンをつかんで一生懸命お願いする!



 「し、しかし! リーンめは『メイド』でございます……旦那様のお留守の間にあったことは報告をしなければならないのです……」



 リーンは、とても残念そうに言う。


 ……ああ、どうしよう!


 ついこの前、ルゥの躾の事でパパに怒られらたばかりなのに!



 「リーンお願いよ! ……代わりに、今日はわたしの出来ることならリーンのお願いなんでもきいてあげるから!」



 「はう! お嬢様っ!」



 リーンはなぜだか顔を真っ赤にして、うるうるして……ど、どうしたんだろう?



 「それに、わたしが勝手に_____ぶぶ!?」



 『勝手に書斎にはいったのは、ママの写真を見たかったからなのっ』って、言おうとしたんだけどリーンったらわたしのことぎゅーってするから顔がお胸にうまっちゃってもごもごになっちゃう!


 「んーんー! ぷはっ!」


 「お嬢様! お嬢様!」



 ちゅ♡

   ちゅ♡

 ちゅ♡


 リーンってば、すっごく嬉しそうにわたしのことぎゅうぎゅうしながら顔じゅうにキスをするの! 


 「ちゅ♡ 本当ですか? ちゅ♡ 今日はリーンだけのお嬢様でいて下さいますか?」



 「んん___! もう! リーン! わたしの話をきいて____きゃっ!」



 もう!


 なんでお洋服の中に手を入れるの!?

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