第4話 カブかぶりのダンス
ステージの上でダンスを終えたスリサズが、カブマスクが脱げないように右手で押さえつつ、左手でスカートをつまんでお辞儀する。
0点。見かねた審査員のお情けで一点。
客席から上がった拍手は、内容ではなく、勇気を称えるものだった。
(あたしがカブ姫コンテストに出てるのは、例の町娘に接近するのが目的だからで、別にあたしが何位になっても意味ないんだけどさっ)
それでも最下位確定というのはモヤモヤする。
(顔を競うコンテストならあたしもいいセン行くと思うけど、これってカブマスクの出来を競っているのよねっ)
スリサズのカブマスクは露天で買った安物。
入れ違いにステージに上がった貴族の娘がかぶっているのは特注品で、おそらく一流の職人の手によるのだろう。
目も口もカブとは思えないほど繊細な表情をたたえ、後頭部には大輪の薔薇が透かし彫りで描かれていた。
コンテストはつつがなく進んでいく。
ステージのすそのカーテンに隠れて、スリサズはリトーナ姫の出番を見守った。
隣国の王女はこれ見よがしに豪華なドレス姿で、そこいらの貴族の娘ともハッキリと区別がついた。
(庶民の服を着ているのは……)
スリサズは出番待ちの列に目をやった。
(……あたしの他は、王子の恋人の町娘だけね)
リトーナ姫の、白鳥を思わせる優雅な舞が、カブマスクに刻まれた天使のレリーフを引き立てる。
本物のように柔らかそうな羽の絵柄は、細やかな陰影によってそう見せていて、実際にはカブ以外の素材は使われていない。
音楽が止まり、姫がシメのポーズを決めると、十人の審査員のうちの九人が札を上げた。
(一人だけ買収に応じなかった?
それとも、満点ではさすがにバレるって考えたのかしら?)
しかし客席からは、札を上げなかった審査員への不満の声。
(うん。満点じゃないほうがむしろ不自然だわ)
スリサズはほほを掻こうとして、カブマスクに指が当たってちょっとイライラした。
いよいよ件の町娘がステージに上がる。
名前はマリーというらしい。
カブマスクは市販のものだけれども、穏やかなタレ目が印象的で、この人は特別な女性なのだと感じさせられた。
地元の民謡に合わせてマリーはくるくると回り、さまざまな角度でマスクを審査員に見せる。
生成りのドレスのすそが広がり、質素さは清楚さへと印象を変える。
(顔はどんななのかしら?)
きっと可憐に違いない。
王子のハートを射止めるほどに。
けれどカブ姫コンテストの趣旨では、たとえ優勝してもマスクは取らない。
スリサズはマリーの生まれも育ちも知らない。
わかっているのは、語れるほどの家柄ではないという点だけ。
それでもマリーの身のこなしからは不思議な気品が感じられ、王妃にふさわしいのではとさえ思える。
けれどそれもスリサズには関係のないこと。
王様からの依頼を果たし、王様との接点を持ち、王様への謁見を図る。
ある目的のために。
(王子様の幸せなんて、あたしの知ったことじゃあないわ)
スリサズは口の中で小さく呪文を唱え始めた。
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