a daruma party
a daruma party①
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逃げればよかった。
振り返らなければよかった。
見捨てればよかった。
背中で小さく寝息を立てるその顔に覆いかぶさって、窒息させてやればよかった。
帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい?
どこに?
こんなになっちまったのに?
「Ru」
違う!
俺はそんな妙な名前じゃない!
俺は!
「Ru」
俺を抱きしめるな!
さわるな!
優しくなんてすんな!
どうして…?
俺を攫って手も足も歯も声も奪った奴等のガキの癖に!
お前も俺の事、散々酷い目に遭わせた癖に!
なんで、なんで…そんなに暖かいんだよぉ…。
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a daruma party!
今日は、パーティーの日。
「ようこそ、エステバン家へ」
リーンが、リストでお客様の名前を確認して屋敷の中に通していく。
キレイなブルーのドレスと黒のタキシードを着た人の後ろから、黒い肌の人達が黒い箱に車輪がついたのをガラガラ引っ張って後に続いて何人も何人も!
とにかくいっぱいの人と黒い箱!
「ふう、ドキドキすね! ルゥ!」
わたしは、カーマインのフリルエプロンドレスにフリースのケープをはおってたくさんの人が屋敷に入ってくるのを二階の渡り廊下手すりの所にルゥとそっとしゃがんでみ下ろしている。
「ルゥ! どうかな? わたしドレス似合うかな?」
ルゥはなんだかボンヤリした目でわたしを見上げただけで、『フン』と溜め息をついただけだった。
「もう! ルゥは、赤いリボンとおててのフリルのシュシュが良くにあってるからいいけいど……」
わたしは、ルゥの赤いリボンでツインテールした結び目の少しほつれた所を直してあげる。
最近のルゥは何だか元気が無い。
あんなに好きだったフランダースの犬の絵本を読んであげても、なんだかどこか遠くをみてるみたいにぼんやりしている事が多くなっちゃった。
病気ではないみたいだけど……。
「ルゥ、パパが今日のパーティーはルゥも楽しめるって言っていたから元気出して! わたしも、『子供』にあうの初めてだしちょっと恐いけどきっときっと仲良くなれると思うの!
だから_______」
「おや? こんな所でなにしてるのかな? 可愛い赤ずきんちゃん?♪」
後ろから声がして、びっくりしたわたしはルゥに飛びついちゃった!
「やん♪ そんなに驚かないでよ♪ もっと虐めたくなるじゃないのん♪」
振り向いたら、いつもの白衣とは違う真っ黒なタイトドレスにキラキラのネックレスに白い毛皮のファーをきたメンフィス先生が真っ赤な唇でニッとしながらわたしとルゥを見下ろしている。
「ぐぅぅぅぅ!」
ルゥが、歯茎でギッてしながらメンフィス先生を睨みつけた。
「あは♪ ああ……いい……可愛い……可愛いよぉ~きみぃ~♪」
メンフィス先生は、顔をポッて赤くしてくねくねしてる。
なんだかリーンみたい……。
「ねぇ、ねぇ♪ サシャちゃん! コレ先生にくれない?♪」
急に屈んだメンフィス先生は、ルゥに手を伸ばしてきた!
「や! ダメ!」
わたしは、本当にルゥを連れてかれるような気がして恐くなってルゥにぎゅってしがみ付く!
「え~けちぃ~♪」
メンフィス先生は、オーバーにがっかりして見せてたけど、すぐにぱってかおを上げてヘーゼルの目を細めてルゥの事なんだかぬるっとした目で見ながら赤い唇をぺろってする。
「うふ……あの時の君の声さいこぉだったよ♪ 君の『ソレ』あんまりキレイだったから今でもとってあるんだぁ♪」
真っ赤なマニキュアの指が、ルゥの顎をついってすると急にルゥは汗をいっぱいかいてぶるぶる震えちゃう…どうしたんだろう?
それに、あの時ってなに? キレイってなにが?
メンフィス先生は、いつもの注射をする時みたいに笑ってる。
けど、どうしてかな……いつも恐いけど今はいつもよりもずっとずっと恐い!
どうしようって思ってたら、下の方でわたしを探すリーンの声がどんどんこっちに近づいてきた。
「おや♪ ざんね~ん♪ ペドメイドのおでましだ~♪」
メンフィス先生は、ルゥの顎をついってして口にかるいキスをしてから立ち上がって『もう直ぐパーティーがはじまるよ♪』と言って歩いていった。
「ぶ!? ぶっぶぶぶ!?」
わたしは、なんだか嫌な気持ちになってメンフィス先生のルージュのべったりついたルゥの口をドレスのすそでゴシゴシする!
