Under the cherry tree②

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 4がつ5にち



 不機嫌なリーン



 リーンの様子がへん。


 いつもへんなリーンだけど、この前からなんだかとってもへんなの。


 壁に向ってなんだかブツブツ言いながら親指の爪をガジガジして……。


 ロノバンは、ほっといていいって言うけど何だか心配。


 あ。

 

 今度は、池に話しかけてる。


 どうしたんだろう?


 なんだか怖い。


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 4がつ6にち


 ルゥにブーツをつくる



 ジュゥゥゥゥゥゥゥゥ!


 「がぁ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!」


 叫ぶルゥ。


 どうしよう、こんなつもりじゃなかったの!


 ただ、ルゥとお外でおさんぽがしたかっただけなのに!


 「ロノバン! もういい! 止めて!」


 「しかし、お嬢様……」


 ロノバンはお髭をふそりとして、困ったかおをする。


 「止めて! 命令よ!」


 わたしがギッて睨んだら、ロノバンは『仕方ないですねぇ』って言ってルゥから離れた。


 「ルゥ! ルゥ……ああ、ごめんなさい!」


 「ぐっ……い"っ!?」


 ルゥの右足のぷにぷにの所。


 熱い鉄のカップが嵌められて、じゅうじゅうしてる。


 「お嬢様、装具をつけるためにはアタッチメントが必須……その型にはめるにはこの工程が___」


 「いや! だめよ! こんなのダメ!!」


 わたしは、ルゥのぷにぷににかぶされてた熱いカップを掴む!


 手がジュてして痛いよぉ! 


 「ぐぎゃつつつ!!」 


 引っ張ったら、ルゥのぷにぷにの柔らかい皮がメリッていってカップにくっついちゃう!


 「お嬢様!!」


 控えていたマンバが、わたしの手からカップを払い落とした!


 「お嬢様! お手が!」


 「わたしはいいの! ルゥが、ルゥが……」


 ルゥは呻りながら、壁の方まで逃げていく。


 ああ、皮が剥けて真っ赤なお肉が……痛そう……!


 「お嬢様! 早くお手を冷やしませんと、痕が残ってしまいます!」


 「わたしよりも、ルゥが大変よ!」


 マンバの手を払って、わたしはルゥの所まで駆け寄った。


 「う"う"う"……!」


 ルゥは、ガタガタ震えてすっかり脅えた目でわたしを見上げる。


 「ごめんねっ、痛いでしょ……もうしない、しないよ!」


 脅えるルゥを抱きしめて、それからマンバにホースを持ってきてもらってお肉が丸見えの足を冷やしてあげる。


 「ふっ ぎっ!! ぐっ……!」


 辛そうなルゥ。


 ごめんね……お外をさんぽする事が出来たらと思って、この前ロノバンの言ってた人にブーツを作ってもらたからソレをはかせたくて……こんな事したかったんじゃないの!


 喜んで欲しかったの!


 「……っ……かっな"……あ"っっ! ……!!」


 え?


 ルゥが、苦しそうにわたしを見て何かを言おうとしている……?


 でも、ルゥは喉が潰れてるってロノバンが言ってたから言葉にならなくてあうあうしている口からはヒューヒューって空気がもれてるだけ。


 「あ"あ"! あ"……ぐっ!」


 ボロボロ泣いて、短いおててのばして……。


 きっと、痛いって助けてって言ってるの……なのに……。


 「ルゥ……かわいい」


 辛いのに、痛いのに、こんなの変なのに。


 おむねきゅうきゅうする……ルゥをぎゅってしてキスしたい……?


 ぐちゃ!


 「う"ぎゃあ"あ"あ"!? ん"ん"ん"ん"!!!」


 わたしは、赤いお肉のむき出しの足のぷにぷにをぎゅってして叫ぶルゥにキスする。


 お口の中で叫ぶルゥ……。


 かわいい……もっと鳴いて?


 「おっ、お嬢様!!」


 マンバが叫んで、わたしはやっと自分がとても酷い事をしているのに気付いた!


