俺と白兎VS野球少年軍団!

さて、偶には趣向を変えて、その日最後に感じた事を先に言おう。


「ああ、マジで冒険者生活は甘くねぇ」


なぜ突然こんな事を言い始めたかと言えば、シカから角をゲットした後が、まさに地獄、生きた心地がしない出来事を体験したからだ。


今、全てが終わって馬小屋の寝床で死んだように倒れ、もうすぐ眠る、意識を失うように爆眠する5秒前だから言える事。


あの時は冒険者生活について考える余裕がなかったので、今から語ろうと思う。


覚悟が無かった訳でも、なめていた訳じゃなく、ただ純粋に俺たちの実力が現実にそぐわない、という事実を突き付けられた。


甘くないと言ったのは、ただそれだけである。




「さて、用意できたし村に帰るか」


取り敢えず、兎が何者かはもうこの際気にしても負け、と結論を付けて帰る事にしよう。


考えるのは後にでもできるので、今やる事をやる、それだけである。


なんて恰好付けて強制終了してしまわないと、何時までも兎がどうたらと考えてしまうだけなんだよな。


「そうね、早く帰りましょう」


そう言って兎は俺の背に飛び付き、変える準備が整った。


「って、待てよ。さっきも言ったが自分で歩けよ」


「効率の問題と言ったでしょう?それよりも急いで帰えらないといけないわ」


「だからだな」


「しっ。ちょっと静かにしなさい」


「あん?」


「いいから!」


やたらと真剣な声で言うものだから、黙る事にしたが、先ほどから小鳥たちがぴーちくぴーちく五月蠅いんだが?


「「「ぴーぴーぴー」」」


「それは本当?」


「「「ぴーぴー」」」


「だとしたらまずいわね」


「俺を黙らせてのんきに鳥とおしゃべりとはどういう了見だ、おい?」


「だから言ってるでしょう?この子たちから情報を収集してるのよ。そして結構まずい状況なのよ。取り敢えず村に向かいなさい。歩きながら説明するわ」


「お、おう」


まずい状況と言うのがどんな状況なのかはわからないが、急いで戻った方がよさそうなのは何となく解った。


遺憾に思うのだが、兎を下して移動するより背負いながら移動した方が効率が良い、と言うのも頷ける。


下した状態での移動だと、一応兎を気にしながらになるので、やはり移動速度が遅くなる。


また、説明を受けるのも、横に歩くのと、後ろに背負うのとでは、出す声の大きさが全然違う。


大自然の中、しかも魔物が潜んでいるような森の中を移動するのだ。


できるだけ気配を殺して移動した方が良いに決まっている。


だから仕方なく兎を背負いながら移動した。


この時はそう思っていたが、今考えたらこの行動が正解だった、とはっきり判る。


「それほど離れていない距離にゴブリンが居るそうよ」


「魔物が居るのか。数と武装は分からないのか?」


「沢山居る、という事だけね。あの子たちにそこまで求めるのは酷と言うものよ。居ることを教えてくれただけでも感謝しないといけないわ」


「そうだな。お前と話してると勘違いしそうになるが、普通動物はそこまで賢く、いや、そういった概念はないよな」


「ええ。賢さで言えばかなり賢いのよ?でも、相手がどういう存在、脅威と解っても、個体差でどれぐらい違って、数の差がどうでるのかなんて考えないもの」


「だよな。しかし、ゴブリンが居るなら走った方がよくないか?」


「走ればおそらく気づかれるわ。できるだけ気配を殺しつつで行きましょう」


「了解」


話し合った俺たちは黙々と森の中を進んでいく。


森の中で魔物、ゴブリンとの遭遇は初心者にはかなり厳しいと聞かされている。


少しゴブリンについて語ったが、あいつらは子供ほどの背丈でそれなりに素早い。


そして単独で行動することは稀であり、ゴブリンを1匹見かけたら、最低3匹は居る。


なぜ群れで行動するかと言えば、人間ほど知能は高くないがサルより賢い生物であるゴブリンは、数の威力を知ってるのだ。


さらにやつらは太い木の枝やこん棒、人から奪った刃物を武器にして装備している。


考えてみてくれ。


木製のバットを持った小学生の集団に襲われるとしたら、大人1人で勝利できると思うか?