ルゥは、いやいやするけどキレイになるまでゴシゴシしなきゃ!
嫌がるルゥの口をゴシゴシしてたら、リーンがやってきて 『パーティーが始まりますよ! お急ぎ下さい!』って言った。
◆
「サシャ、こっちにおいで!」
パパが、手招きする。
普段は閉じてる大広間に人人人人人人……見たこと無いくらいたくさんの人がいてわたしとルゥをじろじろみてる。
こわい、何だかとっても恐い……。
リーンに手をつないでもらって、パパのいるテーブルに向っていそいであるいたらリードを引っ張りすぎちゃってルゥが『ぐっ』って言ってる。
ごめんねルゥ。
「パパ!」
あたしが、パパにぎゅってしたらなぜか皆がいっせいに拍手するのよ?
一体なんで?
「ふふ、驚いたかい?」
びくびくしてたら、ぎゅってしてたパパがやさしく背中をぽんぽんしてくれた。
パパは『ちょっとまってね』って、いってわたしを下ろしてお客様たちに右手軽くふる。
すると、あんなにうるさかった拍手がぴたってとまちゃった。
「ようこそ皆さん、先だっての問題もあり心穏やかでない方々も今宵は互いに持ち寄り愛で語いましょう」
パパがお客様たちに向ってそう言うと、もう一度大きな拍手が鳴り響いてわたしは思わず耳を押さえちゃう。
「サシャ、サシャ……大丈夫かい?」
「う、うん」
パパがわたしをイスに座らせて髪を撫でてくれた。
こうしてもらうと、とても安心する。
「ドレスよく似合ってるよ……天使……いや、今日は赤ずきんちゃんかな? それに、ルゥ? 今日は大人しいんだね全然気配が無かったよ~」
ルゥの頭をパパが撫でたけど、ルゥはいつもみたいに呻ったりしないでパパの事なんか見えないみたいにじっと別のところばかり見てる……なんだろう?
わたしは、ルゥの見ている方向を向いてみるけどい_________え!? なに!? アレって!
パパが『そうだよ』って、笑う。
クロスのかかった丸いテーブルでお食事してる太った青いドレスの女の人の足元にいるの『だるま』だ!
それも女の子の!
「周りをよーく見てごらん?」
驚くわたしに、パパが言う。
「ああ!」
わたしは、思わず大声だしちゃった!
だって、だって……いっぱいいるの!
あそこのテーブルにも、向こうには黒いベビーカーにのって黒いフリルのよだれかけしてる子もいる!!
「あれ? でも……」
「気が付いたかい?」
わたしの肩をだいてパパが指差す。
「おててと足が……だるま事に違う……肌も」
見つけた『だるま達』は、みんなおててと足の長さが違っててルゥより長い子やちぐはぐな子お肌の色も黒や黄色に白い子も……あのベビーカーに乗ってる子なんて無いの!
あるのは首と胴だけでつるんてしてるの!
「ああ、アレこそホントの『だるま』だね」
パパが、ほうって息をついてベビーカーの『だるま』を見る。
すると、こっちに気が付いた黒いベビーカーがきゅるりと動く____え?
ベビーカーを押してるのって……。
「ごきげんよう、エステバン伯」
「やぁ、メンフィス。 白衣以外の君を見るのは初めてだね良く似合っているよ」
パパは、メンフィス先生の手の甲にキスをした。
「ききまして? エステバン伯、お嬢様が今回はちゃんと採血なさいましたのよ?」
メンフィス先生は、パパににっこり笑って言う。
「本当かい? サシャ! 注射できるようになったんだね! パパ嬉しいよ!」
パパはと、ても喜んでわたしのほっぺにキスをしてぎゅーってしてくれる。
それを見ていたメンフィス先生はいつもみたいにニッてした……イジワル!
もぞっ。
黒いベビーカーの『だるま』がもぞってして、真っ白なお腹がぺこぺこしてる。
なんだか息をするのが苦しそう……。
「このコどうしたの? とてもくるしそう……」
「ああ、コレは昨日悪さをしたらしくて罰を受けたばかりなのよ」
「罰? この『だるま』はメンフィス先生が飼ってるの?」
「いいえ、コレは預かりモノなの」
メンフィス先生は、パパの前ではまるでメンフィス先生じゃないみたいな喋り方をする。
なんでだろう?
