Under the cherry tree④
まだ、わたしのこと睨んでるけど目からいっぱいいっぱい涙をこぼして怒ってるけどやさしい顔。
『ごめん』
きっとそう言ってる。
「る__」
ターン!
ルゥが、突然何かに吹き飛ばされたみたいにわたしの上からころげた!
「かふっ!? ぐっ!」
え?
ピンクの花びらが真っ赤になる。
「あ、あ……るぅ……ルゥ!!!」
わたしは、花びらをかきわけて傍で倒れてるルゥのとこにはいはいする!
ルゥは、真っ赤な花びらの中で真っ青になってぎゅって目をつむってがたがたふるえて……ああ!
大変!
お腹のとこ破けてる!
「やだ! ルゥ!!」
「お嬢様!」
マンバが、慌ててかけてきて燕尾服の上着でルゥの破けたお腹をぎゅってした!
「ぎゃう!?」
「暴れないで下さい! こぼれますよ!!」
ぎゅってしたマンバの上着がじわじわ血がにじんでる……そんな、どうして!
血がいっぱいいっぱい、ピンクの花びらあかくする。
ぱきっ。
すぐ後ろで、枝の折れるおとがしてわたしはふりむく。
「………リーン!」
ライフルをもったリーンは『申し訳ございません』って、しゅわしゅわ~ってまっしろなエプロンの下のとこ黄色くぬらしてブルブルしてグリーンの目に涙をいっぱいにしてる。
撃った。
リーンがルゥを撃ったんだ!
「なんでっ! なんでこんなっ!」
「ひぅっ! ああああ おおっお許しくださいいいいいい!」
リーンは、ライフルを投げ出してわたしの足元までやってきて顔をぐちゃぐちゃにし靴にキスして_____汚い。
「触らないで! リーンなんて_____」
「サシャ」
え?
すぐそばで、低くて優しい声がためいきをつく。
「リーンにはパパが命令したんだ」
「パ……パパ……」
振り向いたら、いつのまにかパパがいて腕をくんでじっとわたしをみて『リーンを怒るのは間違いだよ』ていうの!
「でも!」
「悪い事をしたのは誰だい? ルゥだろう? それはわかるね? サシャ?」
パパは、なんだかロノバンみたいにピシャリという。
「ちがうの! どうしてかわからないけど、わたしのこと突き飛ばしたけど、ルゥは……ルゥは……!」
「ああ、分かっているよ。 ルゥは優しい子だ……普段ならサシャにこんな酷い事は出来ない」
『普段ならね』と言って、パパはチェリーブロッサムをチラッとみてからわたしの頭をくしゃりとなでる。
「けど、サシャを恐がらせたんだ……ちゃんと罰を与えなくてはいけないよ? それなのにサシャは、きちんと罰をしないで許そうとしただろう?」
「だって……!」
大きくて暖かいパパの手が、なんだかとっても重い。
頭をなでてたパパの手が、わたしの髪をさらってしてほっぺの涙をふいてから首の所を指でなぞる。
「ああ、こんなにくっきり痕がついて……痛かったねサシャ」
パパがすごく悲しい顔をして、ルゥがリードでぎゅってした所さわるからヒリヒリして『うっ』ってゆっちゃう。
でも、わたしの痛いはいいの!
「パパ、ルゥね、お腹がやぶけてるの! 早く、メンフィス先生を呼んで!」
そう言ったんだけど、パパは何にもいわないでわたしの首ばかり見てる。
「パパ!」
「サシャ。 今日は、たまたまパパが気が付いたから良かったけれどもし一人だったらどうするつもりだったんだい?」
パパの青い目が、ジッとわたしをみてポケットから出したまっしろなハンカチを首にまいてくれた。
「確かに、メンフィスを呼べばルゥの傷は良くなる。 けれど、それからどうするんだい? ルゥはとても優しい子かも知れないけど、また同じ事をするかもしれないよ?」
「そっ、そんな事!」
「『無い』と言えるかい? サシャは、ルゥの事をあまやかしてばかりだろう? だから、ルゥはサシャの事『主人』だなんて思ってないから従わなし怪我をなおしてもまた今日みたいな事になるんじゃないかな?」
「……な、パパ?」
パパは、そっとわたしを抱きしめていうの『サシャにだるまは早すぎたんだ、ルゥとはもうさよならしよう』って!
