第2話 大臣の息子

「ツラランと出会ったのは、良くある冒険者の酒場だったわ」

「・・・」

 ロゼルがスリサズを睨む。

「別にあたしはお酒なんか飲んじゃいないわよ。お酒に入れる氷を作るアルバイトっ。

 そしたらちょうどいい具合にツラランが依頼を持ってきてね。解けゆく氷の島を救うために、氷の魔法を使える魔術師を探していたのよ。

 報酬は上々……のはずだったわ。あの国は魚が良く取れるのに住人は魚なんて食べないから、全部輸出に回してたからね」

 言いながらスリサズは、運ばれたばかりのカスタード・プディングにスプーンを突き立てた。


 ツラランはノスポル王国の大臣の仕事を補佐するために、大臣自らが氷を削って作った“息子”だった。

 しかし父いわく、出来はあまり良くなかったらしい。

 ツラランは生み出された目的に反して、政治に関心を示さなかったのだ。

 そのせいで、どうして大臣である父が王様に対し反乱を起こしたのかも、どうしてそれが内戦にまでなってしまったのかもツラランには未だにわかっていなかった。


 カスタード・プディングを咀嚼そしゃくしながら、ツラランの言葉を思い出す。

『父は家庭では厳しい人だけど、世間で言う悪人ではありませんし、国民が苦しむようなことを望んでなんかなかったはずです。王様とは僕はちょっと挨拶しただけだから、いい人か悪い人かなんてわかりません。ただ僕、王女様とは仲が良かったんですよね』

 空を見上げてツラランは、子供じみたしぐさで首をひねっていた。

『王女様はお父上のことを国民思いのいい王様だって言ってました。でも父も、いい大臣だったはずなんですよ』


 氷人間のツラランは、日の光を避けるため、まるで砂漠の民のように全身を白い布で覆っていた。

 氷の島へ帰る船の中で、スリサズは時折、ツラランの布の中に魔法で冷気を送ってやっていた。

 白い布はかなりのブカブカだったが、ツラランが氷の島を旅立った時には体にぴったりだったそうだ。

 もともとはそれくらいの大男だったのだ。

 しかしツラランがスリサズと出逢った時には、小柄な彼女と同じくらいの大きさにまで解けていて、その後は彼女よりもさらに小さくなっていった。

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