Under the cherry tree
Under the cherry tree①
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「バカダネ~キミ♪」
真っ赤な唇が引きつった笑みを浮かべて、肩を縫い付ける。
「セッカク、シナセテアゲヨウトシタノニサァ♪ トチュウマデソノツモリダッタろ♪」
真っ赤な唇は『だからあそこを選んだんだろ? それとも、あの子の事がそんなにきにかかるのかい? お人好しだねぇ』 っと、赤い唇は縫われる激痛に叫ぶ俺をせせら笑う。
ああ、痛い……何処もかしこも……それになんだか息苦しい。
ふっと目が覚めて、やっと自分が寝てたことに気が付く。
ふかふかのベッド。
びちゃびちゃのオムツ。
熱い肩の傷。
切られた手足に歯のない口。
薬品で焼かれた喉からは、人語など発声出来るはずもない。
これが俺の現実だ。
俺の上で、やたら体温の高い金色の髪がもぞりと蠢く。
人の体をマット代わりにその子は満足げに寝返りをうつもんだからこんな小さなベッドではカーペットに落ちる事なるだろう。
ずり落ちそうになる小さな体を、俺は動く方の短い手で反射的に引き寄せた。
……なにやってんだ……馬鹿か俺は?
温かくて柔らかい体。
安心しきった寝顔。
……今なら……ここまで接近しているならこの短い腕でも首くらい絞める事は出来る!
「ムリダヨ、キミニハデキナイよ『ルゥ』」
いつの間にか開いてたドア。
この子と同じ金の髪、青い目が柔和に微笑み『ルゥ』を見る。
「ボクハ、ミルメハアルンダ」
優しい声は、俺を凍りつかせた。
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4がつ1にち
エイプリルフール
「ルゥなんかだいきらい!」
「……」
ぎゅ。
「うそだもん……だいすき」
「お嬢様、まだ5秒もたってないですよう!」
リーンが、溜め息をついた。
『今日はエイプリルフールなんですから思い切り嘘をついていいんです!』って、リーンがいうから頑張ってみたんだけど……。
さっき、パパにも同じことしたらすごく可哀想なことになっちゃたもん。
ロノバンが、慌ててパパに『だ、旦那様! エイプリルフールでございます! お気を確かに!』って言ってやっともとに戻ったもの……。
ルゥは言葉がまだよく分からないからぽかんとしてたけど、やっぱりいくら神様が嘘をつくのを許してくれる日でもこんなのダメね。
ぎゅってしてたら、ルゥが短いおててをピコピコさせてうーうーしていやいやする。
放してあげたら、ルゥはひょこひょこしながら離れてく。
やっと歩けるようになったルゥ。
怪我の少し良くなったルゥは、やっぱりいつまでもわたしのお部屋寝かせるのはダメだってパパとロノバンに言われて地下室に戻す事になった。
けれど、わたしはパパにお願いして今までは毛布しかなかったルゥの寝床にマットレスを入れてもらってぼこぼこでざらざらの床もケリガーにタイルをしいてもらたからコレで足のぷにぷにもそんなに痛くならないしお風呂にいれても直ぐにお湯が流せるからお掃除も楽になると思うの!
「ふん! お嬢様に抱きしめてもらってあの態度……家畜の分際で許せません!」
リーンは、ギロってルゥを睨む。
「ふふふ、ルゥはね照れやさんなのよ」
「それでも! ここ数日お嬢様と寝室をともにして、きっキスしてもらって……体中に後が残るまでって……リーンだってリーンだってまだそこまでは……!」
リーンは、床に膝をついてわんわん泣き出しちゃう。
もう!
