第2話 カブ神様が世界を滅ぼす
「お願いです! やめてください!」
占い師が、見た目の割りに子供っぽい声で叫ぶ。
スリサズは頭上に疑問符を浮かべつつ、とりあえずカブスープの器から唇を離してスプーンを持ち直した。
「あなたがしようとしていることは、世界の破滅を招きます!」
「カブを食べることが!?」
「そうなんですか!?」
「……」
「いえ、実はわたしにも詳しくはわからないんですけど。
入院中の師匠から預かったこの彗星玉が、世界の危機を告げちゃってるんです!」
「彗星玉……って、その水晶玉?」
「はい。彗星というのは、カブ神様の別名だそうです」
今の時間では空が明るく、彗星はまだ見えないが。
長く尾を引く白い星の姿を、コメティア王国の人々は、巨大なカブととらえているのだ。
占い師は彗星玉をかかげて、スリサズにとてとてと近寄ったり、さささっと後ずさりしたりをくり返した。
彗星玉はほのかな光を放っており、それはスリサズに近づくと強まり、離れると弱まった。
「ほらほら、やっぱり! あなたに反応してます! あなたが原因なんです!
彗星玉に映ってるんですよ! 修業してない人が見ても何も見えないんですけど! 師匠のもとで何年も修業を積んできたわたしには見えるんです!
怒りに狂ったカブ神様が、大地にタックルをぶちかまして、世界が吹き飛んで人類どころかドラゴンまでもが死に絶えるぐらいの大災厄を巻き起こす光景が!!」
「ドラゴンって、丈夫な生き物の代名詞じゃないの!? カブ神様ってそんなにヤバイの!? カブの神様なのに!?」
「カブをナメてはいけません!! カブ栽培の歴史は古く、痩せた土地でも良く育ち、捨てられがちな葉っぱのほうが本体よりも栄養たっぷりなんですよ!?」
目を丸くするスリサズを、占い師はキッとにらみつける。
「あなた……カブ神様に何をするつもりなんですか……?」
「…………」
スリサズはスッと押し黙った。
氷の魔女の今後の予定。
まずは祭りを堪能し、日暮れを待って……
ある人物からの依頼を実行する。
「……あなたは……いったい……」
「占いで当ててみたら?」
「彗星玉ではそんな細かいことは見えないんですゥ!」
「じゃあ、教えてあげてもいいけど、その代わり……」
「その代わりっ?」
占い師は目をキラキラさせてスリサズの顔を覗き込んだ。
「その彗星玉、ちょうだいっ!」
「はあああア!?」
ずざざざざっと後ずさりする。
「ととと、とんでもない! だってこれは! 師匠の! そんなの困る!」
「じゃ、ナイショ」
スリサズは冷たくツンとそっぽを向いた。
「と、とにかく! 世界が滅びたら、あなただって死んじゃうんですからね! やっちゃダメですよ! 絶対ですよ!」
占い師はひとしきりまくし立てると、急に人目が気になり出したのか、顔を真っ赤にして走り去った。
そうすると周囲の視線はスリサズ一人に集まることになり、スリサズは慌ててカブスープをかき込んだ。
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