第4話 百年目の真実

 百年菊を切り裂きジョニーの墓の隣に植え替える。

 墓石には墓碑銘の他にも文字が刻まれていた。


『あなたの無実をわたしは知っている』


 この文字を刻んだのはいったい誰なのだろう?

 観光客はさまざまな思いつきを仮説ぶって並べ立てる。

「百年前の神父だろう」

「神父はジョニーとは面識がなかったはずなのに、どうして無実だと言い切っているんだ?」

「ゴーレムを作ったのは神父様じゃなくて旅の魔術師だって聞いたわ。その人が書いたのかも」

「碑文の言葉が本当なら、真犯人は誰なんだ?」

「無実を知ってるってことは、この文字を刻んだ奴が犯人なんじゃねーのか?」

「そうとは限らないザマス。そもそもこの文字は単なるイタズラかもしれないザマス」


 切り裂きジョニーの正体については、事件当時からさまざまな説がささやかれていた。

 なかなか捕まらないのは役人の中に犯人が居るからではないかとか。

 被害者の遺体があまりにも上手にバラバラにされていたから、解体に慣れた肉屋か、人体に詳しい医者じゃないかとか。

「実は私の先祖も容疑者の一人だったんですよね」

 シッカートがニヤニヤと自慢げでいられるのは、事件からすでに百年が経ち、事件が過去の話になっているからに他ならない。

 そうでなければきっと誰も……少なくともメイブリック村の住人は……犯人とされて殺された男が無実だったかもしれないなんて口が裂けても言わないだろうし、その頃に碑文を見ていれば墓石ごと壊してしまっていたはずだ。


 スリサズは小さく肩をすくめた。

 全ての謎は、百年菊の花弁の下で眠るのみ。

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