リーンったら……。
ちゅ。
「はう! おっお嬢様!」
泣いてるリーン目尻にキスしてあげる……ちょっとしょっぱい。
リーンは、目をうるうるして顔も赤くてとろんてしちゃった。
なんだか特別なキスをした後のルゥみたい……二人ともキスが大好きなのね。
「おっ お嬢様っ……!」
床にペタンってしてるリーンが、わたしの手をぎゅってしてうるうるした目で『もっと』ってわたしに顔を近づける。
うふふ、リーンったら大人のくせになんだかわたしよりも小さな子供みたいね。
わたしは、近づいてきたリーンのお口を指でぷにってする。
「ぶぶっ?」
「め! キスするかは、わたしが決めるんだから!」
そういったら、リーンはしゅんてしちゃった。
……何だか可哀想だけど甘やかしちゃダメよ!
お口のキスはご褒美なんだから!
「ところで、リーン……スカーレットの様子はどうかしら?」
わたしが聞くと、リーンはグジュって鼻をすすって立ち上がっていつもみたいにすってお辞儀する。
「はい、スカーレット様はメンフィス先生とお部屋に」
「そう……」
そうね、やっとメンフィス先生が帰ってきたんだもん。
ちょっと寂しいけど、二人だけにしてあげなくちゃ。
スカーレットの嬉しいことは、わたしだって嬉しいもの。
「リーンもう下がっていいわ」
「……うじゅ……旦那しゃまが、皆さんでティータイムをっておしゃって……テラスにご用意が……失礼します……ふぇ……」
リーンは、わぁぁぁぁぁんって泣きながら地下室の階段を駆け上がっていっちゃった。
「ルゥ……リーンどうしたんだろうね?」
マットレスによじ登ってこっちを見ていたルゥが、はぁ…っていってごろんって壁を向いちゃった。
◆
わたしは、ルゥのお世話をしてからテラスにいく。
本当は一緒に連れていきたいけど、テラスは二階にあって階段を登らなきゃだから怪我をしているルゥは置いていかないといけなかった。
階段を登って振り返ると真っ黒な目がわたしを見上げてる。
「ルゥ! すぐ戻るからね!」
わたしは、バチンで電気を消して地下室のドアを閉めてテラスへいく。
今日は、昨日の大雪がうそみたいにとてもぽかぽか。
「サシャ、ちゃんとケープをはおらないと風邪を引くよ」
ダージリンの紅茶を飲みながらパパが困ったかおをする。
「さむくないも~ん!」
ミルクティーもヘーゼルナッツのクッキーもいつもよりとてもおいしい!
「お嬢様、おかわりをお持ちしましょう」
ロノバンが、ミルクティーを入れてくれる。
おいしい……。
「スカーレットのローズヒップも良い香りね」
ガシャン!
スカーレットったら、びくってしてカップを落としてわっちゃった!
「あ あ さっさしゃ ごめんなさいっああああたし」
白い毛布に包まってイスの上でぷるぷるしてるスカーレットは、目にいっぱい涙を溜めてわたしを見てる。
「大丈夫。 おこってないわ」
「ほんと? おこってない?」
わたしが赤くてながい髪を優しく撫でてあげると、スカーレットは『ひうっ!』っていって目を大きくする。
「あら♪ レット、サシャちゃんに撫でてもらってるの?♪」
「おおおっお姉様っ!」
白いガウンを着たメンフィス先生が眠そうな顔でテラスに出てきて、それを見たスカーレットがイスから飛び降りてメンフィス先生にぎゅってして______え?
「あら♪」
メンフィス先生に飛びついたスカーレットは、はだかんぼさんなの!
スカーレットったら、どうして毛布にくるまっているのかなって思ったらお洋服着てなかったのね!
パパもロノバンもおやおやっていって、ニコニコしてる。
メンフィス先生は、はだかんぼのスカーレットに毛布をかけてイスに座ってお膝にのせてあげてロノバンにローズヒップを入れてもらう。
お胸に顔を埋めてうるうるしてるスカーレットは、なんだか赤ちゃんみたい。
かわいい……。
「やぁ、メンフィス。 良く眠れたかい?」
パパがそういったら、メンフィス先生は紅茶を一口のんでニッってする。
メンフィス先生、なんだかとっても楽しそうね。
それからパパとメンフィス先生は、香港でのお仕事の話やたくさんかいた『しんだんしょ』とか『しょり』とかむつかしい事ばかり喋っていてわたしはちょっとつまんない。
スカーレットも、メンフィス先生にべったりだしやっぱりルゥも一緒がよかったなぁ。
ぽかぽかのお天気。
テラスから見えるお庭は、雪もどんどん溶けてレンガの地面が見える。
雪が全部とけたら、ルゥとスカーレットと皆でお庭を歩いてあのチェリーブロッサムの下でサンドウィッチを食べるの!
