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元々出るつもりの無い試合であった。北斗が通っていた高校の剣道部の部員が予選間際に、通学途中乗っていたバスが事故にあって怪我を負い、部員の半数が出場不能となってしまった。
団体戦の欠員補充に奔走していた剣道部の顧問は、たまたま北斗の父とは知り合いで、前々から注目していた帰宅部の北斗に白羽の矢を立てた。
大会に興味が無い北斗だったが、半ば強引に団体戦の先鋒として出場させられた。
その予選第一試合で、北斗は一人で優勝候補と呼ばれていた相手校の先鋒・次峰・中堅を敗り、副将を務めていた紫間木を、面へのたった一撃で敗っていた。その面への一撃は、軽く叩いたその見た目からは想像出来ない破壊力を秘め、面を被っていた紫間木に脳震盪を与えて昏倒させた。
その無様な結末は、試合開始前、紫間木が試合相手となる北斗を、
「どこの馬の骨だか」
と、嘲笑した事への返礼だった。紫間木が個人戦でも優勝候補であった事を北斗が知ったのは試合終了後であった。
北斗の高校は、予選第二試合で敗退した。北斗が、紫間木に圧勝した事で周りから注目されるのが嫌になり、第二試合では手を抜いて相手の先鋒に負けた所為である。
その後、北斗は個人戦には出場せず、さっさと会場を背にした為、紫間木はその場で雪辱を晴らすコトは叶わなかった。
「その雪辱を晴らす機会を翌年の大会に求めたが、お前は出場しなかった」
「俺は剣道部員じゃなかったからな」
「何故だ?」
「言ったろう、俺は剣道部員じゃ――」
北斗が疎ましげに言おうとするや、突如、あれだけ穏やかだった紫間木の顔が、怒相に豹変した。
「何故、あれだけの
紫間木の右手は空を抉り、北斗の顔を指して糾弾する。
「俺はな! 俺はあの日以来、お前を倒さんと血の滲む様な修行を続けて来たンだぞっ!!」
鬼の如き狂相の紫間木は、鞘から『覇王殺し』を引き抜き、剣先を北斗に向けた。
「殺すぅっ!!」
紫間木は『覇王殺し』を振りかざし、北斗目掛けて飛びかかって来た。全身から悍ましい鬼気を放つこの青年の魂はとうに外道へ堕ちていた。
北斗は咄嗟に跳び退いて躱すが、北斗が抜けた虚空を斬る紫間木の『覇王殺し』が伴う衝撃波が地面を打つや、地面が凄まじい大音響を上げて吹き飛んだ。
(刀身が届く前に地面を粉砕するとは――)
その余りにも凄まじい剣撃を知り尽くしていたハズの北斗ですら戦慄していた。
北斗は幾多の修羅場を、『覇王殺し』と呼び恐れられているこの妖刀に秘められた超絶的破壊力を朱塗りの鞘より解き放って斬り抜けて来たが、しかしその全てを知り尽くしてる訳ではない。
この妖刀の全てを引き出すには、自らの魂を妖刀に差し出さなければならないからである。
即ち、今の紫間木の様に。
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