「コヒューコヒューコヒュー」
ベビーカーの『だるま』は、苦しそうに口をぱくぱくさせてる……なんだかとても可哀想。
「このコは目を怪我してるの?」
わたしは、ぐるぐる巻きにされた目のところの包帯に血が滲んでいるのを見てメンフィス先生に聞いた。
「ああ、それは罰を受けたからそうなったの」
「髪の毛がないのも?」
「それは、抜けちゃったの」
ベビーカー『だるま』は、もぞもぞしながら苦しそうに息をする。
「大丈夫なの?」
「ええ……そうね、鎮静剤をあげておこうかしら?」
メンフィス先生は、ベビーカーの背中の所から小さな銀のジュラルミンケースを取りだしてカチャカチャと何かを組み立てて苦しそうな『だるま』の首にぐって押し付けてパシュンてした。
そうすると、『だるま』はヒュッツて息をしてそのまま動かなくなる。
死んじゃったんじゃないかって、びっくりしたけどお腹がゆっくり動いているから大丈夫よね?
「……ふふ、意図的にロックインをつくったのか……ロノバンらしい」
パパが、小さな声で言ったのをわたしは聞いた!
「え? このコはロノバンが飼ってるの!!?」
すると、パパはちょっとバツのわるそうな顔をして『うん』だって!
もう!
ロノバンってば!
わたしに一度だってそんな事言わなかったのに!
ロノバンと聞いてメンフィス先生は、ふぅって溜め息をつく。
「まったく、あのコックは自分で加工するのはいいけど加減を知らないから……毎回慌てて連れてくるんですのよ? エステバン伯からも______」
言葉をつづけようとしたメンフィス先生の顔が、急に引きつったみたいになっちゃった。
どうしたんだろう?
「もう直ぐ、皆さんが着く頃じゃないのかい? メンフィス?」
パパが、わたしの髪を撫でながらニコニコしてメンフィス先生に言う。
「えっ、あ そっそうですわねっ! じゃぁ、また後でご挨拶しますわエステバン伯!」
そういってベビーカーをぐるって回したメンフィス先生は、慌てたみたいに『さ、行きましょうゴート』っと言っていっぱいの人の中に混ざってみえなくなった。
……あの子もゴートって名前なんだ……。
わたしの執事だったゴートが、急に屋敷を辞めて田舎に帰ったってロノバンに聞いてがっかりした時の事を思い出しちゃう。
「ゴート、元気かなぁ……」
「ゴートは元気だよ」
パパが、優しい声で言う。
「……もう会えないのかなぁ? わたし、ゴートとお絵かきするのが大好きだったの」
そう言ったわたしに『それはもう無理だね』と、言ってパパが少し困った顔をした。
「失礼いたします」
パパと話していると、お料理の乗ったワゴンがわたしとパパのテーブルの前で止まる。
え?
この人誰!?
リーンじゃない!!
わたしは、びっくりして声が出なくなる!
「ああ、驚いたかい? 今日はこんなにお客さんが来てるだろう? リーンやロノバンだけじゃ対応なんて無理だからお爺様の屋敷から人を借りたんだよ」
知らないメイドさんは、お料理のお皿を次々にテーブルに並べるとお辞儀をしてからまたワゴンをおして別のテーブルへといってしまった。
「うわぁ~キレイ! まるで絵みたいね! それにおいしそう~」
「ふふ、ロノバンの自信作だからね……きっと美味しいよ」
真っ白なお料理のお皿にのったお肉やお野菜それにソースやなんかがキレイにならんでまるで……。
「あ! コレ『赤ずきんちゃん』だ! お婆さんのお家に行くところね!」
今日のロノバンのお料理はまるで絵本の絵みたい!
わたしは、お婆さん家の屋根を食べてみる。
おいしい~!
にんじん苦手だけどこれはとても美味しい!!
甘くてやわらかい……そうだ!
わたしは、屋根のにんじんを小さいお皿に入れてイスから下りる。
「サシャ! お行儀が悪いぞ!」
「ちょっとだけ、ちょっとだけルゥにもあげたいの!」
おねがいしたら、パパは『しょうがないな』て言ったからわたしはテーブルの下に潜り込む!
