第2話 馴れ初め


最初はインコなんて飼う予定はなかった。

鳥とか別に好きでもなかったし。


でもお父さんの会社の人が、飼ってるインコが卵産んで引き取り手を探しているとのことだったし、ちょうどその頃は猫のマロンが死んで我が家がペットロスだったからだ。


マロンが死んだのは寿命だったし、最後の方はそろそろかななんて思うぐらいよろよろしていたから心の準備はしていたがやはり辛かった。私もマロンが死んだ日はわーわー泣いていたが、特にお母さんが落ち込んでいた。朝起きてマロンのごはんを用意しては、いないことを思い出して泣いていたし。


会社の人が余ってるゲージもあげるとのこともあって、お母さんの癒しになればと思い引き取ることにしたのだ。


私の中で、鳥の赤ちゃんというとひよこだったから、かわいいふわふわしたのが来ると思っていたら、やってきたのははげたみすぼらしいやつだった。泣きもしないし、餌をやっても反応しない。だからもしかしたら目が見えていないんじゃないかと心配したほどだった。


お母さんも私もすぐ死んじゃうんじゃないかと思ってしまって、寄り付きがたく彼の世話は自然と弟が引き受けることになった。やっぱり男の子なんだね、昔からカブトムシとかメダカとか飼ってたし、せっせとろくに反応もしないはげたインコの世話を続けた。


だから名前も弟が考えた。ピッポくん

由来は怪盗二十面相に出てくる小林少年の飼っている伝書鳩だという、なんともディープなところから名付けられた。


私も一応気にはなっていたので2、3日に一回は弟の部屋に行き様子を見ていた。しかし、一週間経とうが二週間経とうが彼は彼ははげだったし鳴かなかった。だから初めて鳴いたときはちょっと感動した。


一か月も経つころにはピッポくんは鳥らしくふわふわとしてきたし、餌を催促するためによく鳴くようになった。やっぱり人間は愛らしい見た目のものに弱く、ピッポくんは弟の部屋からリビングへと居場所が変わった。


お母さんも可愛いと思ったらしく、鳥用のおもちゃを買ってきた。赤とか黄色のボールが4つ連なっているだけのものだけど、ゲージに吊るしたらいたく気にいったらしくずっとつっついて遊んでいた。


その頃にはもうメロメロだ。お父さんにお母さんとふたりして「いつから喋るようになるのか会社の人に訊いてきて!」なんて言ってたし


会社の人が言うには、基本喋るのは男の子だけで女の子の場合は滅多に喋らないそうだ。しかも小さい頃からオスかメスか判断するのはプロでも難しいらしく、大きくなるまで待つしかないみたいだ


男の子ならくちばしの付け根が青くなり、女の子ならピンクになるらしい。私はインコと楽しくおしゃべりに夢を見ていたし、名前も男の子だと思ってピッポくんにしたから男の子だといいなって思った。いやピッポちゃんでもいいんだけどね


また喋るのにも条件があって、インコが飼い主を好きになること、雛の頃から世話することが必要らしい。インコは仲間意識や求愛行動から相手の声を真似するらしい。だから大きくなってから飼うと喋らない場合もあるみたいだ。


インコと楽しくおしゃべりは意外と賭けみたいだ。


彼が来てから3か月も経つころ、くちばしの付け根がほんのり青くなってきた。その頃には家族一同彼にメロメロだったので、毎日話しかけた


そのかいもあってしばらくすると「だいすきだよ、ピッポくん」と喋るようになった


耳元で「だいすき、だいすき」(というか、だいしゅきなのだが)と喋る彼に私は完璧ノックアウトされていた。


回りくどくない、ストレートな愛情表現は乙女には危険すぎる。


だいすきだよ、ピッポくん

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る