A Happy New Year

A Happy New Year①

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 ここは、何処なんだ……?


 何でこんな事に……腕……足……口ん中とか焼ける……どうして?


 俺、ナニカ悪い事したかなぁ……?


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 1がつ1にち



 パパが帰ってきた!



 「パパ! おかえりなさい!」


 わたしは、パパに飛びついた!


 「いい子にしてたかい? パパの天使さん?」


 パパは、わたしを持上げてぎゅーってする!


 肩につもった雪が冷たいけど、そんなの関係ない!


 わたしも、力いっぱいパパをぎゅーってした!


 「ははは、苦しいよサシャ」


 パパはわたしをそっとおろして、しがみ付いている腕をはずす。


 「サシャ寂しかったんだからぁ……」


 「ごめんね、急な仕事だんたんだよ」


 すまなそうな顔をして、パパの大きな手がわたしの頭をくしゃりとなでる。


 「旦那様、コートを……お風邪を召されますよ」


 メイドのリーンが、すっかり雪がとけてぬれてしまったコートをパパから受け取った。


 「リビングに紅茶の用意がございます。 どうぞ、体を温めて下さいまし荷物はケリガーに運ばせます」

 

 リーンは、そういうとパパのコートを持ってリネンの方へパタパタと歩いていく。


 わたしとパパは、手をつないでリビングへいった。



 リビングに用意されたティーセットのカップにこぽこぽ紅茶。

 

 「いい香りだねロノバン」


 「はい、旦那様のお好きなダージリンでございます」


 パパに紅茶を入れながらロノバンが、ふそりとひげを動かす。


 「お嬢様には、ミルクもお入れしましょう」


  ロノバンは、わたしの紅茶にミルクをそそぐ。


 「ありがとうロノバン」


 ロノバンは、パパとわたしのカップに紅茶を入れ終わるとペコリと頭を下げてリビングを出て行った。


 「サシャ、ルゥとは仲良くしてるかい?」


 パパは、紅茶を一口飲んでニコニコしながらわたしに聞く。


 「……うん」


 「どうしたんだい?」


 うつむいたわたしを見てパパが心配そうに、顔を覗きこんだ。


 「どうしよう……わたしルゥに酷いこと______」


 わたしは、パパに昨日ルゥをお風呂に入れた事を……ルゥを死なせてしまう所だったことを話した。



 「ルゥ……わたしの事キライになったかなぁ?」


 「大丈夫だよ、今は分かってくれないかも知れないけど『だるま』として『自覚』すればきっとサシャの事を世界で一番好きになるよ」


 「ほんとう?」


 「ああ、本当さ! パパはサシャには嘘は言わないよ!」



 パパは、泣き出したわたしを抱きしめて背中をさすってくれる。


 パパの手はあったかで、とても安心する。


 「そうだ、サシャにお土産があるんだよ! 夕食が終わったら一緒に地下室で開けよう!」


 パパの青い目が、キラキラしている……なんだろう?


 地下室で開けるならきっとルゥも喜ぶ物だよね!


 とっても楽しみ!!



 お夕食は、お肉かお魚だったけど味なんか分からないくらいお土産の事がきになってずっとパパのほうをちらちら見てたら『こら、ちゃんと食べなさい』って怒られちゃった。


 

 「パパ! 早く! 早く~」


 「サシャ、慌てなくてもお土産は逃げないよ」



 せかすわたしに、食後の紅茶を飲んでいたパパが困った顔をした。



 「リーン」


 「はい、旦那様」



 パパが声をかけると、リビングのドアの横にいたリーンが外に出て行く。



 ちょっとして、白い布の掛かったトレーをもってリーンが戻ってきた。


 「お持ちしました旦那様」


 「ああ、そこに置いてくれ。 此処を片付けたら君はもう下がっていいからね」



 リーンは、テーブルにトレーを置くとペコリとお辞儀をしてまたリビングを出て行く。


 ワゴンを取りにいったのかな?