あ、やだっ!
パパ!
どうして……!
どうして、そんな事言うの!?
パパの腕が、ぎゅってしてわたしを抱っこする。
そのままくるんてして、パパはお屋敷のほうへピンクの花びらをふんでずんずんあるくからチェリーブロッサムがどんどん離れて______いや!!
ルゥと離れちゃう!
「いや! 放して! パパ! 放してよ!」
足をバタバタするけど、パパはぎゅって放してくれない!
「やだ! ルゥが死んじゃう! マンバ! マンバ!」
マンバを呼ぶけど、マンバはルゥのお腹を押さえたまま目を大きく開いてこっちを見てるだけ。
ルゥ!
ルゥ!
わたしが守らなきゃ!
「パパ……放して……放してって言ってるの!!」
ガリッ!
「っ!?」
わたしは、パパの耳に思いっきり噛み付いた!
「サシャ……放しなさい!」
パパが、足を止めてわたしの背中をぽんぽんする。
ギチチッ!
ギチチチチチ!
お口の中がパパの血でいっぱいいっぱいになるけど、下ろしてくれるまで絶対にやめてあげない!
パパは、小さく『ぅ』って、言うけどまだそのまま歩こうと足を踏み出す。
ギリギリッチチチ!
「ふしゅーっ! ふしゅーっ! ふしゅーっ!!」
わたしは、パパの足が動くたびに耳にもっともっと強く噛み付いて、足も手もばたばたする!
そうしたらパパはやっと下ろしてくれたけど、ルゥのところに戻ろうとしたわたしの手をぎゅってつかまれちゃう!
「放して!」
「サシャ……今のサシャにルゥを飼うのは無理だよ」
耳を押さえたパパが、とても優しい声で言う。
「無理じゃない! 出来るもん! 今度はちゃんとする、ちゃんと躾けてこんな事二度とさせないの!」
「本当に? サシャにちゃんとできるかな?」
いつもの優しい声で、わたしと同じ青いパパの目が心配そうに見ている。
「パパ……サシャね。 いつも、サシャのこと大事にしてくれるパパの事大好き……でもね、もう小さな子供じゃないの!!」
「サシャ……」
「ルゥは、わたしの『だるま』なの、ルゥが悪い子なのはわたしがちゃんと躾けなかったから……自分の家畜がしたことは自分の責任なの!」
そう言ったわたしに、パパが『けれどね』って、言おうとしたときルゥの叫ぶ声がしてびっくりしてチェリーブロッサムのほうを振り向いたらルゥのところに誰かいる……しゃがんでる白い服に赤い髪の______。
「旦那様の負けでございます」
パパの後ろで栗色のおひげがふそりとする。
「ロノバン……メンフィスは君が?」
パパは、少し不機嫌そうにいう。
「いいえ、お忘れですか? 今月は、旦那様がお屋敷にいらっしゃるので定期診断を繰り上げて行ないますと申し上げていたはずですが?」
ロノバンは『ルゥは、つくづく運が悪いですね』って、おひげをふそふそさせる。
「ルゥ! パパ、お願い! 放して!」
パパは、やっと腕を放してくれてわたしはルゥの所にかけだした。
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真夜中。
わたしは、誰にも見つからないようにこっそり自分のお部屋を出てそ~っと廊下をとおってお庭にでる。
見上げると、くも一つないまっ暗な空にぽーんと浮かぶまんまるのお月様。
すごく大きくて、お庭が白い光でお昼みたいに明るい。
けれど、はぁぁって吐いた息が白くもわってする。
暖かくなって、お昼はすこし汗をかくほどだけどやっぱり夜は寒いのね。
「………いそがなきゃ!」
わたしは、黄色いレンガの道を急ぎ足で走る。
まんまるの明るいお月様の光が、黄色いレンガをてらしてくれるから懐中電灯がなくてもころげたりなんかしない!