きっと、あのピンク色の花を見せたら植物が好きなスカーレットはとても喜ぶとおもう!
「______今日中に屋敷をたつわ♪」
え?
「そうかい」
ニッてしてスカーレットの頭をなでてるメンフィス先生。
パパが、びっくりしてるわたしの頭をそっと撫でて『寂しくなるね……サシャ』って!
え? え?
「パパ! スカーレットかえっちゃうの?」
「そうだね」
いや!
せっかくお友達になれたのに!
スカーレットはわたしのなのに!
「そんな顔してもダメよ♪ レットには学校もあるし……なにより」
メンフィス先生のお口はいつもの様にニッてしてるのに、ヘーゼルの目がギラッてして『コレは私のものだ』ってわたしを見る。
「スカーレットぉ~……」
名前を呼んだら、おむねに顔を埋めてたスカーレットがビクってしてゆっくりわたしを見た。
真っ赤なおめめ、くちびるもぷるぷるして顔色も真っ白。
「さしゃ、だいすき……でも、おうちにかえりたいの! お姉様と一緒にいたいの! ごめんなさい! ゆゆゆゆるして!」
サシャだいすき! だいすき!って、言いながらスカーレットは泣いてい泣いてメンフィス先生にしがみ付いて……わたしもなんだか涙が出ちゃう……。
初めはあんなに怖かったスカーレット……今はこんなに震えて泣いていい子になった。
わたしは、イスからおりてメンフィス先生に抱かれてるスカーレットの所にいく。
スカーレットは、『ヒッ!』っていってメンフィス先生のおむねに隠れようとしてる。
いくらおおきなおむねでも顔だけしか隠れないのにね?
さららで燃えてるみたいに真っ赤な髪……メンフィス先生に聞いてもう一度触る。
「スカーレット……お家に帰っていいわよ」
そういったら、震えてた肩がビクンてして涙でふくれちゃた目が『ホント?』っていう。
「うん、わたしスカーレットのこと大好きだからお家にかえしてあげる。 けど一つだけ」
スカーレットの喉が、ルゥみたいにきゅぅってなる。
「わたしとスカーレットは『トモダチ』だよね?」
そう聞いたら、スカーレットは首がちぎれるんじゃないかと思うくらいいっぱい頷いて『サシャだいすき!』ってなんどもなんどもコクコクする。
わたしは、撫でてたスカーレットの髪を思いっきり引っ張った!
「ぎゃっ! さささしゃ????」
ガクンしたスカーレットの首。
「うそつきぃ……」
ざく!
わたしは、ロノバンがスモークハムを切り分けるのに置いてあったナイフでスカーレットの長い髪を切り裂いた。
パパもロノバンもメンフィス先生もみんな凄く驚いたみたいに静かになる。
エイプリルフールなんてきらい。
今日は、神様がどんな嘘でもゆるしちゃうんだもん。
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4がつ2にち
さみしい日
「ねぇ、ルゥ。 スカーレットもうお家についたかなぁ?」
バスタブでお湯につかっていたルゥは、怪我をしているほうの短いおててをふちに引っ掛けてじっとこっちを見てる。
「わたしね、自分以外のこども初めてだったし……ずっと、ずっと……グスッ」
「うう?」
ぽろぽろ涙が出てきちゃったわたしをみて、ルゥがぎょっとした顔をする。
「わた、ともだちになれたっておも、グスッ、れもっ! すかーれっとはちがくて
!」
ロノバンにきいて、頑張ったけど……どこで間違えたのかな?