 「さぁ! お待たせ、パパの天使さん」


 片手にトレーをもったパパが、にっこり笑ってイスからって手招きする。


 「わーい!」


 わたしは、パパと手をつないでルゥのまってる地下室へむかった。 




 「そうだ、まずはコレをサシャにあげよう!」



 地下室の扉の前で、パパがトレーから何かを取りだしてチャリンとわたしの前にぶら下げる。

 


 「パパ、これ!」


 「そうだよ、サシャ専用の地下室のカギだよ」


 

 パパが、そっとわたしの手にカギをおく……わぁ!


 それは、『ルゥ』そっくりの黒いラブラドールレトリバーのキーホルダーがついたピカピカ光る銀色のカギ。


 今まで、自分のカギなんてもってなかったからとってもうれしい!



 うれしくて、うれしくて!わたしはパパの足に飛びつく!



 「パパ! 大好き!」


 「ははは、まだまだこれからだよ~さっ、早く下に降りよう」


 ピカピカのカギで扉を開けて、まっくらな階段をウキウキしながら駆け下りる。



 「サシャ! 危ないよ!」


 「だいじょぶだも~ん」



 もう懐中電灯なんて無くても、配電盤のボタンだってどこにあるかわかるんだから!


 


 バチ、ブゥゥゥゥン!



 真っ暗な地下室に電気がつくと、部屋の隅っこで壁をむいてたルゥがビクッてした!



 「ルゥ~♪」



 わたしがかけよってほっぺを両手でむにむにするとルゥが『ウウ……』って、鳴く。


 眠かったのかな?


 「すっかり、なかよしさんだね~パパ安心したよ~」


 パパが、ニコニコしてわたしとルゥを見ながらトレーを配電盤の隣のピンクの小さなクローゼットの上に置く。


 あのクローゼットは、わたしが赤ちゃんの頃につかっていたものでロノバンがルゥのお世話道具を入れるのに丁度いいからって奥からだしてくれたの。


 

 「ぐうぅぅぅぅ!」



 コツン、コツン……。 



 パパの革靴が床をならすと、わたしにほっぺをむにむにされたままルゥが唸り声をあげる…。


 え?


 どうしたんだろう?



 「やぁ、久しぶりだね『ルゥ』」


 

 パパが、いつものようににっこり笑ってルゥをみる。

 

 

 「うがぁぁぁぁ!!!」


 「きゃ!?」



 パパをみたルゥが、わたしを突き飛ばして大声を上げならパパのほうにはって行って行き成りガジッっとパパの足に噛み付いた!



 「____あ! もう! ルゥったら_______」




 あ。




 パパの足が動いたとおもったら、ルゥが『ぎゃぅ!』とないてぽーんと飛んで床にはねる。


 「あはは、駄目じゃないか~そんな事をしちゃ……」

 

 パパは、にこにこしながらひっくり返ったルゥのお腹を靴のかかとでドスンと踏んづけた!



 「っあ"!? ごひっ!!」



 ルゥは、じたばたと手足を動かしてパパを睨む。



 「やはり、まだまだ自覚が足りないね」


 パパは、ルゥのお腹から足をどけてピンクのクローゼットに上に置いたトレーから何かを取りだして戻ってきた。



 「いいかい? サシャ、よーく見ているんだよ『躾』というのは最初が肝心なんだ」


 そういうと、パパは手に持っていた何かをヒュンっと振って見せる。


 「パパ……なにするの? それ、なに?」


 ルゥには、それが何なのかわかるみたいで身をよじってうつ伏せになってパパから逃げようとモゾモゾする。



 「可愛いだろう? これは鞭だよ、サシャの好きなピンク色……カーボン製で軽いし良くしなるんだ」


 そう言うと、パパはにっこり笑って逃げるルゥの背中にピンクの鞭を振り下ろした!



 バチィィィィン!



 鞭が背中にあたると、ルゥがビクンとする!


 なんだかエビみたい。



 パパは、打たれても逃げようとするルゥのおしりをふんずけて何度も何度も背中を鞭で叩く!


 いっぱい打たれて、きれいだったルゥの背中にいくつも赤い線が出来てまっかにはれて血がにじんできてる!


 どうしよう!


 ルゥは、目をぎゅっとして唸り声も上げず必死に耐えている……すごく痛そう……!