それが例えば柔道の金メダリストとかの格闘家であれば、ある程度の人数でも勝てるだろう。


じゃあ、小学生が5人も6人も居たら?もっと多く10人とか居たらどうだろう?


四方八方から迫る木製バットの打撃に、最初は耐えれてもそのうち倒れてしまうだろう。


小学生には牙も鋭い爪も、サルのような俊敏さもない。


でもゴブリンにはそれがある。


もし俺たちが今、ゴブリンの集団に出遭ったら、高確率で生きて帰れないだろう、と予想できる。


だからこそ総合ギルドで態々依頼を出してまで討伐をしなくてはいけない魔物、それがゴブリンだ。


「小鳥たちの話では、このまま行けば出遭わずに済みそうよ」


「や、それ、絶対フラグだろ?わざわざ言わなくてよかったんじゃないか?」


頼むぜ、ゴブリン。


空気読んで現れないでくれよ、マジで。




「ぎ、ぎゃあああああああ」


あれから警戒していたゴブリンとの遭遇もなく、行きの半分の速度で歩き、村までの距離がかなり縮まった場所、狩人が罠を仕掛けたていた辺りで足を止めてしまった。


前方から、村の方から何者かの叫び声が聞こえたからだ。


ただそれは、明らかに人や動物の声ではなかった。


「おい、この叫び声はなんだ?」


「分からないわね。今の叫び声が怖かったのでしょうね、小鳥たちも離れてしまったわ」


「かなりまずいな。避けるように進むとかなり時間が食われるし、かといってこのまま進むのも危険な気がする」


「そうね、今こそ選択の時間なのだわ。迂回するか、最短距離を進むか。何か意見はある?」


「い、意見か。もう話を聞ける動物は近くにいないんだよな?」


「居ないわ。あの叫び声が五月蠅くて、周りの音も聞こえにくい、と言う状況よ」


「匂いもダメだな。後ろから風が流れて来てやがる。背後から何か近寄ってくる気配がないと分かっただけでもラッキーと言うべきか?」


「そうね、仕方ないわね。ここは、あなたが決めなさい」


「は?急にどうした?今までならお前が決めてただろ」


「私は森で生まれた獣よ、高貴と言ってもね」


「こんな時は高貴設定なんかどっかに置いとけよ!?」


「置いておけないわよ、大事ですもの。それであなたは人間よ、町に生まれたね。獣である私が決めた事で死んでしまったら、成仏できないでしょ?」


「縁起でもない事言うんじゃねえよ!だが、まあ、そうだな。よし解った、俺が決める」


この時は俺が決めて絶対に正解を引きよせ、俺は村に帰って報酬で馬小屋を脱出してやるぜ!なんて思っていた。


今考えればこれがフラグだったんだろうな。


もしくは、すでに兎がフラグを立てていたんだろう、兎に角馬鹿な事考えていたわけだ。


「このまままっすぐ最短距離を村まで進もう。しかも気配を気にせずできるだけ急いでだ」


「なるほど、すでにあの叫び声で何を呼びせている、と判断したのね。そして集まる前に逃げ切ると」


「そういう事だ。走るからしっかり掴まってろよ」


「ええ、よろしくね」


そう、あれだけ大きな声で騒いでいる何かが居るんだ、すでに何者かが近寄ってきているに違いない。


その何者か、おそらくゴブリンだが、集まるとしたら結構な数になると思う。


その状況で気配を殺して、ゆっくりと迂回なんてしていたら、そのうちやつらに捕まって襲われることになる。


そう考えた俺は止まっていた足を動かし、今までは足音や周りの木々と接触しないよう細心の注意を払っていたが、それをやめて駆け出した。


「くそ、やっぱ革製の手袋とかの防具が欲しいな。枝とかに当たると痛くて仕方ない」


「この角を2本納めれば間違いなく買えるわよ。よかったわね、一張羅を卒業できそうよ」


「ああ、そうだな、やっとだぜ!あと、明日からは宿屋に移動しようぜ」


「私は馬小屋でも良いのだけれど?」


「俺が嫌なんだよ!ちゃんとしたベッドで眠りたいし、部屋という空間で寛ぎたい!と、言うかあの馬たちがむかつくんだ!」