どうして、スカーレットはわたしを好きになってくれなかったんだろう?
頭の中がぐるぐるして、涙がとまらない。
「るぅ……」
「う"う"う"?!」
わたしはお洋服をぬいではだかんぼになって、じゃぼんてバスタブにはいって怪我をしてる肩にさわらないように後ろからルゥをぎゅってする。
ルゥは少し逃げようとしたけど、いっぱいぎゅーってしたら諦めたみたいに動かなくなった。
「ううう……るぅ……るぅ……」
どこにも行いかないで、わたしの傍にいて!
お前だけはわたしを好きになって!
この日のルゥは、わたしの気がすむまでずっとだっこさせてくれた。
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若き刑事の苦悩
「何故、エステバンへの捜査が出来ないんですか!!!」
市警の刑事ソウル・バトゥスキーは、まだ傷の癒えない腕を包帯で釣りながら上司に食って掛かった。
「ソウル、コレは上からのお達しだ! 私には、どーする事も出来ん! もちろんお前にもな……食うか??」
ソウルは差し出されたドーナツを無事な方の手で払い、ついでに上司のデスクの上のチョコバーやらスナック菓子の残骸を払い落とす!
「おいおい~ソウル!」
「コレを見てください!」
すっかりキレイになったデスクに置かれたのは、純金が使われた腕時計。
「こりゃなんだ?」
「レイニーの時計ですよ……警官になった時に奥さんから贈られた記念日入りの……コレ、誰が持ってたかわかりますか? 持っていたのは_______」
「止めろ、ソウル! 聞きたくない! 今後一切、エステバンに関るものに手出しするな! 私はもうすぐ定年なんだ、残されれた警察官としての時間を平和に過ごしたい! 何事も無くな!」
「グレッグ警視! レイニーが……レイニーが行方不明なんですよ!? それにあの家の住人は何かを隠してる! あそこのメイドはあの写真を見ただけで『彼』が日本人だと____」
グレッグ警視と呼ばれた、でっぷりとした黒人の男は引き出しからチョコバーを取り出すついでに分厚いファイルをデスクに放り出した。
「コレは?」
「お前が入院してる間に起こった事件だ」
ファイル内容は、3週間前にあった船舶火災の報告書だった。
「金持ちが船を貸しきってのパーティーでの火災……生存者0、発見までに3日掛かってる……コレがなんです?」
訝しげに眉を顰めるソウルに、グレッグ警視はチョコまみれの太い指で付箋を指差す。
「顧客リスト……!?」
蛍光ペンで引かれた名前に、ソウルは更に険しい顔をした。
「お前等が探していたのはこの日本人だろ?」
「そんな……なんで?」
ソウルの肩が震える。
「どうやらこの日本人は、このパーティーでボーイのバイトをしていたらしい……まぁ、激しい火災でなぁ……他の客も原型を留めてなくて身元の特定に時間がかかっているんだが『彼』については運よく『右手』の一部……『人差し指』が発見されてな~辛うじて取れた指紋がパスポートデータの物と一致して身元特定だ」
「そんな……そんな筈は無い!」
「ソウル、お前は疲れているんだ……有給はまだ残っているんだろう? もう少し休んでみたらどうだ? ん?」
ソウルは、ファイルを放り出し荒々しく上官の部屋を出て行く。
かんしゃくを起したようにドアを蹴り閉める姿に、同僚の刑事達が騒然とする中ソウルは自分のデスクのイスを乱暴に引いて腰を落とす。
「レイニー……アンタまでっ!」
震える口元から、行方知れずになった組んで日の浅い相方の名前が零れる。
無力感。
圧倒的な権力の前に成す術のない自分。
「まだだ……まだ、あきらめねぇ____」
ソウルは、デスクの引き出しをそっと引く。
その中にある一枚の写真。
写るのは、白い砂浜を臨むプールサイドでソウルと肩を組み微笑む日に焼けた肌の青年。
「××……お前を必ず……」
唇が微かに動く程度。
ソウルは、引き出しを閉めPCのスイッチを入れた。
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4がつ3にち
あたらしい使用人
ロノバンが、今日はあたらしく雇った使用人が来る日だといった。
ゴートが田舎に帰っちゃって、お屋敷のお仕事リーンだけじゃ大変だものね。
リビングでパパとランチの後のデザートを食べていると、コンコンてドアをノックしてロノバンが入ってきた。
「失礼いたします」
ロノバンがお髭をふそりとしてお辞儀する。
「お食事も終わる頃と思い、例の者をつれてまいりました」
「ああ、構わない通せ」
ダージリンの紅茶を一口飲んでパパが言う。
ロノバンは、ドアを少しあけて『入りなさい』っていって_____あ!
