A Happy New Year②
「ロノバン……わたし」
「はい、お見事でしたよ。 ですがお嬢様には『ご主人様』として後もうひと仕事残っております」
ロノバンはそう言って、腰に巻いたシェフのエプロンポケットから何かを取り出す。
なんだろう?
「こちらは、炎症止めでございます。 今日は、お嬢様もお手が使えませんので蓋はわたくしが」
そういうと、ロノバンは手の平より少し大きいプラスチックの入れ物のふたをカパッってあける。
「お嬢様、『罰』を与えた後のケアは基本中の基本でございます。 本日はわたくしがお手伝いさせて頂きますが、今後はお一人で出来るようになって下さいませ」
ロノバンはそういって、緑色のプルプルしたゼリーみたいな物がつまっているソレをわたしにわたす。
「アロエを使った炎症止めでございます。 どうぞ、お嬢様のお手とルゥにお使い下さい」
そう言うと、ロノバンは抱きかかえていたルゥをわたしのひざから下ろしてゴロンとひっくり返した。
ひっくり返されたルゥは、また叩かれるんじゃないかと思ったのね……ガタガタ震え出しちゃった。
もう、今日は叩いたりしないのに……。
ヌチャ。
白い容器から、ゼリーをすくってみるとひんやりしていてじんじんして熱くなった手がきもちいい……。
わたしは、ゼリーをいっぱいすくってルゥの真っ赤になたおしりにぬる。
「う"う"う"」
「すぐ、終わるからね! がんばって!」
まっかになったおしりにゼリーを優しくぬって、ぱんぱんに腫れたおまたのふくろもコロコロする。
あ、パパが鞭で打った背中にもいっぱいぬろう!
ゼリー足りるかな?
ルゥが、肩を震わせながら鼻をすする。
やっぱり痛かったよね……でも、ルゥが悪い事をしたからいけないんだよ!
背中とおしりとおまたのふくろにいっぱいゼリーをぬって、毛布に寝かせるとあっという間にルゥは眠っちゃった。
よほど疲れたんだと思う。
ぽん、ってパパの手がわたしの肩をたたく。
「さっ、パパの天使さん上にももどろう_____っと、その前に」
パパが、ピンクのクローゼットの上に置いたトレーから赤いリボンでラッピングされた黒くて平たい箱を取り出す。
なんだろう?
「ああ、サシャは今手が使えなかったね……パパが開けよう」
そういって、パパはわたしのほうに屈んで箱から赤いリボンをはずしてパコッってあけた。
中には、『Ru』と打たれたプレートのついた赤い首輪とキラキラ光る鎖のリードがはいっている!
「わぁ~パパありがとう!」
「さ、早速……あ~パパがつけようか?」
痛くてふるえる手で首輪をつかんだわたしを見て、心配そうにパパがいう。
わたしは、くびをふる。
「自分でつけたいの! だって、わたしがルゥの『ごしゅじんさま』なんだから!」
眠ってるルゥの首にそっと首輪をとおしたけど、指が痛くて上手く動かないから時間がかかちゃう!
カチャ。
やっと、ルゥに首輪をつける事ができた!
真っ赤な首輪は、とてもルゥににあっている。
わたしは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったルゥの顔をスカートの裾でふいてほっぺにキスをした。
わたしのかわいいルゥ。
もっと、いい子になったらお散歩にいこうね!
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[パパとロノバン]
旦那様は気が早すぎるのです。
すっかり力尽きてしまったお嬢様を抱え、旦那様が地下室の階段をあがります。
わたくしも、それについてまいります。
ちらりと『だるま』の方を見ると薄い毛布の上で意識を失っておりますね……無理もありません。
配電盤のスイッチを切ると、窓すらない地下室は暗黒に包まれました。
この暗黒の闇が続く間だけが、あの『だるま』にとって唯一の心の安らぎを感じる事が出来る瞬間に違いありません。
地下室を出た旦那様は、お嬢様をお部屋へ運びベッドへ寝かせてすっかり腫れ上がってしまった腕や手の平に自ら湿布をして包帯を巻きます。
「流石だなロノバン、僕は駄目だな……つい自分が楽しんでしまうよ」
お嬢様と同じ青い瞳をはにかんだ様に細めて、どこかバツの悪そうな顔の旦那様。
「全くでございます。 あの『だるま』はお嬢様のものなのですから幾ら未熟に見えるからと手の出しすぎは良くありません!」
「全くその通りだ、ロノバンには頭があがらないなぁ~」
無邪気な笑顔でそういって、旦那様は眠るお嬢様の顔にかかった髪をそっと払って額に口付けをします。
「お休み、パパの天使さん愛してるよ」
蟲も殺さない様な顔をして……この金髪に青い目の優しげな紳士は子供の頃から変わりませんね!