「あの子たちも良い子なのよ?でも、あなたが私に無礼を働くものだから、あの子たちも攻撃的になってるだけよ」


「いやいやいやいやいや。その発想がおかしいし、世話してるのは俺だぞ?なんで俺よりお前の方が好かれてるんだよ!」


「格の違いよ、諦めなさい」


「納得できるかあああああああ!」






「「「ぎゃぎゃ!」」」


「あああああああ、出たあああああああああ!?」


俺が叫びながら進んだ先、ちょうどあの素晴らしく隠密性の高い罠が2ヵ所も設置されていた場所にゴブリンが居やがった。


その数は3体で、そのうち1体は逆さ吊り、罠にかかっている。


気付かれても仕方ないとはいえ、いくら何でも叫びながら走るのはダメだったようだ。


なんせ臨戦態勢を済ませた2体のゴブリンがこちらに向いて威嚇しているのだ。


これはやっちゃったかなぁ?とか思いつつ、思わず足を止めた。


いや、それは嘘だ。


シカの時は感じなかったものを感じて、思わず足を止めてしまったのだ。


シカとゴブリンでは明確に違うものがある。


戦闘力的な強さ、という点で見たらあのハーレムシカ野郎の方が、このゴブリンたちより強いと思う。


だが、シカは俺たちを排除、追い払おうとする、もしくは行動不能にする程度しかしてこない。


しかしゴブリンは俺たちを殺しに来る。


その明確な殺意の前に、俺は恐怖して、足を止めたのだ。


「何ぼさっとしてるの、早く鉈を抜きなさい!2体だから何とかできる、いやするのよ!」


「お、おう!やってやらああああ!」


俺は鉈を抜き放ち、叫びながら駆け出し、本当の意味での初めての戦いに身を投じた。


この叫びは感じてしまった恐怖を追い払うもの。


だけじゃなく、兎のやつに活を入れられた事の悔しさを晴らす為にも、俺は大きな声で吠えたのだ。


絶対に俺はこいつらを倒すんだ、と気持ちを込めて。


「この、やろう!」


俺は目の前のゴブリンへと駆けた勢いを乗せて鉈を振り下ろす。


「ぐぎゃぎゃ」


しかし目の前で今から振り下ろしますよ、と言わんばかりに構えていた鉈なんて当たるわけがない。


馬鹿にするような声をだして、左右にわかれるようにゴブリンたちは簡単に回避してみせた。


やっぱり人型、知能のある相手、狩りになれた生物は連携も長けているようで、そのまま左右から挟撃。


当然、格闘技どころかケンカもほとんどした事のない俺は、良いようにこん棒による打撃を受けた。


「くそ、やっぱいてえ!」


「「ぐぎゃぎゃ!」」


「この!」


「「ぐぎゃぎゃ~!」」


最初の打撃を受けた感じから行くと、確かに痛いが骨をやったとかそういう事はない。


俊敏だが力はない、と言うのは本当のことのようだ。


だがお返しとばかりに振り回した鉈は、しゃがんだりバックステップで躱されまったく当たらない。


さらに2体での連携、左右や前後から襲ってくるものだから片方に鉈を振るえば避けられ、その隙に殴られる。


そんな状況に陥り、まさにタコ殴り状態だ。


「く、くそ。あのシカ野郎とはやり合えたのになんで、だ!」


一旦距離を離そうと大振りに鉈を振るってから少し後ろに下がる。


「はぁはぁはぁ、マジゴブリン強敵すぎる。これ何とかできると思わんぞ」


「「ぐぎゃぎゃぎゃ!」」


一方的に殴られるなんて経験したこともなく、しかもやたらめったら鉈を振り回していたのでかなり息が上がってきた。


こっちの世界に来て体力が上がったとはいえ、朝から歩き詰め、オスシカとの戦闘、これらの事もあり思ったより体力を奪われていたようだ。


流れ落ちる汗が鬱陶しいので袖で拭う。


見れば袖、いや衣服の至る所で引っ掻かれた跡と血が滲んでいる。


あっちの世界から持ってきた唯一の服が台無しだ。


日本に戻るときにこんな服着て帰れないぞ、と場違いな怒りがこみ上げてきた。