 「パパ! もうやめて! ルゥが可哀想よ!!」 


 わたしは、ルゥを叩こうと振り上げた鞭をもったパパの腕にとびついた!


 「おっと、危ないな~急に飛びついちゃダメじゃないか」


 パパは、少し息をはずませてながら鞭を下ろす。


 「だって、血が!」


 「サシャ、ルゥはサシャを突き飛ばしてパパにかみ付いたんだ……コレは罰なんだよ? 少しくらい血だってでるさ」

 

 優しくにっこりして、パパはわたしに持っていた鞭の持つところをそっと握らせる。



 「パパ?」


 「さっ、サシャも打ってごらん?」


 パパが、いつもの優しい声で言う。


 手に持った鞭は、パパのいうとおりとても軽くてすごく握りやすい。


 「でも、でも……!」


 背中がまっかにはれ上がったルゥは、息を荒くしならがらパパとわたしを睨みつけている。



 「サシャ、コレはルゥの為なんだよ? 見てごらん? あんな目でこっちを見て……ルゥはあれだけの事をしたのにまだ自分は悪く無いと思っているんだよ」


 「ルゥ……」


 そう……ルゥは、悪い事をしたんだもん。


 悪い事をしたら罰を与えなきゃいけない……でも、わたし……。


 鞭をもつわたしの手がすこし動くと、ルゥがビクッっとして黒い目が嫌なモノでも見るみたいにわたしを見る。



 「サシャ?」


 わたしの目から急にぽろぽろ涙がでるから、パパが驚いて顔をのぞき込む。


 ルゥは、パパがおしりから足をどかしたので部屋の隅っこまであっという間にはっていく。



 「ぐじゅ…うう…パパ、わたしっ できなヒック…よぉ!」


 わたしは、持っていた鞭を地面に投げて大声で泣きならが地下室の階段を駆け上がって地下室のドアをバタンとしめてその場にうずくまる!


 どうしたら良いの……わたし……ルゥ…! 


 

 「おや? お嬢様どうなさったのですか?」


 ちょうど、ルゥ用のオートミールを運んできたロノバンがうずくまっていたわたしを心配そうにのぞきこむ。


 「ヒック……ろ、ロノバン……」


 「……わたくしで良かったらご相談に乗りましょう」


 ロノバンは、泣きじゃくるわたしの手を引いてキッチンへ向った。



 すっかり日の暮れたキッチンで、ロノバンがろうそくに火をつけてわたしにミルクティーとヘーゼルナッツのクッキーを出す。



 「それで、お嬢様はおめおめ逃げ出された……っと」


 「逃げるなんて!」


 さっきの事を説明すると、ロノバンはあきれたようにため息をついた。

 


 「同じ事でございます!」



 『違う!』と、言いかけたわたしにロノバンがピシャリという。


 「旦那様の言うとおりでございます! ルゥはまだ『だるま』としての自覚が足りず、やって良い事と悪い事が分かっていないのですよ? 今の内に厳しく躾けて置かなくてどうします?」



 「でも! あんなに鞭で打つなんて……!」



 鞭と聞いて、ロノバンが少し言葉を詰まらせた。



 「……旦那様……お気の早い」


 「え?」


 「いいえ、何でもありません」



 こほん、と咳払いをしてロノバンは自分の紅茶を一口飲む。



 「お嬢様、今日旦那様から地下室の鍵を貰ったとか?」


 「ええ」



 わたしは、ポケットにしまってあったガキをキッチンの作業テーブルの上に置く。



 「今のお嬢様には、この鍵を持つ資格はありません!」



 そう言うと、ロノバンはサッっとカギを取り上げた!



 「何するの!? 返して!」


 

 わたしは、取り返そうと手を伸ばしたけどロノバンがカギを握った手を高くあげるから届かない!



 「お嬢様は、ルゥの主人失格でございます! 今後は旦那様にお任せして二度と近づかない事ですな!」


 「いや! そんなのいやよ!!」



 わたしは、テーブルの上にあがってやっとの思いでロノバンからカギを取り返す!