 「あ、れ? や わたし なにしてるの…?」


 壁にもたれてたルゥが、ずるずるって床に倒れて動かなくなる。


 「あ。 ルゥ……どうしよう……ごめんなんさい、なんで……ロノバンわたしどうしゃったの?」


 どうして良いか分からなくてロノバンの方を見たら、ロノバンはお髭をふそりとしてにっこり笑ってみせた。


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 4がつ7にち


 お部屋からでない



 わたしは、悪い子。


 ルゥにあんな事して……だから、わたし自分に罰をする。


 ルゥに会わない。 


 とても寂しいけど、きっとルゥもわたしには会いたくないはず。


 ご飯とトイレのお世話だけでもしたかったけど、だめよ……それじゃわたしの罰にはならない。


 『寂しい』が、わたしの一番キライな事。


 だから、わたしは一人ぼっちでいることを選んだ。


 だから、お部屋にはだれも入れない。


 さみしくて、さみしくて、ルゥの地下室に行きたくなる。


 どうしてあんな事しちゃたんだろう?


 ルゥのこと大好きだし大事にしたいのに……。


 わたし、どうしちゃったんだろう?


 きっと、苦しいのに痛いのに……ルゥの黒い目からぽろぽろ涙がこぼれるの見るともっとってなる。


 「お嬢様」


 ドアの向こうからマンバの声がしてドアが、ガチャンて_____え!?


 ドアが開いて、サンウィッチのトレーを持ったマンバがお部屋に入ってくるの!


 なんで?


 ドアの鍵ちゃんとかけたのに!


 「わたくしめは、お嬢様専属の執事でございますからお部屋の鍵も預からせて頂いております」


 毛布に包まって驚くわたしにそういって、マンバはベッドのそばのサイドテーブルにトレーを置いてペコリってお辞儀した。


 「……いらない……一人にして」


 そう言ったんだけど、マンバは出て行こうとしない。


 「でてって!」

 「嫌です!」


 わたしはマンバをキッて睨んだけど、マンバもグッってして動かないの。


 「お嬢様、今日は何故ルゥ様のところへいかなのですか? ルゥ様の事がお嫌いになったのですか?」


 いつもより低い声。


 マンバ……怒ってる?


 「そんな事無いもん! 大好きよ……でも! わたしルゥに酷いことしたもん! きっと怒ってるの……」


 ルゥの痛そうな皮のズルンってなった足のお肉と、泣き叫んでる声……可哀想なのに痛いのに助けてって言っていたと思うのに……。


 ルゥの事を思うと、涙がぽろぽろ出てくる。


 「……マンバ……ルゥどうしてた?」


 「はい、お申し付け通りお食事とお下のお世話をさせて頂きました。 傷のほうも処置を終え落ち着かれております」


 「そう……ルゥ『おちついてる』んだ……」


 ほっとしたけど、なんだかとっても嫌な気持ちになる。


 マンバは、スカーレットのところにいた時はスカーレットのパパの飼っていた『だるま』達のお世話をしていたってロノバンが言っていた。


 だからきっと、わたしよりもお世話は上手なはず。


 こんな酷い事をする『ごしゅじんさま』なんかよりマンバにお世話されたほうがルゥは喜ぶんじゃないのかな……。


 そう思ったら、何だかとっても悲しくなってシーツの上にボタボタって鼻水と涙がおっこちちゃう。


 ぎゅ。


 泣いているわたしをマンバがぎゅってする。


 「グジュ、ま、まんば?」


 「お嬢様、どうかルゥ様を見捨てないで下さい」


 マンバがズズってはなをすする……泣いているの?


 「もう、ルゥ様にはお嬢様しかいません……お嬢様以外だれもルゥ様を愛してなどいないのです……」


 そういって、少し苦しいくらいにマンバはぎゅってする。


 どうしたんろう?


 なんでそんな事、泣きながら言うんだろう? 


 泣かないでマンバ……わたしルゥの事大好きよ……捨てたりしない。


 でも、こわいの……このままだとルゥにもっと酷い事しちゃいそうなの!


