Under the cherry tree③

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Under the cherry tree




 ちゅ。



 ルゥのもるっとしたぷにぷにに、ちゅってする。



 ずるんってしちゃったから元通りになるかとても心配だったけど、うん、大丈夫。


 ……かぷってしてみたけどいつもの通り柔らかい。



 「うん、もう完璧ね!」


 そう言ったら、ルゥはいつもみたいにぶすってして『ううぅ……』って。



 「なぁに? ルゥったらお腹空いてるの?」 



 ルゥは、ぷいってしちゃたけどお腹はキュウって鳴いてるよ?


 そうよね、もうすぐお昼だもんお腹空くよね!


 わたしもお腹ペコペコだもの。


 うふふ、ルゥったらお腹の音聞かれたの嫌だったのかな?


 ぷいってしちゃたままこっちをみない。



 「よ~し!」



 わたしは、こっちをみないルゥのおててを捕まえて持って来たミトンを被せる。  


 「ふっ!? ううう!?」  


 ルゥは、びっくりして不安そうにわたしを見上げてる……そういう顔をしている時のルゥってすごく可愛い! 



 「うふふ、今日はねお外でねランチを食べるのよ!」



 そう言ったら、ルゥはきょとんってしてる。



 「わかる? おさんぽよ? お庭のチェリーブロッサムのお花が全部咲いたの! だからね、今日はわたしとルゥとマンバでお花を見ながらランチよ! とってもキレイなんだから!」


 マンバはロノバンのところにランチボックスをもらいに行ってるから、その間にわたしはルゥにブーツと……。


 カチン!


 パパに貰った鎖のリードをルゥと赤い首輪の金具につなぐ。


 「ああ、ルゥ……ブーツもリードもすごく似合ってる!」



 ぎゅーってしたら、ルゥは苦しそうにもごもご。


 あ、前髪が邪魔だからリボンつけなきゃ!


 きゅって、ルゥの前髪を赤いリボンで結んだら完成!



 「行こう! マンバが上で待ってるよ!」



 ぐって、リードをひっぱったらルゥは『ギュ!』って言ってマットレスからそっとタイルの床に片っぽだけ足を下ろす。



 「う?」



 ルゥは、はっとした顔をして全部の足を床につけてちゃんと4つの足で立ってみせた!


 「驚いた? ブーツのヒズメに滑り止めのゴムをはったの! ケリガーにも習って、頑張ったんだから!」


 わたしは、ルゥのリードを引いて階段をのぼらせる。



 「ふっ! ぐっ!」



 ルゥは、お尻をふりふりして汗びっしょりになりながら一生懸命に階段をのぼる。



 「ルゥ! もう少しよ! 頑張って!」


 やっぱり、ブーツをはいていても手足の短いルゥには階段は大変みたい。



 「んう!!」



 やっと、ルゥの前足が一番上の段にかかる。



 「うん! 良くできました~頑張ったねルゥ!」



 わたしは、はぁはぁして汗びっしょりルゥの顔をナプキンでふいてからドアを開ける。



 「ぅぅぅ……」



 ドアが開くとルゥは『まぶしい』って、目をぎゅっとするの。


 そっか、ルゥってこのところずっと薄暗い地下室にいたからおめめがびっくりしちゃたのね!


 ルゥは、しばらく目をしばしばしてたけどちょっとずつリードを引くようにしたらなんとか歩きはじめる。



  カポ。



   カポ。



 ルゥが歩くと、ブーツのヒズメが床をカポカポならす。



 「うふふ、何だかお馬さんみたいね!」



 廊下を真っ直ぐ歩くと、お庭へのドアの前でマンバがランチボックスを抱えてニコニコしてペコッておじぎする。



 「おまたせ、マンバ」


 「いいえ、お嬢様。 ではまいりましょう」



 マンバは、さっそくドアを開けた。



 チチチッ、ピピピ!


 鳥の声。

 青いお空、ポカポカのお日さま。

 雪もすっかりとけて緑がいっぱいのお庭。


 凍ってたパパの池も、あったかな風にゆれてキラキラしてる。



 「さっ、いこ……あれ? ルゥ、どうしたの?」


 ぐっ、てリードを引くけど何だか驚いた顔をしたままのルゥはピクリとも動かない。


 「ルゥ? ルゥ?」


 「お嬢様」



 リードをぐいぐいしてたわたしのてを、マンバがそっと掴む。



 「お嬢様、ルゥ様は久々に地下室からお出ましになったので外の様子がすっかり変わってしまったのに驚かれているのだと思います。 ここは、焦らずゆっくりとルゥ様のペースに合わせましょう」

 


 マンバは、ニコニコ言う。



 「ルゥのペース?」


 「はい、主はお嬢様ですが『だるま』だって生き物ですから時にはルゥ様のお気持ちを考え『待つ』と言うのも大事な事ですよ」


  そっか!