 「お嬢様、躾けには痛みが付き物でございます。 気持ちいい・楽しいばかりでは、教訓は得られません。 苦痛や不快感・恐怖や絶望を経験してこそ次に同じ目に遭わない為にはどうすれば良いか学ぶのです……躾をなされない家畜は自信も気付かない内に不幸なるのですよ?」


 ロノバンのお髭が、ふそってしてむってなる。

 

 そんな!


 わたしがちゃんとしない所為で、ルゥが不幸になるなんて……でも、またあんな事になったら……!


 わたしは、悲しくてまた涙が溢れてくる。


 

 「……昨日の事を気になさっているのですね?」


 

 わたしは、うなずく。



 「人は誰しも過ちを犯します。 お嬢様は、それで教訓を得てらっしゃる筈ですね?」



 ロノバンのひげがふそりとつりあがる。


 そうよ、分からなければ聞けばいいんだわ!




 「教えてロノバン!  わたし、ルゥをちゃんと躾けたい……けれどパパみたいに鞭で打つのは必要かもしれないけどあまりしたくないの!」



 わたしの言葉を聞いたロノバンは、口ひげを触りながら少し考えてくれる。



 「お嬢様は、ルゥが痛がるのを見るのがお嫌なのですね?」


 「……ええ」



 『ふ~む』とため息と付くと、ロノバンはすっかり冷えた紅茶をゴクリとした。


 「上手くいくかはお嬢様しだいですが、方法が無いわけではありません」


 「ほんと!?」


 

 『ですが』っと、ロノバンはちらりとわたしをみる。



 「言って!」



 せかすわたしに、ロノバンがふそりいう。



 「躾に痛みは避けられません……ですから、罰を与えるお嬢様も痛みを分かち合っては如何でしょう?」



 わかちあう?


 首をカクンとしたわたしをニコニコしながら見ていたロノバンは、栗色のお髭をまたふそりとさせて『その覚悟がおありならばですが……』と付け加えた。





 わたしは地下室のドアのまえで、軽く深呼吸する。


 「お嬢様、よろしいですか?」


 すぐ後ろにいたロノバンが、わたしの肩をぽんと叩いた。


 「ロノバン、わたし……うまくできるかしら?」


 「さぁ? わたくしには何とも……コレばっかりは、やってみなくては分かりません」



 そうよ、迷っている暇なんてないの! 


 頑張らなくちゃ!


 わたしのせいで、ルゥを不幸にはしたくないもの!



 わたしは、地下室のドアを開けて階段をおりる。



 「おや? サシャ、もう大丈夫なのかい?」



 地下に降りるとピンクの鞭をもったパパが、ニコニコしながらルゥの髪の毛を掴んで壁のほうからズルズル引っぱってきた。



 「ルゥ!」


 パパが髪の毛から手を放すと、ルゥは床にビタンと顔から落ちちゃった。



 「旦那様」


 「やあ、ロノバンも一緒なんだね」



 パパは、お辞儀をするロノバンにひらひらと手を振る。


 パパとロノバンが、お話を始めたけどわたしはルゥの事が心配ですぐに駆け寄った!


 「ルゥ!」


 わたしは、ルゥの頬をそっとなでる。


 さっきよりも増えた赤い線は、背中をまっかに腫らしてとても痛そう……!


 


 「う"う"う"」


 

 ルゥは、鼻から血をぽたぽたしながら鋭い目つきでわたしを睨んで次の瞬間いきなり指に咬み付いた!


 


 「あ____!」



 歯の無いルゥに咬まれたって、全然痛くは無いのだけれどギリギリと指をはさむ歯茎が『自分は悪く無い! お前なんかキライだ!』って言ってるみたいでとても悲しくなる。



 「ルゥ」


 「グブッ! ウゲェェ!」



 咬まれていた指を口の中に押し込んで喉の奥を触ると、ルゥはすぐに指をはなした。

 

 咳きをしながらルゥは、わたしを睨む。



 ああ、ルゥは本当に何も分からないんのね。


 ……大変!


 わたしがちゃんとしないと、ロノバンの言うとおりルゥは良いことも悪いことも分からないおバカさんになっちゃう!