 「グジュ お嬢様っ……お嬢様はどうかウチと同じにならないで下さいっ……」


 そう言ってわたしに抱きついたまんまマンバは、とうとうワンワン泣いて泣いて……寝ちゃった。


 わたしは、泣きつかれて寝ちゃたマンバに毛布をかけてあげる。


 急に泣いちゃうなんて、どうしちゃったんだ________ぎゅ。


 寝てるマンバが、わたしの手を掴んだ。


 「……にいちゃん……ごめんなさい」


 そして、とても小さな声で『ゆるして』っていってマンバは寝たまま泣いていたの。


 「マンバ……」


 わたしは、マンバの顔をナプキンでふいて靴を脱がせてちゃんとベッドの上げて燕尾服のベストもボタンを外して楽にする。


 マンバ、わたしの執事。


 わたしとルゥのヒミツのトモダチ。


 「マンバ……わたしがんばるね」


 わたしは、ネグリジェを脱いで動きやすいお洋服に着替える。


 白いシャツにGパン生地のつなぎに長靴。


 コレはケリガーと同じもので、ルゥのお世話をするのに動きやすいお洋服が欲しくてリーンに作ってもらったもの。

 

 マンバをわたしのベッドに寝かせて、そっとお部屋をでる。


 きっと、ルゥ怒ってるよね……。


 わたし、ルゥに酷いことをした……もしかしたらまた嫌われちゃったかもしれない。


 わたしは、自分のお部屋を出てルゥの地下室に行く。


 そうよね……マンバの言うとおり、ルゥはわたしの『だるま』でわたしは『ごしゅじんさま』だもん!


 逃げちゃだめなの……ロノバンだって同じ事言うわ!

 

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 4がつ7にち



 いっぱいぎゅってする。


 いっぱい大好きっていって、いっぱいなめてかんでキスをする。


 ルゥはギッてして睨んでたけど、最後にはちゃんとお世話をさせてくれた。


 ルゥはやさしい。


 わたしが、いっぱい間違っても許してくれるんだもん。


 わたし、今はダメなごしゅじんさまだけどもっと頑張ってお世話ももっと上手くなってルゥのこと幸せにしてあげたい。


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 4がつ8にち



 がんばる日



 「いたっ!」


 縫い物の針が、指にささって血がぷくってなる。


 「う~」


 わたしは、ルゥにはかせるブーツをじっとにらんだ。


 あれから、なんとかルゥに痛い思いをさせないでお外をさんぽさせる事が出来ないか一生懸命かんがえたの。


 あのカップをはめないといけないのは、しっかりブーツを履かせないと上手く歩けなかったりルゥのぷにぷにがこすれてすっごく痛くなるのを防ぐ為だってロノバンは言ってた。


 けれど、あのカップをはめてるほうがもっとずっとルゥを苦しめる事になるかもしれないってマンバは言っていた……。


 だからわたしは、このブーツの裏にフェルトを縫い付けて柔らかく厚みをだしてルゥにもミトンをはかせて隙間を無くしてあげたらあんな痛いカップをはめなくてもいいんじゃないかと思ったんだけど……。


 革って凄く硬い。


 ルゥの黒くてぴかぴかのブーツは、『職人こだわりの革しあげ』ってロノバンがいってた……だからかな?


 内側にフェルトを縫い付けようとするんだけど、針がすべって指をさしちゃう!

 ドアの前で控えてるマンバが、心配そうにこっちをみてるけどダメ!


 これはちゃんと一人で仕上げなきゃ!


 「がんばらなきゃ……!」


 それに、マンバは手を怪我しているんだから無理をさせちゃダメなんだから!


 おととい、ルゥの地下室から自分のお部屋にもどるとなぜかリーンがいてマンバが腕を押さえてた。


 二人とも笑って、大丈夫って言ってたけどマンバの腕あんなにいっぱい血が出て、わたしロノバンに言ってすぐにメンフィス先生に来てもらって縫ってもらったのよ!


 とっても痛そうで、治るまで執事のお仕事休んでってマンバに言ったのにヤダって言うの! 


 マンバってば、これがきっと『頑固』っていうものね!


 だから、わたしマンバに今日はドアの所からこっちに来ちゃダメって命令した。 


 そうして置けば、執事のマンバは動けないからお仕事もできないでしょ?


 マンバは、わたしが革ですべって縫い針を指を刺すたんびにあうあう言っておろおろして『手伝わせて下さい!』って言うけどだーめ!