「ロノバン、明後日からまた海外へ行くよ」
「またでございますか? 今度は何を?」
「油田だ、サウジの方にね……また、サシャが困っていたら手を貸してほしい」
「それは、もちろんでございます」
わたくしは、旦那様に一礼しお嬢様の部屋から退散しようと背を向けました。
「ロノバン……例の話考えてくれたか?」
立ち去ろうとしたわたくしに、旦那様が少し困ったように声をかけます。
またあの話ですか?
「その件ならお断りしたはずですが?」
「僕としては、君には是非サシャの専属執事になってほしいんだけど?」
「旦那様、わたくしは『シェフ』でございます! 料理を作る事に生き甲斐を感じているのですよ? 執事になんてなってしまったらナイフを握る時間など無くなります! わたくしに死ねと仰るんですか?」
それに、わたくしが執事になるという事は今まで守り抜いてきたキッチンという名の『聖域』に別のシェフを入れると言う事。
ああ! 駄目です! 堪えられません!!
そんな事をされたら、わたくしその者をバラバラに切り刻んでしまいます!
わたくしが憤慨しているのを察して頂けたのか、旦那様は『すまん、すまん』と謝っています。
まぁ、執事だったゴートが抜けたのは痛手でしたがあのまま逃がす訳にはまいりませんでしたからね。
「そうだ、そう言えばゴートは元気なのかい?」
はぁ、旦那様。
話題を逸らそうとして、なんて野暮な事を聞くんでしょう?
「はい、今日は少し遅くなってしまいましたから早く帰って差し上げないと」
ゴートの事を考えると、ついつい顔が緩んでしまいます。
昨日は大暴れでしたから少々きつく躾たので、早く解いてやらないと壊死してしまいます。
わたくしは、ニヤケそうな顔を必死にかくして一礼してお嬢様の部屋を後にしました。
あああ、今日はすっかりお嬢様に見せ付けられましたねぇ~。
月明かりが照らす雪道をわたくしは、我が家に向けて足早に進みます。
はぁ……可愛いゴート。
早く帰ってお前を抱きしめたいな。
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1がつ2にち
ルゥが熱をだした!
朝、メープルシロップのパンケーキをたべたあと地下室に行くとルゥがうんうんうなってぐったりしてた!
びっくりして、ロノバンを呼ぶと『傷が熱を持ったのでしょう』といって昨日のゼリーをぬってよく寝かせるようにと教えてくれた。
けど……!
「とても苦しそうなの! もっと楽してあげれないかしら?」
「それでしたら、庭師のケリガーに相談されては?」
ケリガーと聞いて、わたしはギクリとする。
ケリガーは、うちでお庭の手入れをしてくれてる庭師なんだけどいつもしかめっ面で全然しゃべらないしなんだか絵本に出てくるトロルみたいに太い腕をして毛がもじゃもじゃ生えてるからちょっと恐い。
「ケリガーは、お庭で薬草も育ててしますからきっと良い知恵を貸してくれるでしょう」
「そ、そうなんだ……」
わたしがもじもじしていると、ロノバンのひげが意地悪そうにふそりとする。
「おやおや? お嬢様、まさかご自分の使用人が恐いのですか?」
「ち、違うもん!」
わたしは、お庭にいるケリガーのところへいくことにした。
ロノバンがケリガーは、裏庭でチューリップの球根を選別しているといっていたからすぐに見つけることが出来たんだけど……。
わたしは、やっぱり恐くて木にかくれてケリガーをみる。
雪のつもったお庭のウッドテーブルの上に、チューリップの球根が山のようにおかれていてケリガーは毛むくじゃらの手で球根を右のバケツになげたり左のバケツになげたりしてる。
……わたし、やっぱりケリガーはトロルなんじゃないかって思う。
ううん、今はそれよりも……早くルゥの熱を下げてあげたいのに!
わたしは、木に隠れてしゃがむ。
「あいたた……」
包帯でぐるぐる巻きの手がいたい。
ううん!
サシャ! しっかりするのよ! ルゥはきっとおしりも背中もいたいし熱も出てるからとても苦しいの!
『ごしゅじんさま』なんだからこんな所でこわがってちゃ_____
バキッ!