 腫れた背中をそっと撫でると、ルゥは唸りながらもぞもぞ逃げようとする。



 「ルゥ」



 わたしは、逃げようとするルゥの髪の毛をつかんだ。


 ルゥは、もの凄く恐い目でギッてにらむ。


 わたしルゥにすっかり嫌われてるわね……これからもっと嫌われるんじゃないかって思うとなんだか泣きたくなる。


 ……だめ!

 

 しっかりするのよサシャ!


 ちゃんとしなきゃ、ルゥの為なんだから!



 「ロノバン!」


 「はい、お嬢様」


 パパが、『おやおや?何かな?』ってニコニコしながらこっちをみてる。


 ガタン。


 「どうぞ、お嬢様」


 ロノバンが、地下室の奥から持って来たテディベアのレリーフの彫られた子供用の木のイスを部屋の中央においた。


 わたしは、いやがるルゥの髪をひっぱってイスの所までいく。



 「おねがいロノバン」


 じたばたするルゥをロノバンが持上げて、イスに座ったわたしの膝の上にのせる。


 今日はロノバンが手伝ってくれるけど、今度からは一人でできるようにならなきゃ!


 膝の上から滑り落ちそうになるルゥのわきを、わたしは背中の上から捕まえた。



 「ほう……」


 わたしの膝の上で、おしりを突き出してうつぶせになるルゥを見てパパがニコニコする。


 ルゥは短い手足をじたばたさせるけど、絶対に放さないんだから!


 「ふっ!! う!!?」


 わたしが、ルゥの突き出たおしりをプニッっと指でおすとはっとした顔をしてルゥがこっちを向いた。



 ちょっとかわいい。



 「お嬢様」



 ロノバンがため息をつく。


 あ、いけない!


 コレは『罰』なんだから!



 わたしは、てのひらでルゥのおしりを丸くなでてピタッと止める。


 ロノバンがコクンと頷いた。


 「ルゥ、コレは罰よ」



 バチィン!



 「_________!!!」



 ルゥがビクンとして、おしりがぎゅっとなる!


 

 「いっかいめ」


 手がジーンとして、ルゥのおしりにわたしの手のあとがくっきりのこる。


 ルゥは、わたしをギッっと睨んでじたばたと膝の上で暴れだすから太ももがイスとこすれて痛い!



 「こら! ルゥ!」


 わたしは、力いっぱいルゥのおしりを叩く!



 「!!?」


 ルゥはびっくっとして、今度はびっくりした顔でわたしを見る。


 うん、今度はちゃんとロノバンに教わった場所を叩けたみたい。



 「ルゥ! なんでおこられてるか分かる?」


 ロノバンに言われたとおり『ごしゅじんさま』らしく、ぴしゃりとルゥに聞く。


 けど、ルゥは鼻息を荒くしただけでちっとも反省していないみたい……もう!



 バシィン!



 わたしは、容赦なくおしりを叩く!


 ルゥは、声を上げずにじっと耐える……。


 ああ、ルゥ。


 ホントはこんな事したくないの!


 でも、でも、わたしルゥには立派な『だるま』になってほしいからちゃんといい子にしてほしいから……。



 バチィン!

 


 絶対に手は抜かない。






 ルゥのおしりが、リンゴみたいに真っ赤にはれる。


 「はぁ……はぁ……っ!」


 もう、何回叩いたかな?


 10回目くらいからずっと痛かった手のひらが、もう赤くなってパンパンにはれてものすごく痛い!


 それに、ルゥを乗せている太ももがルゥの重みとイスの座るところに挟まってなんだか痺れてきたよぉ。


 でも、パパとロノバンがニコニコしながらわたしとルゥを見ている……がんばらなくちゃ……ちゃんとしないとルゥと一緒にいられないくなちゃう!


 いや! それだけはいやよ!




 バチィン!



 

 「ルゥ……ルゥはわたしを突き飛ばして、パパをかんだの……コレは罰よ……悪い子!」



 バチィン!



 真っ赤になったルゥのおしりに手があたると手の平がズキズキして手首がビキビキいって肩の骨がジンジンするの……痛い……痛いよぉ!


 

 わたしが叩くだび、ルゥはびくっとして顔をふせてふるえる。


 ごめんね、ごめんね、痛いね……ああ……そんな目で見ないでっっ!


 わたし、ルゥの事だいすきなのに……!