「あなた、何やってるの!」


「うっせえ、必死で戦ってるんだよ、これでも!」


「そうじゃないわ!なんで角を持ったまま戦ってるのよ、その辺に置いてナイフも使いなさいよ!」


「あ、そうだった!」


兎に言われて気が付いたが、未だに左手にシカの角を握り、鞄を下げたまま戦っていたのである。


しかも角が壊れないように気を付けていたので、思った以上に動きにくかった。


「馬鹿だ、馬鹿だと散々言っていたけれど、こんな時までやらなくていいのよ」


「ちょ、ちょっと忘れていただけだ!持っててくれ!」


「きゃ、ちょっと危ないじゃない!それと投げ捨てて壊れたらどうするのよ!」


「それこそ、そんな場合かっ!」


うん、なんというかお互いさま、と言うかどっちもどっちな気がしてきたな。




さて、そこからの戦いなのだが、何とか2体のゴブリンは倒すことができた。


最初こそかっこ悪くタコ殴りにあっていて、シカの角という制限を無くせば俺さま無双!と行けばよかったのだが、そんなこともなく無様な戦いを繰り広げる始末。


鉈とナイフで相手を牽制、こん棒を受け止める、をしばらく繰り返していたのだが、お互い有効打を与えられず、俺もゴブリンたちもへばってきたのである。


そうなってくるともう、武器で戦うよりも蹴ったり引っ掻いたり、噛み付いたりと言った行動の方が多くなり、決めては体当たりと足払い。


そして、止めにはこれだけ打ち合っても欠けもしない日本製の鉈を振り上げ


「サンダーボルト」


「「ぐぎゃぎゃぎゃあああああ」」


たところで、兎の電撃の魔法が炸裂して行動不能にした。


「お、お前。俺が必死に今まで戦ってたのに、ラストアタックを美味しく取りやがったな!」


「どっちが倒そうが一緒じゃないの。それよりも早く止めを刺して証明部位と魔石を回収してくれない?」


「確かにそうなんだが、そうなんだが、納得いかねえ!」


なんというかこの毛むくじゃらの齧歯類、本当に男のロマンと言うか、戦う者の矜持と言うか、そう言うのをまったく理解していない。


やっぱりだな、折角異世界でファンタジーな生き物と激闘、いや俺的にはそうだったんだが、を繰り広げた相手へのラストアタックは取りたいじゃないか。


美味しいところだけ奪われたら遣る瀬無いじゃないか、なあ、みんなもそう思うだろ?


そんな事をブツブツ言いながら罠に嵌ったやつや電撃で痺れて動けないゴブリンに止めを刺していった。


あ、よくある生物を殺すことの禁忌で怖気ずくみたいなのは俺にはなかったようだ。


日本に居た時も野兎を罠で捕まえてから絞めると言ったことを経験済みだし、いくら人型とはいえ相手は会話もできないゴブリン。


よく切れる鉈とナイフのお陰で止めを刺すのも簡単だったので、割とすんなりやれた。


これが切れ味の悪いものでやっていたなら、途中で気分が悪くなったりしたかもしれないな。


まさか異世界に来るとは思っていなかったが、爺さんから教わった絞め方と誕生日に貰った高品質の鉈とナイフが役に立つとは、人生分からないものである。


3体とも無事止めを刺した俺は、そのまま証明部位を剥ぐ事にする。


証明部位とは、魔物討伐において重要な要素であり、ギルドから指定されているものだ。


例えば今回のゴブリンで言えば右耳を持って帰る事が、討伐の証明となる。


倒した魔物が貴重な素材に変わったり、美味しく食べれるものであれば、そのまま死体を持ち帰ることもある。


だが、素材にも食材にもならない魔物の場合、特定の、その魔物だと解るものを持って帰るのだ。


あと、魔物であれば必ず体内に持っている魔石の回収も忘れてはならない。


ゴブリンのような最下級の魔物でも魔石は持っているので必ず回収する。


この魔石、色々な用途で使われるのだが、代表的なものだと魔道具と呼ばれるものに使用されている。


うん、これもアニメでもよくある設定だな!