 今までもちゃんと考えてたつもりだったけど、あまり『待つ』ってしたこと無いかも。


 それからわたしとマンバは、ルゥが歩き出すのを待ってからようやく出発した。 


 カポ!


   カポ!



 お庭にしかれた黄色いレンガの道を、ルゥのブーツのヒズメがカポカポ。


 ルゥったら、首をめいっぱい伸ばしてキョロキョロして……うふふ……かわいい。


 でもね、もう少ししたらもっとびっくりするんだから!


 「お嬢様」



 そばにいたマンバが、わたしの前に出てきておじぎする。



 「なぁに? マンバ?」


 「わたくしめは、先に行って準備致しますのでお嬢様はルゥ様とゆっくりいらして下さいませ」



 『うん、分かった』って応えたら、マンバはランチボックスを抱えて小走りでかけていく。

 もう、そんなに急がなくてもわたしとルゥしかいないんだからゆっくりで良いのに!


 マンバもパパみたいに仕事が好きなのね……。


 わたしは、走って行ったマンバをキョトンと見てるルゥのリードを引っ張りすぎないように気おつけながらゆっくり歩く。



 ルゥに合わせるって、こんな感じでいいのかな?



 カポ、カポ、カポッ!



 急に、ルゥがピタッととまってジッと見る。



 パパの池。



 この池は、パパが鯉を飼うためのものでとても大きくて冬には厚い氷がはる。


 この池。


 わたしも落っこちたし、ルゥも落っこちたのよね……。


 ルゥはそれを思い出しているのかな?


 何だかとっても悲しそうな目で池をみてる。



 「ルゥ、池の氷すっかり無くなっちゃったね。 もっともっと暖かくなったらパパに聞いてボートを出してもらおうね! きっと楽しいよ?」

 

 ルゥは、池をじっと見ながら『ぅぅぅ』って、言うけど何だかほっとくとこのままずーと動かない気がしてわたしは少し強くリードを引っ張ってルゥを歩かせる事にした。


 だって、ルゥは池が好きなのかもしれないきど今日の目的地は違うんだから!


 ゆっりだけどまた、ルゥのヒズメが黄色のレンガをカポカポ鳴らす。


 お庭にしかれた黄色いレンガの道は、パパがオズの魔法使いの本が大好きなわたしのためにケリガーに言って敷いてくれたの!


 わたし、ずーとお話しのドロシーが犬のトトやブリキやカカシやライオンと黄色いレンガの道を楽しそうに歩いてるのいーなーって思っていだけども犬に負けないくらい可愛い『だるま』とちょっと先に行っちゃったけど『ヒミツのともだち』の執事と一緒だもの! 


 きっと、今のわたしはドロシーにだって負けないくらいドキドキワクワクしてるもの!


   カッポ。


      カッポ。



 黄色いレンガの道をわたしとルゥは歩く。


 もうちょっと!


 あのもりあがった所をこえたら_______。


 ひらり。


 あ。



 ピンクの小さなハートが、あったかな風にふかれてひらひらルゥの真っ黒な髪の毛のうえにおちる。


 「ルゥ! 見て! すごいでしょう?」


 わたしは、まだ芽の出ていないケリガーのチューリップ畑を眺めていたルゥのリードをグイグイ引くとようやくルゥはこっちを見てそれから____。


 「あ"ぁ……? ぁぁっ……!」


 真っ黒な目をいっぱいいっぱい広げて……ルゥったらそんなにしたらおめめ落ちちゃうよ?



 チェリーブロッサム。


 まるで、ピンクが爆発したみたいに数え切れないくらいの花を咲かせて風にふかれて落ちた花びらが緑の芝にピンクのじゅうたんをつくってる。


 「キレイ……昨日よりもお花がいっぱい……」



 あ。


 ピンクのじゅうたんの上で、白いシートを敷いてたマンバがこっちに手を振ってる!


 きっと、ランチの用意ができたのよ!


 「ルゥ! いこう!」


 リードを引くと、ルゥは真っ直ぐチェリーブロッサムのほうを見て一生懸命に足を動かす。



 うふふ。 

 そんなに慌てなくても木は逃げたりしないのにね?



