氷の魔女と流氷の都市

第1話 ノスポル王国の内戦

 貿易港の片隅の、宿屋の食堂で語らう二人。

 どちらもいかにも流れ者といった簡素な衣服。

 一人はその上に護符の類をいくつもまとった少女、スリサズ。

 もう一人は剣を携えた青年、ロゼル。


「ねえ、ロゼル。ノスポル王国って知ってる?」

「・・・ああ」

「行ったこと、ある?」

「・・・・・・ああ」


 はるか遠く、世界の果てともいわれる北の海上に、氷だけの国がある。

 いや……あった。

 大地はなく、凍った海水の上に雪が積もって固まって島になった、氷の他には何もない王国だった。

 そこでは家々も城も全て氷でできており、草木も氷から生えた氷の塊。

 さらには何と人間さえもが氷の彫像のような姿をしており、事実、彼らは同族の手によって必要に応じて氷から削り出されて作られていた。

 故に大人として作られた者は最初から大人であり、子供として作られた者は解けるまで子供のままだった。


 少し前、そのノスポル王国で内戦が起きた。

 北と南。

 二つの国に分かれるにしても、少しでも多くの領土を自分の側のものにしたいと、お互い同じことを考えた結果、争いは長引いた。

 内戦の原因については、一介の冒険者が意に止めるような必要はない。

 傭兵として雇われるのに、どちらが正義かなど考えるのは無意味。

 金を払う者のために、料金に相応の働きをする。

 それだけだ。


 内戦は、北が雇った炎の剣士が、氷の島を北と南に真っ二つに切り裂いたことによって終結した。

 北から切り離された半分は、海流に乗り、南へと流れた。

 北よりも気温の高い南へ。

 そして、解け始めた。


「・・・その話をしたくてわざわざ呼び出したのか?」

「てゆっか、あたしの武勇伝を聞かせたくてね」

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