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那由他は周囲をぐるり、と見回し、異常が見あたらない事を確認して胸をなで下ろした。
「まぁ、これなら確かに犯人が潜むには最適な場所だとは思うけどね。何かの確信があってここまで来たのかしら?」
那由他は、苛立った時の癖で、異邦人の父親譲りである綺麗な金髪の前髪の毛先を指で縒りながら小首を傾げ、再び北斗の方を見た。
北斗はもう先を進んでいた。那由他は北斗との距離を置いて、瓦礫の影に隠れながら追跡を続けた。
ほどなくして、北斗の歩みが再び止まる。
そこは横浜駅の一番北側で、線路と交差していた道路の高架線が線路を塞ぐ様に横倒しになり、城塞の如き巨壁を築いていた。
その手前で横転しているコンテナの上に、一人の男が立っていた。
齢は北斗と同じくらいだろう、かぎ裂きだらけのブレザーを着た青年だった。
もう一つ共通するものがあった。
大刀の収まった朱塗りの鞘を、青年も腰に下げていた。
「こんなところで逢えるとはな。久しぶりだな、夜摩北斗」
北斗と同じ鞘を持つ青年は、屈託の無い笑みを浮かべた。
「お前は……確か、……
お互い旧知のようであるが、後を付けて来た那由他には、初めて知る名と顔であった。だから崩れ落ちたビルの壁の陰に隠れて、暫く二人の様子を伺う事にした。
紫間木と呼ばれた青年はコンテナの上から颯爽と飛び降り、北斗の方へ少し近寄った。
「六年振りぐらい、だよな」
紫間木は微笑んで言う。よく見ると仲々の男前である。その笑顔から誰もが好青年という第一印象を抱くであろう。
那由他はそう思わなかった。北斗を見る紫間木の瞳を警戒していた。
血に飢えた獣の目。
今や、よく見慣れた、敵対する妖魔がする燐光の如き一対の輝きを、この青年の瞳も湛えていた。
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