 チェリーブロッサムのところについたわたしは、リードを木の根元のところにあるフックに引っ掛けていつものお皿にポッドからいつものオートミールを入れてルゥにだしてあげる。


  ロノバンが『コレは、だるまの餌としては栄養が良いほうです!』なんて言ってたけどいつも同じじゃルゥだって飽きちゃわないかな?


 「お嬢様、お食事の用意が出来ております」


 「うん! 今行く! じゃ、ルゥもちゃんと食べるんだよ?」


 ルゥの頭を撫でてそういうけど、ルゥはぼんやりとチェリーブロッサムを見上げたままピクリとも動かない。


 キレイだもんね、ルゥだってゆっくり見たいよね!


 わたしは、そっとルゥから離れてマンバの用意してくれたロノバン自慢のランチを食べる。


 わぁ!


 ツナとサーモンのサンドウィッチにコーンスープに……あ、チェリーパイもある~みんなわたしの大好物ばかり!



 ロノバン!


 ありがとう!



 「さっ、マンバも座って」


 「え? しっしかし……!」


 「もう! ルゥとわたし以外だれもいないんだから、今は『おともだち』でしょう?」



 そう言ったら、マンバはやっとシーツの上に座ってくれたの。



 「はいどうぞ!」



 わたしは、広げてあるランチボックスからサーモンサンドウィッチをお皿に乗せてマンバにあげる。


 「え、あのっ」


 「?」



 お皿を受け取ったマンバは、とってもびっくりした顔をしてサンドウィッチとわたしを見てビクビクして……どうしたのかな?


 「どうしたの? サーモン嫌い? ツナががいい?」


 「いえ! いえ……わたくしめのような者がこのような! もったいないです!」


 マンバは、一体何を言ってるんだろう?


 『もったいない』なんて、サンドウィッチならロノバンに頼んでちゃんとマンバの分もあるのに……へんな事言うのね?


 「いっぱいあるんだから、ちゃんと食べなきゃ! 残しちゃったらロノバンが悲しむわ!」



 わたしがそう言って、やっとマンバはサンドウィッチを食べてくれた。



 「おいひぃ……」


 「でしょ~、ロノバンの料理はとても美味しいのって、え? マンバ?」


 マンバの大きな黒い目からポロポロ涙が零れてる!


 「まっ マンバ!? どうしたの?? たまねぎ辛いの??」


 あわててミルクをカップに入れようとしたんだけど、マンバは口いっぱいにサンドウィッチを詰め込んで『おいひぃ おいひぃ』って……よっ、喜んでるならいいんだけど……。


 それから、サンドウィッチを二人で食べてデザートのチェリーパイを食べようとしたんだけどね。


 「あ、フォークが……」


  マンバが、ランチボックスを探すけどデザートのフォークが見つからないの。


  ロノバンったら、入れ忘れちゃったのね。



 「すぐにとってまいります!」


 「え? いいじゃない、そのまま食べようよ~」


 「そんな、素手でなんてはしたないです!」


 「え~誰も見てないんだから____」


 「ダメです! わたくしめが戻るまで手をつけてはなりませんからね!」


 マンバは、そう言って黄色いレンガの道を屋敷の方へ走ってく。


 「もう、マンバってば」


 わたしは、木の幹にもたれてさっきから木を見上げてるルゥを見る。


 ルゥ、オートミール全然食べてない。


 うふふ、食べるの忘れちゃうくらいチェリーブロッサムのお花が気に入ったのね。


  あったかい風が、ふわりと吹いてピンクの花びらがざぁぁって……キレイ。


 

 あ。



 お腹がいっぱいで、だんだん眠くなっちゃう。


 「ふぁ……少し……だけ……」


 マンバが戻ってくるまで……ちょっとだけ……。



 ぽかぽかのお日様に、チェリーパイのあまいにおいがする。



 まぶたが、おもくなって……ねむい……。



 あ。



 ルゥがこっちみてる……。


 マンバがフォークを持ってきてくれたら、ルゥにもチェリーパイを分けてあげよう……きっと……きにいる……と おも。

 


 ジャラ。


 ……ん……なに……つめた……?


 ギリッ!



 「………がはっ!? あ"ぐっ!? あ"っ はっ !?!?」



 ぐびっ 何コレ!?



    くるじい"っ!?



          いぎがっ! 


  でぎなっ!?


 

 ギギギギッツ!


    ガリッ!

 ガリッ!



 どれ"な"い” やらっ どうじで?



 どうじて? 


   どうじて? 



  なんれっ? ぐるじぃよ……!