すぐそばで木の枝のおれる音がして、わたしはびっくりして息がとまる!
最初にみえたのは、とけた泥でぐちゃぐちゃになった大きなブーツ。
「あ ぁ ああ」
大きなケリガーが、すす汚れた顔でわたしをじっと見下ろしている……こわい!
こわいけど、がんばらなくちゃルゥの為だもん!
それに、ケリガーはこの家の使用人よ!
トロルなんかじゃない!
こわくない、こわくなんかないんだから!
わたしは、立ち上がってケリガーをみた。
ボサボサの頭に伸びほうだいのひげにススでよごれたかおに雪がふっていたのに上着のそでをたくしあげるからモジャモジャの毛のに雪がのってそのごつごつした腕がチューリップの球根をにぎってる。
しっかりするのよ! サシャ!
「ケリガー……あの 寒くないの?」
ケリガーが、にっこりわらった。
◆
コンコン、ガチャ!
「おや? お嬢様、その様子だとちゃんとケリガーから薬草をもらえたようですね?」
「うん!」
わたしは、キッチンに入ってケリガーにもらった薬草のはいったビニール袋をロノバンに見せた。
ケリガーは、ぜんぜんこわく無かった!
今まであまりしゃべらなかったのは、言葉が訛っているのが恥ずかしかったからだって!
やっぱり、トロルなんて絵本の中の作り話よ!
「……お嬢様、コレをケリガーが?」
ロノバンが、ふくろの中の薬草をみて少しあわてたように言う。
「そうよ?」
袋の中には、紫色の花のさく薬草の根っこを太陽の光で乾かしたものがはいっていてるってケリガーが言ってたけど……ロノバンったらどうしたんだろう?
「ケリガーはコレをどうしろと?」
「えっと、ロノバンにお湯で少しにてもらってオートミールにいれて食べさせろといってたわ、だから____」
「お嬢様、ケリガーになんと言ってこれをもらいましたか?」
え?
なんでそんな事きくんだろう?
「ルゥが苦しそうだから、楽にてあげたいといったんだけど?」
「直ぐに貰い直して来てください!」
ロノバンが、ぴしゃりという。
「え? どうして?」
「お嬢様は、ルゥをどう楽にしたいかケリガーにちゃんと説明しておりません! したがってコレは間違ったど_____薬草です!」
ロノバンに言われて、わたしはケリガーのところへ戻ってちゃんと説明すると『もうすわけごぜぇません!』と脅えたようにあやまって別の物を渡してくれた。
そして、ロノバンにお湯でにてもらってミルクにまぜてルゥに飲ませようとしたんだけどルゥはぐったりしてて、起き上がってくれないから上手く飲ませれない。
だから、わたしが赤ちゃんのときに使っていた哺乳瓶にいれて飲ませる事にした。
最初、ルゥはちょっと嫌そうな顔してたけど口に押し付けたらチュウチュウ吸い付いてくれた……なんだか本当の赤ちゃんみたい!
哺乳瓶3つ分の薬草ミルクをのんですっかりお腹がいっぱいになったのね、ルゥはもうぐっすり眠っちゃったぁ……。
眠っているルゥは、とてもかわいい。
起きてるときもこれくらいかわいければいいのになぁ~。
それにしても、最初にケリガーがくれた薬草ってなんだったんだろう?
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1がつ3にち
パパがまたお仕事で外国にいちゃった。
朝、パパを見送って朝食をたべる。
すんだら、ロノバンに頼んで薬草ミルクを作ってもらって哺乳瓶に入れてすぐルゥの所へ行く。
ルゥは、少し元気になっているみたいだけどまだまだね……。
ミルクをのんだらまた寝ちゃった。
わたしは、寝てるルゥの体をお湯でぬらしたタオルでふいてあげる。
ルゥの手と足の怪我がよくなるまでお風呂は禁止だってロノバンが言ってたの……この前はごめんねルゥ。
つぎに、手と足の包帯をこうかんする。
この前、ロノバンにならったからちゃんとできるもん!
包帯をはずして、なかのガーゼをあたらしいのにとりかえてあげる。
……この前より大分よくなってるような気がするけど、何だかお肉と皮が変な色ね。
取り合えず、赤い消毒液をぬってガーゼをあてて包帯をまく。
……ふぅ、あと反対の手と両足ね!
包帯の取替えがおわって、わたしはまだちょっとあついルゥの額にてをおいてみる。
……はぁ、早くルゥとあそびたいなぁ~。
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1がつ4にち
ルゥは、まだ寝たまま。
ミルクと、体をふいてすぐに地下室をでる。
ロノバンがそっとしておいた方が早くなおるっていったから、もっといっしょにいたいけどがまんする!
