第7話 二人は月の下で

 スリサズは風を操って空気のクッションを作り、甲板からロゼルの傍へスタッと飛び降りた。

「ザワージュ号はキャプテンに復讐がしたくて追っかけ回していたのよ」

「・・・一〇〇年かけて初めて追いつけたわけか」

 それもこれも、船を捨てて逃げたようなキャプテンが、今でも自分が船長だと勘違いをしたおかげだった。


 風が弱まり静かな月光が砂漠を照らす。

 キャプテンの気配はもうしない。

「・・・終わったか」

 ロゼルがつぶやくのと同時に、上の方から笑い声が響いた。


 甲板を見る。

 白い衣装に白い骨。

 花婿姿の海辺の王子のガイコツが、顎をガクガクさせている。

 その頭には、大きな穴が開いていた。


「・・・」

 ロゼルがスリサズにジト目を向ける。

 スリサズの頭には王子の冠が乗っている。


「あたしじゃないわよ! あれはキャプテンにやられたの! 王女様との結婚式をやめさせるために! ……で、遺体だけなら海に捨てればどうにかなったんだろうけど、思った以上に血が飛んじゃってね。それを隠蔽するためにキャプテンはわざと船を沈めたのよ」

「・・・それで王女も死んだのか」

「んで、この王子様の冠は、床に落ちてたのを届けたら、もう被れないからいらないって」



 甲板の上から王子が叫ぶ。

「キャプテンへの復讐は果たした!! 次はサハラーア王国への復讐だ!!」

 そしてザワージュ号はオアシスへ向けて前進を再開した。


 轢かれそうになってロゼルとスリサズが慌てて飛び退く。


「加害者になりそびれたのが悔しいからって被害者ヅラ!? 海辺の国だって群島の国と手を組んで砂漠の国に攻め込もうとしていたくせに!!」

 巻き上げられた砂を被ってスリサズが吠えた。


「・・・珍しいな・・・ちゃんと勉強していたんだな」

 ロゼルがつぶやく。

 口調のせいでわかりにくいが、かなり驚いている。


「気に入ンないのよ、この手のヤツらって」

 冷たく切り捨てた後で、スリサズは気まずそうに頭を掻いて、ずり落ちかけた冠を直した。

「王子様はね、もともとは、ザワージュ号がオアシスを汚染してるって気づいてなかったみたいなのよ。自分の国が砂漠の国に滅ぼされたってのも知らなかったんだけど、あたしが言っちゃったもんだからさ」


「・・・キャプテンと同じか」

「よろしく」

 スリサズはロゼルの肩をポンとたたいた。


「・・・やれやれ・・・炎よ!」


 ロゼルが魔法を放つ。

 ザワージュ号の船首にぶつけられたそれは、砂漠の乾燥した風のおかげで良く燃えて、あっという間に船全体に広がった。

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