 「る"ぅ!」


 ギッ!



 「あ"……ぁ」



  鎖のリード噛んで引っ張るこわいかおのルゥ。



     ピンクのひらひら。


   あたまぼーっとする。



 もう ちから はいらない。




 ジャラッ!


 「っ ひゅっ!?  げほっつ! げほっつ!!! げほっつ!!! や"あぁ!!!」


 急に、首に食い込んでいた鎖のリードが緩んでわたしはルゥを突き飛ばした!



 「る"ぅ! なんれっ……うぷっ!? うげぇっ うええええっつ!!」


 苦しくて気持ち悪くて、いっぱい食べたの全部吐いちゃう!


 あああ……どうして、なんで!


 「うえっ……グジュっ……なんでっ ね"ぇ、どうじてっこんなのないよっ!」


 わたしに突き飛ばされて、ピンクの花びらにうまっちゃってたルゥがもぞもぞ体起してこっちを見た。



 「ウウウ……あっ、ぁ……」


 ルゥは、真っ青な顔で口をパクパクさせて少しまた少しわたしに近づく。


 「うぁっ……ヤダっ……こないでっ!」


 わたしは、ルゥがこわくて、けど足に力が入らなくて花びらの中でぺたんてなりながら後ろに後ろに逃げたけど……!



 サク。



   サク。


 「ぁ、ゃっっ!」




 ルゥのヒズメが裾を踏んだ!




 「やぁぁぁぁ!!」



 ルゥは、そのままわたしのうえをまたいで立って________ぽたっ。



 ほっぺに、何かおちる。


 

 「うあっ……ああ! ああああ!」



 ぼたぼた。


 ルゥが泣いてる。


 わぁわぁ大声あげて、わたしのすぐ横の地面をヒズメでがりがりして、涙と鼻水とかよだれで顔がぐちゃぐちゃ。


 苦しかったのも、痛かったのもわたしなのになんだかルゥのほうがつらそう。


 「コホッ! な"んでこんな"こどし した の"?」



 鎖が喉にぎゅーってしたてたから上手く声が出せないわたしを見て、ルゥはすこしはっとした顔をして口をあうあうしてまたぼたぼた涙をこぼす。



 ルゥ。


 そんなに泣いたらおめめとけちゃうよ……。


 

 「ルゥ、わた はお前のなに?」




 泣かないで、おねがいよ。


 

 「こんな事する んて、悪い子!」



 ぎゅーってしてあげたい。



 「悪い子はどうなるか覚えてる?」


 わたしはルゥの下から這い出して、泣いてるルゥを思いっきり突き飛ばす。


 そしたらルゥは慣れないブーツのせいで、ピンクの花びらの上にころんて仰向けにころげた。



 ガッ!



 「ぎゃっつ!?」



 わたしは、起き上がろうとぱたぱたしてたルゥのおまたのところを思い切りふんずける!


 ここね、前に罰でルゥのおしりを叩いたときにロノバンが教えてくれたすっごくいたところなの。


 

 グリッツ!



 「ふぎゃぁ!?」



 かかとでぐりってしたら、ルゥの顔が真っ青になって変な悲鳴をあげる。


 「罰よ、こんな悪い子にはもっと、うーんと罰をしなきゃ……」



 ルゥが、脅えた目でわたしを見上げてぼろぼろ涙をあふれさす。



 かわいいルゥ。


 

 「許さない……許してなんかあげないんだからっ!」



 どちゃ!



 「__________!!! っっ_______!!!!」



 ルゥは、真っ青だった顔を息もできないくらい真っ赤にして口から泡をぶくぶくする。



 あれ?


 袋つぶれちゃった?


 足をどけてみたけど……うん黒くなってるけど大丈夫じゃないかな?


 わたしは、固まったみたいに動かないルゥのリボンのついた髪を引っ張ってころんってしてる体を起してお座りさせた。



 「ルゥ、なんであんなことしたの? 痛かったの苦しかったの……こわかったの……ルゥは……ルゥは………」




 わたしの事キライ?


 


 「ふううぅぅぅ……ぐっ、あああっぎっ!」



 ルゥはがたがた震えて、歯もないのにギッする。



 「そう……もう一度、最初から教えないといけないのね」


 

 わたしは、ルゥの首輪からカチッて鎖のリードをはずす。



 ジャリッツ!