ルゥ……早くよくなって!
わたし、とてもさみしい。
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1がつ5にち
すこし、目を開ける。
でも、むりをさせちゃいけないからミルクと包帯をかえておしまい。
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1がつ6にち
ルゥがおしっこをいっぱいした。
毛布がびちゃびちゃになっちゃったから、リーンにたのんで新しいのをだしてもらう。
おしっこをしたのは良くなってきた証拠だとロノバンがいったので、あまり怒らないことにした。
……ケリガーにたのんで、地下室にルゥ専用のトイレをつくれないかしら?
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1がつ7にち
トイレをつくる。
ケリガーに聞いたら、つくってくれるというのでお願いする。
地下室のすみにみぞをほって水で流せるようにするんですって!
これは、『ワシキトイレ』というものらしいんだけど……座るところも無いのにどうやって使うんだろう?
地下室にトイレを作りにきたケリガーは、ルゥの事をとても恐がっているみたい……見た目ならケリガーだってなかなかのものなのにね。
ルゥは、ケリガーのことをじっとみている。
仲間だと思っているのかな?
そういえば、ルゥとおなじ『だるま』っていつもはどんな所に住んでいるんだろう?
やっぱり、森とか草原とかにいるのかな?
こんど、パパが帰ってきたらきいてみよう!
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1がつ8にち
わたし、インフルエンザにかかちゃった。
『一週間はお部屋から出ないで下さい!』ってリーンに言われちゃった。
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1がつ15にち
熱も咳きもなくなった!
朝、リーンが『もういいですよ』って言ったからわたしは部屋を飛び出してまっすぐ地下室にいく!
「ルゥ!!」
わたしは、まっくらな階段を駆け下りて電気をつけてすぐにルゥを抱きしめた!
「ルゥ! これないくてごめんね!」
「う"う"!」
抱きしめて、いっぱいキスをしたらルゥはびっくりしたような顔をしてうなる……キスがきらいなのかな?
でも、よかった!
ちょっとにおうけど、顔色もいいみたいだし元気になったのね!
「おや、お嬢様お加減はよろしいのですか?」
ちょうどロノバンが、手にお皿をもって階段から降りてきた。
「うん! もう、大丈夫だよロノバン!」
「それはそれは……ルゥも寂しがってしましたよ」
ルゥはロノバンを見ると、キッとにらんでうなり声をあげる。
「こら! だめよルゥ! あれはロノバンよ?」
わたしが『めっ!』ってすると、ルゥがキュッてめをつむる……かわいい!
「お嬢様。 ルゥと遊びたいお気持ちは分かりますが、まずは朝食でございます! どうかリビングへ」
「ええ~このままここでルゥと食べちゃダメ?」
「なりません!」
ロノバンは、ぴしゃりと言う。
「『主』と家畜が、同じ部屋で食事など! いいですかお嬢様、これは『けじめ』でございます!」
ロノバンが、ルゥの目の前にお皿をコトリとおいた。
「『けじめ』って、なぁに?」
首をかしげるわたしにロノバンは、ふそりとひげをさわって少し考えてるみたい。
「そうですね……簡単に申し上げるなら『区別をはっきりさせること』にございます」
「くべつ?」
「はい、お嬢様は人間で『主』ルゥは『だるま』で『家畜』でございます。 いくら可愛いからと、同じように地べたでお食事を取られてはルゥはいつまでたってもお嬢様を『主』とは見なしません。 そうなれば、今後の『躾』にも影響が出てしまいます……そうならない為にもお嬢様には人間らしく『主』として、ルゥには『だるま』らしく『家畜』として『区別』されなければなりません」
「仲良くしちゃだめなの?」
「いいえ! 今まで通りルゥを可愛がって下さい! かといって、舐められてはいけません! 『主』は常に上に立つ者なのです……その為のこれは、『けじめ』なのでございます」
ロノバンのいう事はちょっとむつかしくてよくわからないけど、とりあえずご飯はルゥとは食べちゃダメって事はわかった。
抱きしめていたルゥを放すと、ロノバンのおいたお皿の方へもぞもぞ這っていってぴちゃぴちゃなめる。
「さっ、ルゥも食事を始めましたし……お嬢様も朝食をおとり下さい。 本日は、パンケーキにベーコンエッグとコーンスープでございますよ」
すごくおいしそう!