 今日はお仕事禁止なんだから!


 「ふぅ……」


 朝から頑張ったけど、まだ一個しか縫い終わってない。


 これあと三つもあって、ルゥにはかせるミトンも厚手のにしなきゃ……。


 まだまだいっぱい縫わなくちゃいけないのね……何だかつかれちゃう。


 でも、これが出来たらきっとルゥは喜んでくれるはずだもん!


 わたしは、おろおろしてるマンバのことなんかしらんぷりして一生懸命ブーツの裏にフェルトを縫い付けた。


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 パパとロノバン





 「旦那様、失礼いたします」


 わたくしがそう申し上げますと、旦那様は『入れ』とおっしゃいましたので入室したいしました。


 本日は、珍しく旦那様もお屋敷にいらっしゃいますので定期報告を口頭で行ないます。


 ふぅ、わたくしあくまでシェフだと申して参りましたのにいつまでこのような役目を兼任しなければならないのか……。


 まぁ、それはゴートとの今の充実した生活を思えば対価としては安い物ですがね。


 わたくしは、素早くティーテーブルのセッティングをし旦那様の好物であるダージリンの紅茶とヘーゼルナッツのクッキーを並べ『お茶にしましょう』とお声をかけて書類の山に埋もれる金髪の紳士をティーテーブルまで移動させます。


 「ふぅ……やはり、ロノバンの淹れる紅茶は最高だな」


 「勿体無いお言葉でございます」



 恐らく、寝る間も惜しんでビジネスに励まれていたであろう旦那様から『疲れが取れるようだ』とお言葉を賜りわたくしは嬉しさを表に出さないようにするのに一苦労です!


 全く、お若い頃から変わらない。


 その微笑みで、幾人の女性が胸を焦がした事か!



 「それじゃ、ロノバン報告を聞こう」


 「畏まりました」



 先程までの気だるそうになさっていた旦那様の青い瞳が、さっと引き締まります。


 おお、やはり親子。


 お嬢様の青い目は旦那様そのものでございますね……アレの形質などお嬢様には微塵も受け継がれておりません。

 

 「……そうか……サシャが」


 わたくしの報告を聞いた旦那様は、満足げに微笑み紅茶のカップ口をつけます。



 「はい、お嬢様は日々成長あそばし______」



 カチャン。



 紅茶を飲み終えた旦那様は、カップを置きその深い青の瞳でわたくしを見据え指示いたしました。


 「そろそろ、話す頃合かな」


 ああ、その青い瞳には迷いなんてありません。


 それもその筈でございます。


 あれは、その為の『だるま』なのですから。



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 4がつ15にち


 

 ひさしぶりの日記



 「ふうううううう!!」


 ルゥが、わたしの持ってるブーツを睨みつけてマットレス上で呻り声をあげる。


 「ルゥ! コレは大丈夫なの! 痛くしないからこっちにおいで」 


 そういっても、ルゥはギッてしたまま絶対に動かない。


 

 「ルゥ~……」


 「があああああ!」


 

 マットレスに上がってゆっくり近づくわたしに向って、ルゥってばものすごい顔で吠えるの!



 「大丈夫なの! 見て! わたし一生懸命縫ったの! ミトンだって厚くしてこれなら痛くないの!」


 

 あれから、毎日がんばってわたしはルゥのブーツにフェルトを縫い付けた。


 黒くてピカピカだったブーツは、その所為で表が糸と穴でぼこぼこになちゃったけど見た目なんかじゃないわ!


 ルゥが痛くないのが大事だもん!



 「ぐううう……がっ!? ぎゃぁ!??」



 マットレスの端っこギリギリに下がったルゥをマンバが後ろから捕まえた!



 「さ、 お嬢様!」



 わたしは、急いで暴れるルゥの右のおててにミトンをかぶせてブーツを履かせる!



 カチャカチャ、ギュギュ!


 「ぐっ!?」



 あ、しめすぎゃちゃった!




 すぐにブーツのベルトを緩めてちょうどいいくらいにする!


 うん、思った通り……もう少しミトンを厚くした方がいいかもだけどこれならきっと痛くないかも。


 「ルゥ、どう? これなら……」


 

 あれ? ルゥ、どうしたんだろう?