この世界も同じように生活必需品から軍用品に至るまで利用されている魔道具は、魔石をエネルギーに魔法的な効果、あっちの世界だと科学技術、を再現する道具だ。


まあ、ライターの燃料がガスやオイルではなく、魔石になったと思えばいい。


塵も積もれば山となる、ではないが、極小の魔石しか取れないゴブリンとはいえ、回収してギルドに収めると、魔石1個で銅貨1枚になるのだ。


ゴブリン1体の討伐報酬が銅貨2枚なので、ちょっとでも稼ごうと思ったら、魔石の回収は必要な事である。


「くそ、魔石の場所が解りにくいな」


ナイフで胸のあたりを切り裂いて探しているのだが、なかなか見つからない。


ノランたち先輩ギルドメンバーに聞いていた通りなのだが、極小の魔石だと発見するのが難しく、しかも心臓の近くに魔石があるため、ゴブリンからの魔石回収は不人気なのだ。


雑食のゴブリンは臭いし、血もサラサラではなくドロドロ、しかも止めを刺してすぐなので、さすがに気持ち悪くなってきた。


「うへぇ、さすがに応えるな、これ」


「我慢しなさい。魔石を持って帰るのと持って帰らないで報酬に差がでるのだから」


「解ってるよ。と、いうかお前も手伝えよ」


「あら、兎の私にナイフを使えというの?そんな事、ちょっと静かに」


「あ?」


なんかデジャビュ、違う、ちょっと前に似たようなやり取りをした覚えがあるんだが。


俺に前足を向けて、耳をぴくぴく動かし続ける兎は、藪の方を睨むように見ている。


俺も意識を集中して聞き耳を立ててみる。


うん、何かが高速で、しかもかなりの数が近寄ってくる気配がした、しかももうすぐそこだ。


「おい、やべえぞ、これ絶対。さっさと逃げよう」


「そうね、角を回収して」


と、兎が俺に指示だしをしたとき


「「「「「「「ぐぎゃぎゃぎゃ!」」」」」」」


ゴブリンの集団が飛び出してきた!


俺たちとの距離はおおよそ20mで、その数7体。


これだけの数に襲われたら、間違いなく負ける!そう判断した俺は、足元にあった鞄を掴み、兎の方へ振り返った。


「おい、マジ逃げ、って、俺を置いて先に逃げるんじゃねええええええええ!」


「馬鹿、しゃべってないで、走りなさい!」


「「「「「「「ぐぎゃぎゃぎゃ!」」」」」」」


「てめえ、この齧歯類!また、俺を囮にしようとしたな!」


「そんな訳ないでしょう!1秒でも早く離脱する必要があっただけよ!」


「じゃあ、せめて一言声を掛けてから走れよ!」


「声を掛けたら1秒以上かかるじゃない。そんな無駄な事できないわ。あと、齧歯類言わないで!」


「こんな時まで、そこにツッコムのかよ!」


「だって大事ですもの。私は白き衣を纏いし高貴なる白兎なのよ?決して譲れないわ」


「この状況で高貴とか関係ないわ!てか、やっぱりお前、足速いじゃないか!」


「当り前よ、私は森の獣なのよ。森で人間に負けるわけないじゃない」


「だったら俺に背負わせるなああああああああああ!」


「「「「「「「ぐぎゃぎゃぎゃ!」」」」」」」


「「た、助けてええええええ!」」


ゴブリンたちとの追いかけっこは、かなり続いて、村まであと10分ぐらいの距離まで走り続けた。


実際にどれだけの時間走り続けたかは分からないが、徒歩で1時間以上掛かる距離を全力疾走で駆け抜けたのだ。


俺と兎は村に辿り着き、門番の2人の顔を見たあたりで、崩れ落ちた。


慌てて駆け寄る門番たちを見つつ、ああ、生きてて良かった、と心底思うのであった。




なお余談だが、兎も全力疾走では二足歩行ではなく四足歩行の獣スタイルである、悪しからず。


「くっ、高貴なる獣である私が地に前足を付けるなんて、屈辱だわ」


「獣だから当たり前だ、四足歩行は!」

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