「ルゥ! ルゥ! このにんじん柔らかいからルゥもきっと___あれ? どうしたの?」
クロスのかかった薄暗いテーブルの下で、ルゥは顔を青くして目にいっぱい涙を溜めてちいさく体をまるめてガタガタ震えている。
「ルゥ! なに? なんで? なにか恐いの見たの?」
わたしは、ルゥのそばに張っていってブルブルしてるツインテールの頭をなでてあげた。
「ふっううう!」
「あれ? ルゥ?」
ぎゅ!
ルゥが短いおててで、わたしのお膝にのぼっておなかの所にぎゅってした。
……うわぁ~はじめて、はじめてルゥが自分から甘えてる?
「ぐじゅ……ううう!」
「どうしたの? 泣かないで……だっこ? だっこしてほしいの?」
おなかのところで震えてるルゥの頭をぎゅーってしてあげる。
……ああ、今日のルゥは今までで一番かわいい!
もっとぎゅってしてたかったけど、パパが『もう出てきなさい』っていうから涙と鼻水でぐちゃぐちゃのルゥの顔をナプキンでふいて、にんじんを食べさせてから二人でテーブルの下からでてきたの。
パパが、真っ赤に泣き腫らした顔のルゥに『君は幸せなだるまなんだよ』っていった。
◆
お食事をしているあいだ、パパのところにいっぱいの人がごあいさつしにやってきた。
『びじねすのおともだち』や『だるまなかま』って、言う人たちなんだって!
「ふぅ、ごめんねサシャ」
ようやくお客様がとぎれて、パパはやっとわたしのほうを向いてくれる。
「食事は済んだかい?」
パパはニコニコ聞いて来たけど、自分のお皿はほんとんど手が付けられてないの……みんなどうしてパパをゆっくりさせてくれないんだろう?
「もう少しかな……あ、来たね」
「え?」
パパが、手を振る。
「エステバン伯!」
「やぁ、ようこそマダム・ローズウッド」
小走りで駆けて来た黒いドレスの小太りのおばさんが、いきなりパパに抱きついた。
「お招き感謝するわ、エステバン伯! ホント一時はどうなる事かと思ったけれど流石ね!」
短めの赤い髪にヘーゼルの目が、パパをじっと見てにこにこするけど……なんだか嫌な気持ち!
パパに抱きつかないでよ!
「あら?」
わたしに気付いたおばさんは、今度はわたしのそばにしゃがむ。
「あらあらまあまあ~なんて可愛い赤ずきんちゃん! あの子の言うとおりねぇ~~~! なんて可愛いの!」
おばさんは、パパにしたみたいにぎゅってしてくる!
おむねの香水の匂いが臭くてウェってなっちゃう!
「うぶぶぶ!」
「あら、ごめんなさい」
苦しそうなわたしを見て、おばさんはやっと放してくれた。
「スカーレット! あなたもご挨拶なさい」
え?
おばさんが、振り向いて声をかける______あ。
『子供』だ、わたしと同じくらいの大きさの……真っ赤な長い髪をポニーテールにしてすこしそばかすのついた顔にヘーゼルの目に黒いフリルのついたドレス。
けど、スカーレットて呼ばれたその子はなんだかとても怒ってるみたいにわたしを睨みつけているの……なんで?
ふん! って、わたしから目を逸らしたスカーレットは、パパの前に歩いてきてドレスの裾を軽くつまんでお辞儀をした。
「はじめまして、エステバン伯爵様。 バーミリオン・ローズウッドの娘スカーレットと申します」
そういってお辞儀するスカーレットに、パパは顔を上げるように言う。
「伯爵なんて……そんなの大昔のはなしだよ。 ふふ、君はお姉さんに良く似てるね」
パパが優しく微笑むと、スカーレットの白い頬が少し赤くなる。
「さぁ、サシャもご挨拶して?」
パパに言われて、わたしもイスからおりてスカーレットのまえに立ってお辞儀した。
「はっはじめまして、サシャ・C・エステバンですっ こっこの子はルゥ……あのっ……よろしく……?」
そっと顔を上げると、スカーレットはまるでゴミでも見るみたいな目でわたしをみて鼻でふんってする。
ううう……こわいよぉ~~!
パパとおばさんが、『二人で遊んでおいで』っていったのでわたしとルゥとスカーレットはパーティーの会場を歩く。
「こんなに人がいるのに……みんなアンタの為に道をあけるのね」
「え?」
ずっと黙ってたスカーレットが、急に喋ったからわたしびっくりしちゃった!
