第3話 新生・南ノスポル共和国

 スリサズとツラランを乗せた船が新生・南ノスポル共和国の港に着くと、スリサズの吐く息が白く煙った。

 そこは本当に何もかも氷でできていた。


「氷の波止場は足もとがツルツル滑りまくったんだけどね、そこはほら、あたしみたいな氷の魔女には通じないわけよ。ブーツにはしっかりとスパイクが着いているわけ。依頼の前金で新品のコートも買っておいたしね」


 シフォン・ケーキをフォークで切り崩す。


 記憶の中の人気のない町では、氷がひび割れる音と、溶けた水が滴る音がうるさいほどに響き、建物が崩れる音も時々聞こえていた。

 ノスポル王国の町並みは、噂では氷のブロックを積み上げて築かれ、全体的に角ばった印象でありつつも、あちらこちらに繊細な彫刻が施された均整の取れた美しい景色……だったらしい。

 それら全てが解けかけて、不規則にゆがんだ丸みを帯び、のっぺりとした不気味な姿をさらしていた。


「東の避難所はね、もともとは大貴族サマのお屋敷だったんだけれど、貴族も家族もみぃんな行方不明になっていたわ。たぶん解けて消えてしまったんでしょうね」


 ツラランはこう言っていた。

『僕達氷人間は、スリサズさんみたいに遺体が残ったりはしませんから、死ぬ瞬間を誰かが見てたのでない限り、死んだかどうかの確認なんてできないんです』


「お屋敷の中ではたくさんの氷人間がうずくまってた。みんな小さいから子供ばかりなのかと思ったら、解けて小さくなった大人だったわ。子供は縮みすぎてもう残っていなかった。

 その人達は北の海へ帰りたがっていたわ。王様が居る、北半分の島へ。あたしの仕事は、北半分との話し合いがつくまで、この島を冷やし続けることなわけだったのよ」


 強く突いたフォークが、シフォン・ケーキを突き抜けて皿に当たった。


「次に西の避難所へ行こうとしたら、止められたの。最初はちょっとスター気分だったのよ。あたしが居なくなるのが寂しいのね、みたいな。

 でもそんなんじゃなかった。その人達、こう言ったの。『あんなやつらを助ける必要はない』って。

 あたしだけでなくツラランもきょとんとしちゃってね、とにかくその人達を振り切って、もう一つの避難所へと急いだわけよ」

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