第3話 雨がやむ時
炎が収まり、湯気が風に散る。
雨はいつしかやんでいた。
「ははは……はっ……ははっ……蒸し焼きになってるわ」
スリサズが、力の抜けた笑い声を上げた。
見渡せば森一面、緑の木々の幻が解け、長雨で朽ちた、沼とも呼べない泥溜まりの荒野が広がっていた。
「哀れなもんね。自分で森を腐らせたくせに、それでも緑に囲まれて暮らしたいだなんて。まるで人間みたい。カタツムリのくせに生意気だわ」
「・・・スリサズ・・・すまない・・・」
ロゼルがよろよろと立ち上がる。
「ん?」
「・・・あの杖・・・親父さんの・・・」
「あー。いーのいーの。パパが見てたらお説教ものだけど、当面あっちにいく予定はないしィー。って、こんなシゴトしていていうのもナンだけどね」
スリサズはパタパタと、妙に軽く手を振った。
ロゼルは唇を噛んだ。
冒険者としての腕ではロゼルの方がずっと上なのに、気持ちではいつも負けてしまう。
スリサズの父は、ロゼルの魔法の師匠。
ロゼルとしては亡き師匠の一人娘に危険な仕事などしてほしくないのだが、その想いは少女の怒りを買ってしまうものだった。
空には虹がかかっていた。
ロゼルはアンコクマイマイの亡骸を見上げた。
予想していたよりも、はるかに大きい。
本日の戦利品。
アンコクマイマイの殻を鍛冶屋に売れば、軽くて丈夫な武具が作られる。
その武具を買った戦士が、魔物から人々を守るために使うか、はたまた人同士の争いに利用されるか、それはハンターの知るところではない。
ハンターが考えるべきことはただ一つ。
「・・・どうやって持って帰るか」
「この場で食べちゃえばいいのよ」
言うが早いがスリサズが、アンコクマイマイの肉にかぶりついた。
「・・・!?」
「うん! 上手に焼けてる! それに塩加減もちょうどいいわ。ロゼルってば意外と料理得意?」
「いやいやいやいや・・・」
「エスカルゴよりも柔らかいわね。それに、とってもジューシー! あんたも食べる? 今回はあんたの手柄ってのもなくはなかったから、半分こしてあげてもいいわよ」
「いやいやいやいやいやいやいやいや・・・俺は殻だけで・・・」
「何? こいつ、殻も食べられるの?」
「違う違う違う違う・・・」
さも美味そうに巨大カタツムリを頬張る少女の姿を見兼ね、ロゼルが思わず天を仰ぐと、晴れ渡った空に幾年ぶりかに鳥が飛んでいた。
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