走って、走って、走って、あのもりあがったところをこえたらやっと辿り着く。
お月様の光に照らされて、冷たい風にざあああってピンクの花びらがひらひらして……。
「はぁ、はぁ ルゥ!」
チェリーブロッサムの幹のところ、ルゥがおすわりしたままぐったりと俯いてる。
「ルゥ。 遅くなってごめんね……さむかったでしょう?」
わたしは、もってきた白いブランケットをルゥにかけてあげた。
「う"っ……?」
ルゥが、ぼーっとした目でわたしをみあげる。
ああ、唇が真っ青だわ……!
リーンに撃たれて、お腹が破けちゃってたルゥ。
メンフィス先生が縫ってくれたけど、パパがちゃんと罰を与えるように言って地下室にいれてもらえなくって今日は一日お外でつなぐ事になったんだけど夜になったら凄く寒くなっちゃったから、ルゥの事がとっても心配になって、わたしはこっそりお屋敷を出てきたの。
「大丈夫? お腹いたいよね?」
「ぁ ぅ ……ぁぁ………」
なんだかルゥは、わたしを見ているはずなのにおめめがぐらぐらしてる……あ、そっか。
わたし、痛みで酷く鳴いてるルゥが可哀想でメンフィス先生に痛くなくなるお薬いっぱい使ってもらったんだ……お薬はいっぱい使ったらぼーっとするの長くなるって言ってたっけ?
「寒いね、もっとブランケッ______わっ」
急に冷たい風が吹いて、チェリーブロッサムが大きくゆれてピンクの花びらがいっぱい、いっぱい、ふってきて風の中でざぁぁぁぁって!
きれい……まるでお花の嵐のよう……。
風がやんでも、ピンクの花びらはひらひらってわたしとルゥに落ちてくる。
「この木はパパが、わたしを生んだ人のためにうえたの。
すごくキレイ……ねぇ、ルゥもそうおもわない?」
ルゥのほうを見ると、なんだかぼーっとした目でわたしを見てたルゥの口がもごもご動く___え?
「え? ルゥ?」
気のせいかな?
ルゥの喉は潰れてるからもちろん声なんて出てないけど、何か言った気がしたの!
「ねぇ! もう一回! もう一回言って!」
わたしは、ルゥのお腹にひびかない様に少し揺すってみたけどルゥったらなんだか少し笑って口を閉じちゃう____もう!
「ルゥ! ルゥった____あ」
ルゥ、またうとうとして……お薬ってすごいのね。
お腹を縫い終わってからずっとこんな感じ。
「ルゥ……ごめんね」
わたしは、ルゥにかけたブランケットの中にもぐってお腹にきおつけながらぎゅってする。
体が冷たい。
「ふぇ……ぅぅぅ…」
胸が苦しくて、涙が出てきちゃう。
わたしがちゃんとしないから、ルゥ、おなか破けちゃって、あんなに痛い思いして……こんなダメな______ぎゅ。
「ぐじゅ……る"ぅ……」
ルゥが、短いおててがぎゅってしてブランケットから顔をだしたわたしをみて少しだけ口をうごかして______ちゅ。
ほっぺに冷たいのがさわる。
「わっ、るぅ!?」
ルゥは、また少しだけ笑ってそのまま目をとじちゃった。
わわっ!
ルゥが、ルゥからキスしてくれた!
うれしい!
うれしくてほっぺ熱い、こんなのどうしよう……お胸がきゅうきゅうする!
わたしは、寝ちゃったルゥのお口にキスをかえす。
ああ、ルゥ……わたしのルゥ……わたし以外の誰にもこんな事させない!
パパにもロノバンにも文句なんていわせないくらいちゃんと躾けて、もうこんな目には遭わせない_____だから。
「お前はずっとわたしのモノよ?」
目をとじたルゥは、ぴくりとも動かなかった。
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