「パパっ……あの子!」
パパが、にっこり笑う。
わたしと同じくらいの背の高さ、黒い肌……執事の燕尾服を着ているけれど間違いなの!
「マンバ!」
「はい、お嬢様」
マンバはにこってして、ぺこりとお辞儀する。
「あたらしい使用人はマンバなのね!?」
パパは、にっこりして『そうだよ』って!
「これからはリーンに代わりこの者が、お嬢様の身の回りのお世話をいたします」
ロノバンもふそりと言う。
どうしよう!
うれしい!
「マンバ! マンバもこっちでケーキ食べようよ! ロノバンのチェリータルト美味しいのよ!」
わたしがそう言うと、マンバは困った顔でペコリとお辞儀する。
「申し訳ございませんお嬢様。 ウチ……じゃなくて! わたくしめは使用人でございます。 お使えする『主』と同席なんて恐れ多い事でございます」
「そんな事言わないで……いいでしょ? おねがいよ一緒に_____」
「だめだよ、サシャ」
パパがティーカップをおいて、すこし低い声でいう。
「彼女は、サシャの執事としての大事な役目があるんだよ? 困らせちゃだめだろう?」
「でも、でも、わたし」
諦めきれないわたしに、パパは『使用人は友達とは違うんだよ』って。
どうして?
『パパ、わたし使用人じゃなくてトモダチがほしいの』って言いたかったけど、パパはお仕事があるからって自分のお部屋にいちゃう。
ロノバンとマンバもテーブルの上を片付けてリビングからでて行こうとする。
「そんな顔をなさらないで下さい。 これからはマンバはこの屋敷の敷地に住まうのですからいつでも会えます」
ロノバンはふそりと言って、マンバを連れていっちゃた。
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4がつ4にち
ひみつのトモダチ
「ルゥ! ごはんですよ~」
いつものように、ロノバンの作ってくれたオートミールをお皿に入れあげる。
ルゥは、いつものみたいに少し嫌そうな顔してからぺちゃぺちゃ舐めるはじめる。
今日は、うんちもおしっこもちゃんとしたしおしりもピカピカにふいた!
完璧ね!
「ふぅ」
今日は、朝からいっぱいルゥのお世話をしたから少しつかれちゃた。
わたしは、階段に座ってぼんやりする。
ルゥは、すっかりオートミールを食べ終えて小さくゲップした……可愛い。
……お風呂は昨日入れたから大丈夫、今日は寝る前にまたフランダースの犬を読んであげようかなぁ?
「失礼します」
マンバのこえがして、地下室のドアが開く。
「ううう?」
「ルゥ、覚えてるマンバよ!」
ルゥが少し眩しそうに目を細くして、マンバを見上げる。
階段を下りてきたマンバは、ルゥの前で膝をついお辞儀した。
「お久しぶりです。 ルゥ様……ボルコフがお世話になりました」
「ルゥさま?」
「はい、お嬢様の大切な『だるま様』…同じく誠心誠意お使え申し上げます」
首をカクンてするわたしに、マンバがにっこりする。
よかった!
リーンはルゥのこと凄くキライだからもしかしてって心配だったけど、マンバはルゥのことも大事にしてくれるのね!
