第6話 コロンの活躍

 急に村が騒がしくなった。

「泥棒だ!」

 叫び声が聞こえ、様子を見に玄関へ行きかけて引き返す。

 階段を駆け上がって屋根裏部屋の窓を開けると、分厚い毛皮に覆われた大きな犬が、何かをくわえて雪の上を走り抜けていくところだった。


「コロンのやつ、また食べ物を盗んだのかよ!」

 ティムが叫び、きょとんとしているスリサズにボビーが説明する。

「いつもは村の皆で適当に残飯をあげているんだけれどな。春が来ないせいで村中が食糧不足だからさ。犬も人も皆、お腹が空いているんだよ」

 コロンを追い回す村人達は、犬すら食べてしまいそうな勢いに見えた。


 その人々の足が止まり、犬が逃げ去る。

 空を仰いで嘆きが漏れる。

 再び雪が降り出したのだ。


 風が強まり、吹雪き出す。

 人々がそれぞれの住まいに逃げ戻る。

 雪の妖精を追い払おうにも、シロップはもう使い切ってしまっている。

「魔女以外は来ちゃ駄目よ」

 そう言い残してスリサズはティムの家を出た。


 スリサズが少し探すとコロンはすぐに見つかった。

 ティムの家の納屋の陰で、風を避けてうずくまっていた。

 コロンはスリサズが村人のように殺気立っていないのを見て取って、くーんと鳴いて、スリサズについてくるようにうながした。




 導かれた先は、村の南の雪山だった。

 スリサズが来る時にソリで滑り降りたのとは別のコースの、山の中腹。

 木々の陰の、目につきにくい斜面に、洞窟がぽっかりと口を開けていた。


 自然にできた、ありがちな洞穴。

 その横穴をしばらく進んだところで、不意にコロンが立ち止まり、口にくわえたパンを放した。

 パンはコロンの足もとを越えてずっと下へと落ちていった。

 コロンの前には縦穴があるのだ。


 スリサズが落ちないように慎重に縦穴の中を覗き込むと……

 穴の底には、毛皮のマントに身を包んだ、六年前の面影を残す顔とスラリと伸びた手足を持つ美しい青年が、自分の体を抱くように縮こまって倒れていた。


 目は閉じられ、すぐそばに転がるパンに手を伸ばしもしない。

「ハロルド!」

 スリサズが呼びかけても、春告げ鳥はピクリとも動かなかった。

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