第3話 カモられアレッサ
食堂に取り残されたアレッサは、自分の足を固める氷にお茶をかけようとしてみたものの、すんでに服に染みがつくと気づいて、ティーカップを押し当てて氷を解かした。
「ふぅ」
自由になって、すっかり冷たくなったお茶を飲み干す。
ロビーのいとこはまだ動けずにいて、横をすり抜けて外へ出る。
村の奥の崖に開いた洞窟は、ウォロフスの死から三年経って、思いっきり観光地になっていた。
洞窟に入ってすぐ、日の光がまだ届くところで、通路は二手に分かれている。
村に着く前から耳に入ってはいたのだけれど、ウォロフスの洞窟では、対立する二つの“発掘者組合”が睨み合いをしていた。
近づく者を追い払ってウォロフスの宝を独占しようとする勢力と、入場料を取って発掘をさせる勢力。
入り口から見て右側の通路は、屈強な大男が腕組みをしてふさいでいた。
アレッサが入れるのは、当然ながら、左側の入場料のルートのみ。
こちらのひょろりとした受付け嬢に、入場料とは別につるはしのレンタル料も払わされ……
歩き始めたところで入り口から争う声が聞こえてきた。
「どうなってやがんだ!? 前と逆になっているじゃねえか!?」
どうやら以前は左側のほうが宝が出る可能性が高いと言われていて、その頃は左側を取り仕切る組合は洞窟を独占し、右側を取り仕切る組合は入場料を取って解放していたらしい。
それが最近になって、宝があるのは右側だという説が有力になった。
争っている人は、その話を聞きつけて入場料を払って右側を掘りに来たのに、今度はその右側が組合に独占されていると言って怒っていた。
洞窟の中は複雑に枝分かれしているものの、手すりが隈なく張り巡らされ、迷わないよう目印が細かくつけられて……
入場料を取るだけのことはされていた。
枝道のいくつかは落盤の恐れありとのことで、板でふさがれて立ち入り禁止の札がかけられていた。
掘っても大丈夫な枝道の中から、先客の居ない場所を探して、発掘とも呼べない雑な穴掘りを始める。
(ボク、何でお金を払ってまでこんなことをしてるんだろう?)
アレッサも最初のうちは警戒していた。
(ボクが宝を見つけたら、組合の人がボクをねじ伏せてその宝を奪うんじゃないかとかさ)
祖父の悲願を叶えるために幼い頃から剣の修行を積んできて、地元の子供の中では一番強くて男の子にも負けないけれど。
祖父から託された剣は、つるはしをレンタルする際に係りの人に持っていかれてしまったし。
それでなくても組合の大人の男達と自分が戦っても勝ち目がないことぐらいはわかる。
だけどそんな心配をする必要なんてないぐらい、宝の気配は皆無であった。
(あれ?)
天井から小石がパラパラと落ちてきた。
(もしかして危ないのかな?)
そう思った次の瞬間、岩壁から氷の槍が、まるでそういう罠のようにガガガッと生えてきた。
「わわわっ!?」
アレッサは慌てて通路の反対側の壁まで逃げる。
置き去りにされたつるはしを飲み込んで、先ほどまで掘っていた岩壁が崩れ落ち、人が通れる穴が開く。
穴の向こうからピョコっと顔を出したのは、銀髪の魔女、スリサズだった。
スリサズは組合に独占されているほうのルートを、組合員を魔法で退けて強引に進んできたのだ。
「あら? アンタ……」
「あああああ!?」
アレッサは、崩れた岩の下からつるはしを引っ張り出して泣き声を上げた。
つるはしはポッキリと折れていた。
柄の部分ではなく、金属の部分が。
「……あたしのせいじゃないわよ」
「えええええ!?」
「これ、壊れやすいように細工がしてあったのよ」
金属の折れ目をスリサズが指でつついて示す。
「それじゃ、これを借りる代わりに預けていた剣は……」
「最初から騙し取るつもりだったんでしょうね。あんたが持ってるようなモンなら、そんなに高価だとは思えないけど」
「高価じゃなくても、じいちゃんから託されたのなんだよォっ!」
「…………」
スリサズは、自分が持っていたつるはしをアレッサに差し出した。
「いいの?」
「重いから。運んでくれるんならあたしについてきてもいいわよ」
つまり荷物持ちをしろということだった。
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