 暴れていたルゥが、ピタッて動きをとめてブーツを履いたおててをジッと見てる。



 「マンバ、放してあげて」



 後ろから捕まえていたマンバが放しても、ルゥはきちんとお座りしてブーツをはいたおててを少しふって今度はわたしを見上げた。



 「う……ああ? ぐぁああ?」



 ルゥは、一生懸命わたしに何かを言う……きっとコレは何って言ってるのよ!



 「そう、そうよルゥ! これはルゥのためのブーツなの、痛くしたいわけじゃないの!!」



 わたしは、カップで焼けて皮がズルンってしちゃった足いがいはブーツを履かせてみた。


 

 うん。


 いい感じ。



 「こっちの足は、もう少し治ってからだね」



 わたしは、ブーツがぴったりなのがわかったから一度脱がせようとしたら_____。



 「あああ! うああ!」


 急にルゥが、脱がせようとしたおててをぶんぶんしてわたしに向って何か……言ってるの?


 「ルゥ、どうしたの?」



 ルゥは、わたしの横においてあるブーツとわたしの顔をちらちら見てあうあうする。



 「お嬢様、ルゥ様はブーツを全て身に着けたいと仰られているのでは?」


 

 マンバがそう言うと、ルゥは『あっあっ』って言ってマンバを見上げてブーツのおててをふりふりした。


 

 「ルゥ、そうなの? でも、ぷにぷにの皮のところずるんってなってるのよ?

まだブーツを履くのは痛いと思うんだけど……」


 「あっああ! あっあっ!!」


 

 ルゥは『お願い!』って、目をしてマットレスの上でもぞもぞしてわたしの所までずりずりよってくる。


 こんな風によってくるなんて、パーティーのときいらい…一生懸命な目がとても可愛い…!


 「あっ! あぅ!」


 

 やっと、お膝のところまではいはいしてきたルゥをぎゅーってする。


 ふふ……『おねがい』ってしてるルゥ……すごく可愛い。


 あうあうしてる赤い舌が可愛くて、なんでもお願いを聞いてあげちゃいたくなる! 


 「うん、いいよ。 でも、きっと痛いよ? いいのね?」


 

 わたしは、ルゥをおすわりさせて包帯の上からミトンを被せてブーツを履かせてベルトをギュって締める。



 「ぐっ!」



 ルゥは、皺をよせて『痛い』って顔する。


 けど、ちゃんとしないとすぐにずれちゃうしそのほうが痛いとおもうから……。





 

 「できたよルゥ」



 ルゥの前足と後ろ足に、わたしの縫ったボコボコで糸がむきだしのブーツ。


 あーあー最初はあんなにぴかぴかだったのに……もっとちゃんと、キレイに上手く作れたら良かったんだけど……。


 「ふっ! んう!」



 ドサッ!



 「え!? ルゥ!?」



 ルゥったら、いきなりゴロンってしてマットレスから落ちちゃったの!

 


 「ふううう! ぐっっぐ!」


 「ルゥ!」


 わたしは、すぐにルゥを助けようとしたけどマンバがわたしの手をぎゅって掴んだ!



 「ま マンバ?」

 

 「お嬢様、ご覧下さい……」



 マンバは、急に小声になってルゥを指差す。



 あ。



 カッ!



  ズルッ!



 「ふっ! ぐっ!」



 ルゥは、タイルの床にぺたんってしてるけどブーツのおててを片方マットレスに引っ掛けていっぱい汗をかいて一生懸命。



 ああ、ルゥ……ルゥは立とうとしてる!


 後ろ足のぷにぷにズルンってして痛いのに……!


 カツン!



 「うっ、ぎっ!」



 すごく時間が掛かったけど、ルゥは四本の足で床に立った。


 滑らないように力を入れているのね、後ろ足も前足もぷるぷるしてなんだか生まれたての小鹿みたい。


 「ルゥ! 頑張って! もう少し! そう、そんな感じよ!」



 ルゥのブーツの底は、お馬さんに履かせるヒズメと同じもの……もしかしたらタイルみたいな所じゃ滑っちゃうのかな?


