第4話 終焉
「町を抜ける途中で気づいたわ。半分に斬られて漂流している島を、さらに半分に分けるような争いが起きてた。責任のなすり合いから紛争へ、って感じ?」
口いっぱいにシフォン・ケーキをほおばる。
あの町でいろんな言葉を耳にした。
『あいつらだって独立に賛成していたくせに』
『あいつらは王様に許してもらうために俺達に責任をなすりつけるつもりだ』
『そもそもあいつらが悪いのに』
シフォン・ケーキを飲み込む。
「西の避難所の人達も、東の避難所の人を批判してたわ。『私達を助けなくていいだなんて、そんなひどいことを言う奴らなんか助けなくていい!』ってさ!
ツラランは妙に納得していたわ。『きっと一つ目の争いもこんな感じだったんだね』って。
で、二つの勢力がお互いに『相手を助けるな』って言って、あたしの奪い合いになっちゃったわけよ。バッカみたいよねー。力づくでこのあたしをどうにかできると思うだなんて」
オレンジのタルトに手を伸ばす。
「ツラランのお父さんは“ひあぶり”にされたそうよ。直射日光であぶられて処刑されたの。
ツラランは、ショックは受けてたけど、実感はないみたいだった。氷人間には寿命はないし、病もないし、怪我をしてもくっつけて冷やせばすぐ治るから。普通に暮らしている限り、死ってものに縁がないんだってさ」
タルトを頬張る。
「右も左も氷でできてるような国でも、貧富の差ってのはキッチリあってね。
逃げてるうちに……いえ、無用なトラブルを避けて回っているうちに、貧しい区画に迷い込んじゃってね。
小さい家はとっくに屋根も壁もなくなっちゃっていて、避難所から締め出された人達が、あたしの目の前で水溜りになっていったわ」
タルトをもう一口。
「追っ手はどうにかできたけど、お日様からは逃げられないからね。結局はツラランも解けて水になっちゃった。あたしもがんばったんだけど、魔力を使い果たしちゃってね。
ツラランだった水をバケツに入れて、漁船に乗せてもらって脱出したの。氷人間じゃない、あたし達みたいな人間の漁師の船よ。
南ノスポル共和国の最後の日、お屋敷もスラムもみぃんなただの水になって、海に流れてサヨウナラ」
紅茶を一口。
「漁船にもバケツが一つ乗っていてね。中の水は、プリンセス・ソルベッタだったの。
北の王様の娘。ツラランに逢いたがっていたから漁師さんが連れてきてくれたの。
漁師さんの話では、北と南に切り裂かれた氷の島は、北は北で漂流して、世界の果てをグルリと回って、結局、あったかい海域へ流されて解けて消えてしまったんだってさ」
紅茶をもう一口。
「お姫様とは話はできなかったわ。水には喉なんてないから。
ツラランも、意識があったのかもわからない。
あたしは二人分の水を一つのバケツにまとめてから、甲板から海にそそいだ」
二つに分かれた国が、バラバラになった人々の心が、解けて消えた一つの海へ。
「だって……船には漁師が三人乗っていたんだけど、その中の一人が何度もバケツを蹴り倒しそうになってたし、別の一人は掃除用のバケツと間違えてモップを突っ込みそうになっていたんだもの」
紅茶がからになった。
「北の海にあった氷の島を二つに切り裂いたのってロゼルよね?」
「・・・俺のせいだ」
「傭兵が言う言葉じゃないわよ。王女様の依頼だったんでしょ? ソルベッタ姫は争いを早く終わらせてほしかったのよね」
「・・・王女は、距離をとって頭を冷やせって言いたかっただけだった。・・・あんなことになるなんて、誰も考えていなかった」
「うん。ソルベッタ姫もそう言ってたわ」
「・・・?」
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