わたしは、ロノバンにてを引かれて地下室の階段をあがった。
ふりかえると、顔中をオートミールでベタベタにしたルゥがこっちをみてる。
ルゥ! わたしがんばるから!
がんばって、良いご主人様になるからね!
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1がつ16にち
ルゥがおしりをふかせてくれない!
ルゥがうんちをした。
ちゃんとトイレで……。
それはよかったの! ちゃんとほめたわ!
けど!
「ルゥ! 何でなの!!」
「ふううううううううう!!!!」
手にトイレットペーパーをかまえるわたしを、ルゥがすごくおこった顔でにらむ。
「逃げないで! おしりふかないと臭いんだよ!?」
「ぐぅぅぅぅぅぅ!!!」
もう!
さっきからこんな感じなんだから~!
ルゥってば、いくら触られるのが嫌いでもちゃんとふかなくちゃきたないじゃない!
また、つめたいお水であらっちゃおうかな……?
わたしが、ちらりと壁のほうのガーデンホースをみるとルゥが脅えたようなかおをした。
きっと、前みたいにつめたいお水であらっちゃえばすむと思うけどそれじゃルゥはいつまでたっても何でおしりをふかなきゃいけないのか分からないままよね……。
ロノバンは、何といってたかしら?
……そうだ!
わたしは、トイレットペーパーをピンクのクローゼットの上におく。
「いいわ、もうふかない」
ルゥがきょとんとして、わたしのかおを見る。
わたしは、そんなルゥに手を振って地下室をでた。
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1がつ17にち
ルゥにごはんをあげて手と足の包帯をとりかえる。
おしりはふかない、とてもくさい。
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1がつ18にち
ごはんをあげる。
ほうたいをとりかえる。
トイレをながす。
おしりはふかない、とてもくさい。
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1がつ19にち
ごはんをあげる。
ほうたいをとりかえる。
トイレをながす。
ルゥがわたしをじっとみる。
おしりはふかない。
あかくなってただれてきた、とてもくさい。
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1がつ20にち
ごはんをあげたけど、ルゥはたべない。
わたしのことをじっとみる……そろそろかな?
「なぁに? どうしたのルゥ?」
じっと、わたしをみあげるルゥにイジワルにいう。
「ウウ……グッ……」
顔をまっかにして、もじもじしていたルゥはもぞもぞと体をうごかしてわたしにおしりをむけた!
あ~あ~……うんちをずっとふかなかったからルゥのおしりは赤くなって割れ目のところのかわがかぶれてむけてる……いたそう!
でも、ちゃんとふかせてくれなかったルゥが悪いんだからね!
「もう!」
わたしは、クローゼットの上のトイレットペーパーでルゥのまっかにただれたおしりの割れ目をそっとふく。
「グッ! フッ!!」
「いたいのは、ルゥが悪いのよ! わかる?」
いたがるルゥのおしりを、ペーパーで強めにふくと少しおしりの皮がむけて血が出てきた……うう、いたそう。
でも、きれいにしないともっと酷くなるからよ~くふく!
カサカサ。
う~ん、がんばってみたけどこびりついたウンチはこれ以上とれないみたい。
そうだ!
わたしは、ボイラーのところまでいってバケツにスポンジとお湯をいれてルゥのところに持って行く。
お風呂はだめだけど、おしりだけならいいよね?
「ルゥ、傷にかかちゃうから足を広げて……ね?」
うつぶせで、おしりを向けているルゥの足をひらかせようとするとルゥはまっかな顔をして床にふせちゃった。
どうしたんだろう?
いたいのかな?
わたしは、足の傷にお湯がかからないようにそっとにおしりをスポンジでふく。
「う"う"う"!」
「がんばって! もう少しだから!」
お湯でふやかして、やっとこびりついたうんちをやっときれいに落とすことが出来た!
あとは、タオルでふいて……カタン。
顔をふせていたルゥが、今度はひきつった顔でわたしをみる。
どうしたんだろう?
これいつも使ってる消毒液だよ?
シュッ。
「グッ~~~~うあ"っ!!」
手足にするみたいにシュッってしたら、ルゥのお尻がぎゅってして皮がむけたところが見えなくなる。
しみるのね……だけどちゃんと消毒しないともっとひどいことになるんだから!
「もう! 力をゆるめて! シュッてできないよ!」
「う~う~!!!」
ルゥってば! いやいやしたってダメなんだから!!
わたしは、ルゥのぴたりとじたおしりの割れ目に消毒液のノズルを差し込んでシュッてする!
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