 「お嬢様! 見てください!」



 カポ!


   カポ!


 

  カポっ!


 

     ズルッツ!



 ルゥはプルプルしながら、転びそうになりながら少しずつ歩いていく。



 「ルゥ、凄い! 上手だよ! くるってしてごらん、コッチにおいで!」


 

 わたしが、マットレスから降りて床に膝をついておいでってしたらルゥはゆっくりこっちに向いてカポカポ歩いてくる。


 とても辛そう……やっぱりズルンってしてる足痛いのね……。 

 

 「っ……ぐっ……!」



 ルゥ!



 わたしは、一生懸命戻ってきたわたしの可愛いだるまをぎゅっと抱きしめる。



 いい子ね、えらいよって何度も頭を撫でてほっぺにキスしてあげる。



 ルゥの足が治ったら、ロノバンにサンドイッチを作ってもらってみんなでお庭を散歩しよう。




 もうすぐお庭にチェリーブロッサムの花が咲く、きっととてもキレイよ。 

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 リーンとマンバ





 「……っ、黙っていて差し上げます 」



 生意気な新入りは、黒い顔から白い歯を見せて笑う。



 なんという事……失敗した。

 まさか、お嬢様のベッドにコイツが寝ているなんて!


 黒い新入りは、腕に刺さっていたナイフを抜いて窓の外に放り投げた。 


 「リーン様が、お嬢様を殺そうとした事を黙ってて差し上げます」



 振り向いてもう一度、笑顔のまま黒い新入りは言う。


 ああ……気づかれた!


 モウオシマイ。


 ガクガクと腰が抜け、床に膝を着く。


 「子供のおおっお前にんいにっ、ななん何がわかるっ!? おじょっお嬢様はっ、りっりーンのんのん全てっなのに!! いきなりやってきてお嬢様のせせせ専属になって! 誰か触れさせるくらいなららっ!! 言え! 旦那様に言ってりっりーンを殺せ!!」



 まくし立てると、白い歯がにぃっとして言う。



 「いいえ、とんでもない! リーン様は、お嬢様が生まれる前からお屋敷にお仕えしてきたとシェフであるロノバン様に聞きました。 そんな方が自分を殺そうとしたなどと知れば、お嬢様はどれほど嘆かれるでしよう……その様な事は避けなければなりません」



 黒い顔からにぃっとする歯は、恐ろしく白い。




 「何するつもり……?」



 お嬢様と2つばかりしか違わないこの燕尾服の少女は、このリーンより遥かに年下なのに……。


 

 「リーン様」



 膝をつく惨めなメイドを見下す白い歯が、微笑み血まみれの指で顎をなぞり上を向かせる。



 「リーン様の性癖は、シェフから聞いています。 子供……それもわたくしめやお嬢様くらいの女の子がお好きなんですよね?」


 「ぁ……ぅぅ」

 


 こんな少女にはっきりと性癖を指摘されて頭が真っ白になった惨めなメイドを見下す白い歯は、そっと唇で頬に触れた。


 「ひゃううっつ!??」


 「……よかった、肌の色に偏見は無いのですね……」



 ガシッと、怪我をしていない方の手が乱暴に髪を掴み視線を合わせる。



 「ぁっ な に?」


 「何って……お嬢様にこうして頂きたかったのでしょう? わたくしめが叶えて差し上げます」



 そう、言い終わるやいなや激しく頬が叩かれ衝撃で視界がブレ口の中に血が……。


 

 「ふふ……リーン様、わたくしめがこの屋敷に来てから一番可愛らしいお顔されてますよ? 嬉しいのですか? ロノバン様がおっしゃった通り本当に変態ですね」



 幼い少女の口から出る侮蔑の言葉に、体が火照る。



 「お嬢様では無くご希望通りとはいきませんが、いい子にしていれぱ好きなだけ____」


 漆黒の黒い目が______タタタタ! ガチャ!


 「あれ? リーン……え! マンバ!? 手、どうしたの??」


 不意に開いた部屋のドアから顔を出した愛しい愛しいお嬢様が、ご自分の執事の怪我に驚いていると言うのに……この、はしたないメイドの体から熱が引く事はなかった。

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