 わたしは、鳴き声もあげないで睨みつけてくるルゥのおしりを力いっぱい叩く。


 もう痛くて手の感覚がなくなってきて、ソレを見てたロノバンが『代わりましょうか?』って目でわたしをみてる。


 ……いや! 絶対にやだ!


 ルゥは、わたしのだもん! 


 パパやロノバンになんて絶対あげない!! 


 

 だいすき!



 だいすきだよルゥ!




 パン!


 さっきまでとは違う音がして、ルゥが体をエビみたいにビチッてした。



 「……ッ……ッ!!」



 ルゥは、目を見開いてガタガタと震える。



 ああ、ここなんだ。



 「さぁ! 鳴きなさい!」



 ズパン! 


 わたしは手を止めない!

 手が千切れたっていい!

 ルゥに教えなきゃ、わたしは『ごしゅじんさま』なんだから!



 「う"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」


 今までに無いくらい大声でルゥが鳴く!



 「ルゥ?」



 顔をのぞくと、ルゥは顔を真っ赤にして目からぼろぼろ涙をながしてる。



 ああ……こんなに鳴いて、可哀想。


 でも、でも、コレは痛いから鳴いてるのよ!


 自分が悪かったなんて思ってないわ!



 ズパン!



 「ガヒッ!! ~~~~う"あ"っ!!」


 どうして?


 どうして分かってくれないの?


 こんなにだいすきなのに!


 わたしの目からも涙が出てくる。



 ズパン!



 だいすきの分だけルゥのおしりから下がってるおまたのふくろを叩く。


 ルゥのおまたのふくろは、おしりよりも真っ赤になってぱんぱんにはれて叩くたびにルゥはもの凄い悲鳴をあげた。


 ボタボタと、わたしの涙がルゥの背中の窪にたまっていく……。


 わたしの手はどんなに痛くてもいいの!



 お願い!



 「ふっう、ルゥ……グスッ……」



 バチィン!



 ルゥの大きな悲鳴が地下室中に響く。



 「はぁはぁ、グスッ……ルゥ?」



 ルゥは、ぐったりとしてビクリとも動かない。



 「ルっ」


 「う"ぁ"……ごえ"ん"ぁ"ぁ"……」



 え? ルゥ?


 ルゥは、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら必死に口をパクパクさせてる。



 「ほぉ、これは驚いた!」



 パパが、ぱちぱちと手を叩きながらにっこり笑ってわたしをみる。




 「ぱ……ぱ?」


 パパがわたしのそばまできて、涙を指でふいてくれた。


 「サシャ、よく頑張ったね!」


 「がんばった?」


 パパのひんやりした大きな手が、ほっぺをなでてる……冷たくてきもちい。


 「そうだよ、ルゥを見てごらん? パパの鞭じゃこうはならなかったよ」


 

 ルゥは小さく震えて、ぐすぐすと鼻を鳴らす。


 よく分からないと首をかしげるわたしに、パパは言う。



 「ルゥはね『ごめんなさい』って、言ったんだよ」



 ほんと?



 パパが頷く。



 「ルゥ! ルゥ……! あ」


 抱きしめようとしたら、手が滑って膝の上からルゥが床に転げ落ちゃった!



 「っぐ!」


 「きゃ! ごめん、あれっ?」


 直ぐに立とうとしたんだけど足が痺れて動けなくって、早くルゥのそばに行きたくていきおいをつけて立とうとしたけど足に力が入らないくてルゥのおなかの上にころんじゃった!



 ルゥは『う"っ』って、いって苦しそうな顔をした。



 「あああ! ごめんね! ルゥ……」



 わたしは、すぐにルゥからどいて赤ちゃんをだっこするみたいにルゥをだっこして、頭をなでて、ほっぺにさわっていっぱいキスをする。



 ルゥは分かってくれた!


 うれしくて、腕が痛いのもわすれてぎゅってする!



 「ルゥ……いい子、大好きだよ」


 「はは、なんだか妬けちゃうなぁ」



 パパが、ちょっと困ったかおをして咳きをした。



 「お嬢様」


 パパの後ろからロノバンがひょっこり顔を出す。

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