 「がっ……あ"ぎっ!」



 ルゥの首に鎖のリードを巻きつけてぎゅーってする。



 そうしたら、ルゥの顔が赤くなってどんどん黒っぽくなってく。



 「ルゥ、くるしい?」


 「あ" ぅ カハッ!」



 お口からよだれ、トロトロしている……。



 「……! ぁがっあああああああああああああああああ!!!!」



 ドン!


 「!?」


 ルゥが大声あげて体当たりしてきて、わたしは花びらの中にどすんっておしりをぶつけちゃう!



 「っ、たぁ!」


 

 サクッ!



 恐い顔したルゥが、ギッてしならがらぺたんってしてるわたしに向ってヒズメで花びらをサクサク歩いていくる……。


 あんな顔、初めて……呻って歯茎ギッてして目が決闘で黒いだるまと戦ったときよりずっとずっとするどい。



 ああ……ルゥ、ルゥは、わたしの事たおそうとしてるんだ!


 「おっお嬢様! ルゥ様!?」



 すぐ後ろでマンバがびっくりして、慌ててわたしとルゥの間に駆け込んで手をおおきくひろげる。



 「お嬢様! 一体なにが……あ、その首の傷は!?」


 「どいて」


 わたしは、立ち上がっておろおろしてるマンバの後ろでギッしてるルゥを睨む。


 ルゥ……ホントは、いつでもこのくらいの事はできたんだ……いまでずっと、ずっと、いい子のフリして……!



 ルゥ、本当に悪い子……!


 「おっお嬢様! ルゥ様はきっと!」


 「だまって!」



 どなったわたしに、マンバがびっくりしてるの押し退けて呻り声を上げるルゥの前に立って見下ろす。


 「がぁああああああ!」

 

 ルゥ、わたしの『だるま』。


 いつも不機嫌で名前よんでも返事もしないし、キスが好きなくせに嫌な振りしたり、おしりを拭くだび泣きそうな顔したり、寝てるときも眉に皺がよっちゃうけど、わたしルゥの事好きだし大事にしたいって思って頑張ってきたつもりよ?


 ルゥだって、わたしのこと助けてくれたし、ぎゅってしてくれたし、悲しいときはなぐさめてくれたじゃない……それはウソだったの?



 わたしが縫ったブーツをあんなに喜んでくれたのも?




 『主人として振舞わなければ舐められますよ』




 ロノバンのお髭がふそってした気がした。


 ルゥが呻る。


 恐い顔でギッてして……。



 どうして?

 なにがいけなかったのかなぁ……。


 わたし、ルゥに優しくしてあげたくて死んじゃった犬のルゥよりも幸せにしたくて大事に大事にしてたの。


 パパやロノバンみたいにぶったりとかするの可愛そうだって思って、あまり痛いことはしたくなくて……。


 でも、でも、それがいけなかったの? 


 だって、わたし鳴いてるルゥが可愛くて痛いこと止まらなくなりそうになるの……だから……。



『躾のなされない家畜は知らぬ間に不幸になるのです』



 ロノバン……わたし、やっぱりダメな『ごしゅじんさま』なのかなぁ?



 ズキン。


   ズキン。



 ルゥが、しめた首のところがズキズキする。



 こんなにルゥが悪い子なのは、きっと……。



 「ルゥ」



 ガッ!



 「ぐっ!?」



 わたしは、ギッてこっちを睨んでたルゥの頭を思いっきりふんずけた。



 「お嬢様!?」



 びっくりするマンバの声。


 わたしは、そんなの無視してルゥの頭をもう一回強くふむ。


  ピンクの花びらに顔をうずめてぺちゃんてしてるルゥが、ブーツをはいたおててと足をバタバタするからわたしは動けないように体重全部で頭をぎゅーってする!


 「……ルゥ、わたしはお前の『ごしゅじんさま』なのよ? なのにこんな事してホントに悪い______きゃぁ!?」


 ルゥがわたしの足にふまれたまま、頭をぐいってしたからわたしはそのまま後ろにころげた!


 「がああああ!!」


 ころげたわたしに、ルゥがまたがってブーツのおててを振り上げる!



 「いけません! ルゥ様!!」



 マンバが叫んだ。



 ルゥのブーツのヒズメが、真っ直ぐ落ちてくる!



 ……ルゥ!!


 わたしは、ぎゅっと目をつぶった!



 ガッ!


 耳のもとで地面をたたく音。



 ……い、痛くない……?




 ぼた。


  ぼた。



 「ふっ……うぁっ、ああっ、あああ、あ……」



 ほっぺに落ちる冷たいの。



 「ルゥ……?」



  目をゆっくりあけると、そこにはいつものルゥがいた。

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