2 茶会

茶会(前編)

 「“許可”ですか?」


 「そっ、いきなり後ろからね・・・あら、緑茶おちゃありがとう。・・・でね『お久しぶりです、土佐3佐!許可をいただき乗艦しました、ナガウラカイリ3等海尉です!』って。もう本当にビックリよ!灯火管制中よ?薄暗がりよ?土佐ちゃんだってビックリするわよね?大体、いわしろに乗ってて間違えるかしら、普通?」


 ○某国沖40km・『DDH186 とさ』艦内医務室・ヒトマルインディア


 緑茶をすすりながら、本来なら医官の座る席に岩代が座っている。“人”のいない部屋が、今現在この「医務室」ぐらいしかないからだ。

 多国間合同演習のミーティングの為、海上自衛隊の主要人物のほか、陸上自衛隊や某国や他の参加国の陸・海軍の担当者等が、演習別に『DDH186とさ』と『LST4004いわしろ』に集まっている。

 と言っても、今日は顔見せのようなもので、ミーティングの本番は翌朝からである。


 「確かにそれは誰でも驚きます。それにしても・・・『ナガウラ3尉』ですか・・・。会った時は小さな女の子だったですけど・・・約束したつもりは無かったでしたが、ナガウラ3尉は覚えていてくれたんですね。それに石見3佐の“許可”の話も覚えていてくれました。教えてあげたら石見3佐も喜ぶでしょう。」


 その当時を思い出したのか、土佐3佐は少し目を細めて懐かしそうにしていた。


 「そうそう、土佐ちゃんと石見ちゃんに言伝ことづてがあるの。お嬢ちゃんからね、『ピーマン食べられるようになった』って。石見ちゃんにも伝えておいて。」


 岩代はお茶を飲みきると、「もう一杯、入れてくれる?」と湯飲みを差し出した。


 「石見3佐への伝言、了解しました。それにしても、ナガウラ3尉はかなり本気で、私達と仕事をしたいと思ってくれている、と言うことですね。」


 土佐は受け取ると、急須にお湯を入れてお茶を準備している。どこからか湯呑みを3つ出してきた。


 「あら、土佐ちゃんも飲むの?でも何で3つなの?2つは余分じゃない?」


 「もうすぐ『差し入れ』があると思ったので、準備しました。もう一つは・・・入れたくは無かったんですが、勝手に来てしまったみたいです。来た以上“一応“は“歓迎”しますが。」


 今までの岩代との付き合いで初めて見せるほどの、土佐の苦々しい顔。

 すると医務室の扉が開き、海自仕様の青い作業着を着た女性が入ってきた。階級は『1等海曹』である。


 「おっジャマしまぁっす、土佐3佐っと、これはこれは岩代3佐!お久しぶりです!」


 土佐に向かって10度の敬礼をした1曹の女性は、岩代を見ると岩代にも同様に敬礼した。


 「中海なかうみちゃんだったのね?確かに『差し入れ』に期待しちゃうわよねぇ~。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ここで簡単に『AOE「すわ型」429 なかうみ』について。


 艦種は補給艦。『AOE ましゅう型』の後継艦として就役している艦で、ましゅう型より大きく、全長約240mと『いずも型 とさ(248m)』より8m小さいだけ。同型艦はネームシップの『AOE428 すわ』のみである。

 なお中海の作る料理は、ベテランの給養員並みの腕前で、土佐と岩代が差し入れを期待するのは無理もないと思われる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 「今日は手作りクッキー持ってきました・・・って、お茶だったですか?お煎餅にすればよかったですねぇ。」


 申しわけなさそうに、クッキーを机の上に置くとベッドに座った。


 「私はいつも緑茶ですから、気にならないです。チョコケーキもショートケーキもお茶に合いますし。」


 土佐はいつも通りと言わんばかりに、クッキーを緑茶とあわせて食べている。


 「へぇ・・・そ、そうなんだ。土佐ちゃんもなかなかなキャラね」


 「ですね・・・私もなかなか・・・だと思います。」


 若干、引き気味の紅茶派・岩代と珈琲コーヒー派・中海。


 すると土佐は耳をすますと、突然立ち上がり、飲みかけの湯呑みを机に置く。


 「ソーナー探知!本艦内医務室ドア前!・・対潜戦闘用意ヨーイ!」


 と、敵意をむき出しにして2歩程前にでると、ドアを睨みつける。


 「な!え!?潜水艦!?どどど、どうしましょ~岩代3佐!!?私、デコイしかありません!」


 「わわわ私も、対潜戦闘、無理よ!?デコイとCIWSシウスしか持ってないのよ!?」


 完全に動揺して冷静さを失う岩代輸送艦中海補給艦。この場は対潜戦闘のプロヘリコプター護衛艦・土佐に任せる他になさそうである。

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