第2話 九十九年間の墓守
翌朝。
スリサズはシッカートの案内で、ゴーレムが目撃された森へと入っていった。
「私らではまったく歯が立たなかったんだがね、魔法で攻撃すればちょちょいのちょいなんだろう?」
「種類によるわ」
ゴーレム――石や土を材料にした人型の
だからシッカートがクワで殴りかかっても効果がなかったと聞かされてもあまり参考にならなかったが、とりあえずデカくてカタいという点だけは間違いなさそうだった。
そのまま歩いて昼過ぎ頃。
木々が途切れ、スリサズ達の目の前に、大きな滝が現れる。
人の倍ほどの背丈のゴーレムが、滝つぼの周りの開けた土地をゆっくりと歩いていた。
「……何……アレ……」
スリサズは思わずつぶやいた。
「何って、ゴーレムだろう?」
シッカートは状況がわかっていない様子で肩をすくめた。
「何であいつの頭に草が生えちゃってると思っているの?」
「そりゃあ、土でできているのだから。え? だってゴーレムって土でしょう?」
そもそも魔法を使える人間が村に居ないから役場でスリサズを雇ったわけで、魔法に縁のないシッカートがこういう反応になるのは仕方ないことなのだが、スリサズは気にせず盛大にため息をついた。
「切り裂きジョニーのお墓が建てられたのって百年前よね?」
「九十九年だよ。来年で百周年だ」
「ゴーレムにも寿命ってモンがあってね、遺跡とかを守ってるような石のゴーレムも、何千年も持ちはするけど、やっぱり寿命はあるわけなのよ」
「ふむ」
「そこのゴーレムは土製。普通、土のゴーレムは、簡単に作れる代わりに、すぐ壊れるの。
旅の魔法使いが行きずりの魔物に襲われた際に、足もとの土を使って数秒で作って、戦闘が終わったらさっさと土に戻しちゃうみたいな感じね」
「んんん? 待ってくれ。どういうことだね?」
「わからない。
あのゴーレムが、九十九年前ではなく、つい最近作られたのか。
それとも作り手が、土のゴーレムを百年近く持たせられるような強力な魔力の持ち主だったのか……
でも、長持ちさせたいんなら、何で石でなくわざわざ土にしたのかしら……」
「変わり者だからじゃないのかね?」
「ああ。シンプルでいいわね。そりゃまあそうなんでしょうけれどね」
ゴーレムに見つからないようにしばらく尾行する。
スリサズ達はすぐに切り裂きジョニーの墓の場所にたどり着いた。
ゴーレムは、墓石を磨き、野の花を供え……
そのために、こちらに背中を向ける姿勢になった。
「チャンスだぞ、スリサズ君! さあ、今のうちに魔法をぶち込みたまえ!」
「…………」
「どうしたのかね? スリサズ君?」
「…………」
「……まさかゴーレムに同情でもしているのかね?」
「はア!? なワケないでしょ!?」
「だってあいつ人型だし、人間っぽい動きしてるし」
「あーのーねーえー! ゴーレムってのは、単なる動く物体なの! 命もなければ魂もないの!
それなのに、ただのモノを壊すのがかわいそうだなんて、ありえないでしょ!? そこいらのシロートじゃあるまいし!!」
「いや、しかし、君……」
「こっちは一流の冒険者で一流の魔法使いなんだから!! 仕事ぐらいちゃんとやるわよ!!」
一流とはあくまで自称だが、少なくとも気持ちは一流だ。
シッカートの声にからかいの色を感じ取ったスリサズは、怒りをぶちまける代わりに、魔法で作り出した無数の氷の矢をゴーレムに撃ち込んだ。
が……
「まさかッ!?」
氷の矢はゴーレムの背中でパリンと砕けて弾け散った。
ゴーレムが立ち上がり、振り返る。
スリサズは力を強めて今度は氷の槍を撃ち込んだが……
「君イ!? 効いてないじゃないかア!?」
シッカートが叫ぶ。
「下がってて!!」
ゴーレムがこちらへ突進してくる。
威力の高い魔法を放つには、魔力を溜める時間がかかる。
スリサズは、一瞬でできる中では最強の魔法で、ゴーレムとほぼ同じ大きさの氷の塊を作り出してゴーレムにたたきつけた。
バキッ!!
ゴーレムのパンチで、氷塊は真っ二つに割れてしまった。
「うわあああっ!!」
慌てて逃げ出そうとしたシッカートは、魔力の余波で足もとが凍っているのに気づかず、すっ転んで川に落ちる。
ゴーレムがスリサズに迫る。
スリサズは、先ほどゴーレムに割られた氷が水面に浮いているのに気づいてそこに飛び乗った。
「えい!」
風の魔法で落ち葉を運び、氷の上に敷き詰めて滑り止めにしてシッカートを引き上げる。
そのまま川を下ってメイブリック村へ。
無事に帰れはしたものの、スリサズの魔法はゴーレムに通じないとわかり、シッカートはスリサズをクビにした。
ここまでが、一年前の話である。
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