「よかったね! ルゥ……ルゥ?」
ルゥは、マンバをみたまま目を大きく開いて口をぱくぱくしてる。
どうしたんだろう?
「……ボルコフと話されたのですね……」
マンバは、あうあうしてるルゥに何か小さな声で言う。
「なぁに? 何の話?」
「いいえ、ご挨拶をしていたのです……お嬢様! ルゥ様! これからよろしくおねがいします!」
顔を上げたマンバは、立ち上がってピシッてきおつけしてにこにこする。
うん、マンバがそういってくれるのは嬉しいけど……。
「お嬢様? どうされました? わたくしめは何か粗相をしてしまいましたか?」
マンバが、何も言わないわたしを見てオロオロする。
「ううん! 違うの……ねぇ、マンバ……わたしマンバにお願いがあるの……」
「『お願い』だなんて! 何なりとお命じ下さい! わたくしめはお嬢様の『執事』なんですから!」
マンバは目をウルウルさせて、とっても嬉しそうにして黒い手でわたしの手をぎゅってした。
「あのね、わたし……マンバと友達になりたいの」
そう言ったら、マンバが急に悲しそうな顔をして『申し訳ありません』って。
「どうして? マンバはわたしが嫌いなの?」
「め、めっそうもありません! そういって頂けるなんて光栄です! ですが……わたくしめは執事で、お嬢様は主でっって、お嬢様!?」
マンバは、急に泣き出したわたしにぎょっとして慌てて燕尾服の胸ポケットからナプキンを取り出してそっとふいてくれた。
「めいれい……めいれいしたらっグジュ……なってくれるの? れもっ、すかーれっとはなってくらなかったヒック」
「お嬢様……」
決闘で勝って命令しても、どんなに頑張ってお世話してもスカーレットは結局わたしの事なんか好きになってくれなかった。
トモダチになってくれなかった。
凄く悲しくなって、涙が止まらなくて、床にペタンってなる。
ルゥが、なにか言いたそうにこっちを見てる。
「お嬢様」
マンバも同じように床にペタンってして、うつむいたわたしの顔をのぞきこんできた。
困ったような、悲しそうなかおのマンバ。
マンバを困らせてしまうなんて……わたし悪い子ね。
「お嬢様、わたくしめが申し上げるのは大変おこがましいのですが……」
「グジュ……なに?」
「はい……あの……ここにいる時だけ、ルゥ様のお世話をする間……だれも見ていない少しの時間ですがそれで宜しければっそのっ……」
マンバがとても小さな声で『お友達に……』って!
「ほんと? ほんとに?」
「はっはい!」
わたしは、マンバの手をぎゅーってする!
パパもロノバンにもみんなにナイショ。
知っているのは、こっちをじっと見てるルゥだけ。
「わたし達ひみつのトモダチね!」
「はい、ひみつのトモダチです」
手をぎゅーってしながら、うふふって二人で笑う。
マンバは、執事でわたしのひみつのトモダチ!
そう思ったらなんだかとってもドキドキしちゃう!
じっとこっちを見てるルゥと目が合う。
うふふ、ルゥったら。
「ねぇ、マンバ! ルゥのおててと足の所ねぷにぷにで触るときもちいの! おしりもぷりぷりなんだよ!」
「ふぇ? あ はい」
ぷにっ。
「!? ぐっ? ぎゃ!?」
わたしとマンバは、ルゥをぷにぷにしたり伸びた髪を編んだりしていっぱい遊んだ。
マンバは、ルゥのお腹がお気に入りみたい……わたしはやっぱりおしりと手のぷにぷにが好き。
リーンにお昼だと呼ばれるころには、ルゥはぐったりしちゃった。
ごめんねルゥ。
でも、コレだけ遊んだらわたしがルゥの事『だるま』では一番好きなの分かってくれるよね!
今日はとても嬉しい日。
いつか、またスカーレットとも仲良くなれたらいいな。
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