第4話 抵抗

 口に出す出さないは別として、光の里に住む者が闇の魔力を持って生まれたことを不幸と思っていないのは、クローレ本人だけだった。

 自分の才能に気づいたばかりの幼い少女にしてみれば、他の子供に使えない力を発揮するのは楽しく、それによって大人が顔をしかめるのがまた快感で、クローレは死霊術ネクロマンシーの勉強に励んだ。

 けれど里で学べることは少なく、成長したクローレは、教本を求めてふもとの町へと頻繁に下りるようになった。


「そこで出会った女の子達に言われたの。

 生け贄なんてダサイって。ましてや人身御供とか、いつの時代だよって」


 夜空にひときわ大きな星が現れるようになったことには、町の人々も気づいていたし、怯えている人も少なくなかった。

 それでも町の娘達は、人間の生け贄などありえないと言った。


「だから考えたのよ。儀式とは別の理由で死んだ人を使えばいいんじゃないかってね。

 アタシに闇の才能が与えられたのはこのため!

 里の大人達にバカにされてきた死霊術ネクロマンシーを、里のために、いえ、世界のために役立てられる時が来たのよ!

 それなのに……それなのに……!

 ブラム様は頭が固すぎるのよッ!!」


 せっかくの素晴らしき提案をにべもなく却下されたクローレは、人気のない深夜の神殿で一人で儀式を進めようとして、明かりに気づかれ途中で止められ、祭壇にゾンビの臭いがついたとめちゃくちゃ怒られてしまった。

 ゾンビでは生け贄の代わりにならないと言われても、ゾンビが大好きなクローレには納得ができなかった。

 数日後、再び神殿に忍び込んだクローレは、大人達の話を盗み聞きし、ブラムが夢のお告げをもとにクローレを生け贄にしようとしていると知った。




(ただの夢ね)

 スリサズは胸中でつぶやいた。

(クローレの問題とオホシサマの問題。

 二つの悩みが頭の中でくっついちゃったからそんな夢を見たってだけでしょ)


 クローレは、雪ダルマの中から空を見上げる。

「そもそもどうして天の牙は、今になって戻ってきたのか。

 何が天の牙を呼び寄せたのか。

 思い当たったのが、何年か前に、邪神を冒涜した男の存在。

 つまり! ただのゾンビじゃ物足りなくても、ソーンのゾンビを捧げれば、邪神も納得するはずなのよ!!」


 もともとは邪神を聖なる力で追い払っていたはずが、何故か邪神サマのご機嫌を取って帰ってもらう話にすり替わっていた。




「ねーねー、ブラムさん。生け贄って、殺しちゃうってことよね? あなた、本当にクローレを殺すつもりなの?」

 スリサズが粘っこい声で尋ねる。

 台詞めいた棒読みで、具体的な単語を意識的に使っているのに、ブラムはまったく気づかない。


「当然じゃ! 世界を救うためなのじゃから!」

 ブラムは胸を張って答えた。


「・・・だそうだ」

 ロゼルが下を向いてつぶやいた。


「しかと聞き届けました!」

 ロゼルの足もと、先ほどまでロゼルが身を隠していたのと同じ穴から、大柄な男が飛び出してきた。

「我はフルール王国騎士にしてブランロジエ領主代行、ロレンスである!

 ブラムよ、汝を殺人予備罪で逮捕する!」

 高らかな声が響き渡る。

 男は厚手のコートで防寒対策ばっちりで、いかにもな鎧も馬も屋敷に置いてきているけれど、騎士の威厳はしっかりまとっていた。


「ア、アタシを助けてくれるの……?」

 これでもうクローレは教団に命を狙われなくて済む。

 長いまつげに涙が浮かぶ。

 その顔に、スリサズが魔力の吹雪をブワッと吹きかけて完全に雪ダルマにした。

「あんたも死体損壊罪だから! 人ン家のお墓にふざけたことしてんじゃないわよ!」

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