第6話 魔法使いの宝

「・・・本気で姫のことが好きだったんだ」

「ロゼル、大丈夫!? あんた、魅了の魔法で操られて……」

「・・・闇の魔法使いは、本気で姫のことを愛していた・・・城の人々に助けを求められ、姫の御前に通されるずっと以前から・・・いつも遠くから姫だけを見ていた・・・魔法使いが姫のもとへ通された時、姫はすでにこの世の人ではなかったけれど」

「何であんたにそんなことがわかるの?」

「・・・塔の外から覗いた時に、闇の魔法使いと話した・・・どういう術かはすぐにわかったから、話しかけたら返事があった」

「なのにあっさり術にかかっちゃったんだ」

「・・・」

「いや、そんな、何も膝を抱えてイジケなくってもっ」


 うつむくロゼルの手の中で、最初は紫だったチューリップが、赤から黄、白へと色を変えていく。

 花言葉は“叶わぬ願い”から“失恋”へ。


「・・・闇の魔法使いは、姫に触れてもらいたかったんだ・・・自分から触れることはできないから」

「そりゃまあ、ガラスケースなんかになっちゃってたらね」

「・・・そうじゃなくて・・・ただ勇気がないだけ・・・だから姫の方から触れてもらいたかった・・・だけど姫が手を差し出すのは、婚約者に似た赤毛の男に対してだけ・・・だから闇の魔法使いは赤毛の男を塔に招いた・・・だけど姫が他の男と触れ合うのが許せなくて、自分で招いた人達なのに殺してしまう」

「何それ。バカみたい」

「・・・そう言うな」

「そりゃーあたしも勇気うんぬんはわかんなくもないけどさ、人生もっと大事にしなくちゃダメでしょ。自分のも他人のも」


 窓から見下ろせば地上のチューリップ畑は、一面茶色く枯れている。

 ロゼルが手に持つチューリップをヒョイと掲げて見せた。

 それはその形のまま、銀に似た魔法金属に変化していた。

 闇の魔法使いの力の媒体。

 これこそがこの塔に隠されたお宝。


「わお、きれい! 高く売れそうね!」

「・・・売るなよ」

 ロゼルはそれをスリサズにポンと投げて渡した。


「えっ? ちょっ!」

「・・・振ってみろ」

「魔法の杖としてってこと? どれどれ」


 それはスリサズの小さな手にも良く馴染み、光の当たる角度によって、白、黄、赤と色を変えた。

「うん! すっごくいい感じ!」


 スリサズはふわふわと魔力の雪を撒き散らしながらクルクル踊った。

 窓から差し込む光が雪をきらめかせ、スリサズの瞳もキラキラと輝く。


「・・・まだらのチューリップ・・・良く似合う」

 ロゼルがしみじみとつぶやく。


「それって花言葉でいうと、叶うあてのない告白をして失恋しろってこと?」

「・・・自分で調べろ」

 そしてロゼルは腰を上げると、何故か不機嫌そうにスタスタと塔の階段を下り出した。


「あー! 待ってよロゼルー!」

 スリサズが、杖をふりふり、パタパタと追いかける。

 二人の足音が、塔を吹き抜ける風の音にとけていく。

 まだらのチューリップの花言葉は……






“美しい瞳”

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