「わたしの為に? なんのこと? よくわからないよ?」
少し前を歩いていたスカーレットが、急にとまってくるって振り向いてヘーゼルの目がギラッとわたしを睨みつける。
「サシャ・C・エステバン! この際はっきり言っとく、アタシはアンタが大嫌いよ!!」
「え……ええ?」
スカーレットの言葉にわたしどうしていいかわからない……。
だって、だって会ったばかりないのに……嫌われる暇なんてどこにあったんだろう?
「どうして? わたしはスカーレットの事嫌いじゃない ……のに」
恐いとは思ってるけど。
「お姉様は、アンタみたいのの何処がいいのよ……!」
スカーレットは、親指の爪を齧りながらブツブツと言う。
一体なんの話をしているんだろう?
「スカーレットお嬢様!」
人混みの中からこえがして、黒い影がスカーレットに駆け寄っていく。
「はぁ! はぁ! 遅れて申し訳ありません……ゲホッ!」
息を切らせながら走ってきたのは、黒いメイド服に黒肌のわたしたちと同じ『子供』。
けど、それをやっぱりゴミでも見るような目でみたスカーレットは、いきなりその子のほっぺを思いっきりひっぱたいた!
バチンと大きな音がして、その子は床に倒れる!
けれどもそれだけじゃ止まらなくて、今度は黒いブーツの踵で倒れたその子の頭をぐりって踏んづけたの!
「マンバ、一体いつまで掛かってるの!? この役立たず!!」
「うううう……お許し下さいっ! スカーレットお嬢さっヒギッ!!」
分厚いブーツの踵が、マンバって呼ばれたコの頭をグリッってする!
酷い!
スカーレットはなんでこんなに酷い事を!?
それに、こんなにたくさん大人の人がいるのにどうして誰も止めないの!?
ドン!
「なっ!?」
わたしは、マンバの頭を踏んづけるスカーレットを突き飛ばした!
突き飛ばされたスカーレットは、尻餅をつきながらギロリとわたしを睨む。
「こんな事しちゃ駄目じゃない!」
怒鳴ったわたしの声に、周りのたくさんの大人の人達がざわめいてそれを見たスカーレットの顔がどんどん恐くなる。
「何のつもり……!」
「何って……こんな事されたら痛いじゃない! このコが可哀想よ!」
さっきまで、うるさいくらいだった辺りがしんと静かになった。
「ふふふ……あははは」
スカーレットが急に笑って、それにあわせて周りの大人たちもみんな笑い出す。
……なんで?
わたし変な事いった?
「あははは! 可哀想? もしかしてこのゴミのこと言ってるの?」
スカーレットが、立ち上がってドレスの裾を整えながらこわい顔で笑う。
「ゴミだなんて! 酷い……!」
わたしは、床に倒れてるマンバにてをかしてあげる。
「大丈夫?」
「……!?」
すわらせてあげると、なんだかとってもびっくりした顔をして口をぱくぱくして…なんだかびっくりした時のルゥみたい。
「おじょ、おじょうさまっ! 手、ってをはな放してください! お嬢様が汚れてしまいますすっ!?」
マンバは、床をはいはいしながらわたしから逃げようとしてルゥにぶつかる。
「よごれる? マンバは汚れてないよ?」
「うちは黒奴でっす! いやしいうちに触ったらお嬢様が汚れます!」
?
コクド?
お肌が黒いの気にしてるのかな?
わたしは、エプロンドレスのポッケからハンカチをだしてちょっと埃のついたほっぺをふいてあげると床にへたり込んでいたマンバが、『ひゃい!』って変な声をだす。
「ほら、ぜんぜん汚れてないよ? どうしてそんなこというの?」
あれ?
マンバの大きくて黒い目からぽろって涙が……え?
「え? どうしたの? どこか……頭がいたいの!?」
「ちがいます……! うれしくて……そんなお言葉……はじ、はじめてかけていてだいでっグジュ………」
嬉しくても涙がでるなんてリーンみたい。
でも、汚れてなんかないからそう言っただけなのにマンバはなんで嬉しいんだろう?
わたしが、ぽろぽろこぼれるマンバの目にハンカチをあててあげてると凄く怖い顔でこっち睨むスカーレットが体をブルブルふるわせる。
「こんな大勢の前で恥じを……許さない!」
立ち上がったスカーレットが、わたしをビッシっと指差して大声で言った。
「我、バーミリオン・ローズウッドの娘スカーレット・ローズウッドはサシャ・C・エステバンに決闘を申し込む! !」
けっとう?
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