7
『滅っせいぃぃ!』
『覇王殺し』を振りかざす紫間木は獣の猛り声のように咆哮する。北斗の持つ物と同じならば、重さは優に十キロを越す妖刀を、まるで小枝を振っている位にしか感じていないのか、紫間木は凄まじいスピードで振り回し、北斗に迫った。
かたや北斗は、何故か自らの『覇王殺し』を引き抜かず、紫間木が放つ閃きの風を紙一重で躱し続けていた。
瓦礫の陰で様子を伺っていた那由他は、慌てて援護する為に飛び出そうとしたが、そんな北斗の様子から彼の狙いに気付いて踏み止まった。
「そうか! あいつの『気』が『覇王殺し』に全部喰い尽くされて自滅するのを待っているんだ!」
那由他の推測通り、程無く『覇王殺し』を振り回す紫間木の動きが遅くなり始め、やがて息切れして喘ぎ、両膝を地に落とした。
北斗は、やれやれ、とぼやきながら、漸く沈黙した紫間木を取り押さえるべく近付いた。
三歩進んだ所で突然、北斗の全身の細胞が一斉に前進する事を拒み、ほぼ無意識に背後へ跳び退いた。
それは視界に『覇王殺し』の柄を両手でしっかり握っている紫間木を捕えた刹那であった。僅かに残った北斗の残像を、膝を落としていた紫間木から届いた閃きが二つに分けた。
「「何っ!?」」
思わず瞠る北斗と那由他に、『覇王殺し』を右手に持って優雅に立ち上がる紫間木は、不敵な笑みを見せた。
「甘いな。自滅を待ったつもりだったろうが――俺もお前と同じ、この刀に選ばれた者だと言ったろ?」
「貴様、どうやって『覇王殺し』の制御を?」
愕然として訊く北斗の胸に、銀光の線が水平に疾る。薙いだあの一瞬で、紫間木は北斗の胸部を斬っていたのだ。
学生服に仕込んでいた鉄板が無ければ、駿速の回避をもってしても二つに分かたれていただろう。しかし衝撃波の全てを防いだわけでは無く、北斗はその場に膝を突いてむせぶ。
「ちぃ、よけたか。――むっ!?」
嘲る紫間木目掛けて、突然、火炎の球が襲い掛かった。
紫間木は咄嗟に『覇王殺し』を薙いでそれを容易く散らし、火球が飛んで来た方向へと振り向くと、そこには可憐な金色が色めき立っていた。
「これ以上、北斗に手を出すとあんたの身体を灼き尽くすわよ!」
たまり兼ねた那由他がとうとう飛び出し、同時に自ら修練の末に極めし『魔導法』の一つ、嗅覚を消費する〈炎波〉を紫間木に放ったのだ。
「ほう。これはなかなか綺麗な援軍だな。お前の女か?」
紫間木はいやらしそうにニタニタ笑い、小指を立てて北斗に訊く。北斗は何も応えず、朱塗りの鞘を杖代わりにして、よろめきながら立ち上がった。
「……那由他は手を出すな」
「でも!?」
「いいから下がってろっ!!」
怒鳴る北斗に、那由他は言葉を失くして戸惑う。
漸く北斗は、『覇王殺し』の鯉口を切った。
遂に二つ揃った妖刀は互いに、相手の刀身へ寸分違わぬ閃きを映した。
「ふはは。漸く、俺と斬り合う気になったか。しかし夜摩よ、今のお前に勝算は無いぞ」
「これ程度の胸の傷では問題無い」
「あぁ。勝敗を決める差は只一つ。夜摩、お前は『覇王殺し』の全てを解放していない」
紫間木の言葉に、北斗の貌が全てを理解した様に閃いた。
「……修羅にならねば勝てぬ、と言うのか」
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