第3話 カブ神様の前で愛を誓う
日は暮れて、カブ姫コンテストの開催直前。
広場の特設ステージの裏の、大きなテントの中をついたてで仕切ったスリサズの楽屋に、昼間の占い師がやってきた。
「占いの力で真相を突き止めました」
「ふーん? あたしは占いとかあんまり信じないけど?」
「“正直に答えないと悪いことが起こると占いに出ている”って関係者に言って回ったら、皆さん素直に教えてくれました」
「それは占いの力と違ウッ!!」
「王子様の結婚相手は、隣国の姫か、町娘か。それはカブ姫コンテストで決まる」
スリサズの叫びを占い師は無視した。
「魔法使いさんは冒険者の酒場の依頼ってヤツで、カブ姫コンテストで町娘さんを妨害するつもりなんですよね?
町娘さんに手荒なことをして王子様にバレるのはマズイですけど、魔法を使えば気づかれずにそれとなく町娘さんの邪魔ができますから!
王国の人ではない流れ者の冒険者さんに依頼をすれば、さらに足がつきにくくなります!
そんな依頼を誰が出したのかは、いくら脅しても誰も答えてくれなかったけれど、想像はつきます。
王子様と町娘さんの仲を裂きたいのは誰か……
魔法使いさんの依頼人は、ズバリ! リトーナ姫ですね!?」
「はずれ。でも、近いとだけ言っておくわ」
「えー? それじゃ、大臣とか王様とか?」
「ナイショ」
冒険者の酒場の店主によれば、依頼書を持ってきたのは王様の使いの者だそうだ。
リトーナ姫と目的は同じはずだが、姫は姫で審査員の買収に動いているようなので、姫と王で連絡を取り合ってはいないのだろう。
王族の結婚にまつわる問題。
それなりの筋からの依頼でなければ店主だって受け取らない。
他人の恋路の邪魔をせよとは、あまり気分の良い仕事ではないが……
(王様からの依頼だからね。他の国の王様なら知らん顔して逃げてやるけど、ここの王様とはどうしても……どんな手を使っても、近づくきっかけを作んないとなんないのよ……)
押し黙ったスリサズに、構わず占い師はわめき立てる。
「わたしの調査によれば!」
占いではなく調査。
「王子様と町娘さんは、すでにカブ神様の前で愛を誓っています!
もしも魔法使いさんの妨害で町娘さんが優勝を逃したら、カブ神様への誓いが破られてしまいます!
それこそがカブ神様の怒りの原因なのです!
だから魔法使いさん! 町娘さんに手を出さないでください!
でないと世界が滅びてしまうんです!」
占い師はスリサズに詰め寄ろうとした……が……足もとが明らかに不自然に滑って派手に転倒した。
「い、今の……あなたの魔法……?」
「こっちも仕事だからね。これをやめるつもりはないわ」
スリサズは占い師をじっと見た。
しばらく見つめ合って、占い師はニッと笑って楽屋を出て行った。
スリサズがどんな魔法を使うか、その魔法でどんな妨害をするか、町娘に知らせに行くのだ。
スリサズは小さくため息をつき、ポケットからレンズを取り出して、テントの窓から夜空を覗いた。
そこにあるのはカブ神様と呼ばれる、星々の中でもひときわ大きな、七十年に一度の輝き。
コメティア王国の人々が崇め、占い師が世界の破滅をもたらすと畏れるそれは……
(ただの彗星なのよねー)
父が作った特別なレンズを通しても、その光の中に、神としての魂は見られなかった。
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