第30話 オペレーション【コール・ド・バレエ】


「面白くて・・・実に不愉快じゃあないかねぇ!?橋立君!!!くっくっくっくっ!あっはっはっはー!!」

 橋立は白瀬がそこまで自信たっぷりに笑っている姿を見て、彼女が何故そこまでこの状況が楽しめるのかが、どうしても分からず理解に苦しむ。

 そこで橋立は白瀬と会話する事で、その自信がどこから来るのか突き止めようと、取り調べを開始する事にした。

「何がそこまで面白いのか分かりませんけれども、偽物とお認めになられたのであれば、取り調べさせていただいてもよろしいかしら?岩代3佐?どこか適当なお部屋を・・・」

 そう言って岩代を見ると、そこへ白瀬が口を挟んでくる。

「橋立1尉、別にここでも全然構わないんだよねぇ、と言いたいんだけどねぇ?そこの自衛官君たちを立たせたままなのは申し訳ないから、岩代3佐?もう一度その部屋を使わせてもらうからねぇ?」

 1人で勝手に多目的区画へ動き出そうとする白瀬に、橋立は慌てて止めに入る。

「お待ちなさい、偽物!勝手な振る舞いは許しませんわよ!?」

「おやおやぁ?橋立1尉?何を慌てているのかねぇ?取調官は一杯いた方が、都合がいいんじゃあ無いかねぇ?それとも、橋立1尉にとっては何か都合の悪いところでもあるのかねぇ?」

 白瀬は橋立に向かってにやりと笑いかけると、橋立は不愉快そうに顔を背ける。

「そんな事言って、全員をここで眠らせて逃走しようとしているんじゃありませんの?わたくしは反対ですわ!」

 霧島は橋立が白瀬の言葉に感情的になっていると感じ、橋立の肩を軽く叩いて言葉をかける。

「橋立、落ち着け。密室で取り調べようと公開で取り調べようと、変わりがないのなら白瀬の提案でも問題は無いはずだ。違うか?」

「霧島将補!万が一の事があってからでは遅いですわ!」

 橋立は更に感情的になり、霧島へ詰め寄るように食い下がる。

「だったら扉を開け放した上で、外に数名の立哨を配置すればいいのではないか?そうだな、赤龍と……」

 霧島が周囲を見渡すと、大村が前に進み出る。

「霧島将補、艦魂だけでの立哨は危険かもしれません。岩代、川原艦長に要員を数名借りられるか頼めるか?もちろん、区画には緊急以外立ち入らないとすれば、我々側からの余計な干渉は防げると保証出来る筈だ。」

 この大村の言葉に霧島は賛成し、霧島からも行くように岩代へ命令が下る。

 岩代は一礼するとその場で姿を消し、川原のいる士官室へと向かった。

「霧島将補、協力感謝します。それから万が一この偽物が人間なら、神奈川県警へ引き渡さねばなりません。私の聴取への参加を許可していただきたいと、意見具申させていただきます。」

 大村から霧島への意見に、橋立は焦燥感を募らせる。

「大村室長、矛盾しておりますわよ!?貴方達が参加するなど、それこそ大村室長御本人の仰る通りの【余計な干渉】ですわよ!?これは我々艦魂の問題ですの!!霧島将補、お願い致します!不許可としていただけますかしら!?」

 その様子を見ていた白瀬はこの様子を楽しんでいるような、にやけた顔をし続けていた。

「いやあ、橋立君がこんなにも狼狽えているのが見られるなんて、とっても最高だねぇ!そうだ、偽物の分際だけど、僕は大村室長だけじゃなくて、西原副室長と浜山3等陸曹にもぜひぜひ同席してもらいたいねぇ?僕は偽物だけど、やましい事なんか全くないからねぇ?君達が好きなように決めてくれて良いからねぇ?」

 白瀬のどこか虚仮にするような物言いに、橋立は怒りを爆発させないよう表面上はなんとか取り繕ってはいる。

(何なのですの、この状況は!本来であれば私と霧島将補と岩代3佐だけで取り調べた後、“いわしろ”か“きりしま”で証言の調査が終わるまで動かないでいただくだけの筈でしたのに!穏便に済ませたかったのですのに!!何故、大村達と陸自が絡んできますの!?予定外も良いところですわ!?それに御自分からこんな事をみんなの前で言い出すだなんて計算外ですわよ!?何故上手く行かないのですの!どいつもこいつもムカつきますわ!!)

 だがそれは表面だけであって、実際にはこの場の主導権を完全に奪われただけでなく、偽物を自己申告した白瀬によって場がコントロールされていることへの鬱憤うっぷんが蓄積しており、橋立の怒りが表面化するのも、このままでは恐らく時間の問題であろうと思われる。

 そこへ戻って来た岩代が姿を現すと、霧島はそれを確認して多目的区画の方へと目を向ける。

「さて、じっくり話を・・・といきたかったが、先に岩代と橋立、それから大村と西原と浜山は区画に入っててくれ。」

 白瀬への取り調べを始めようとした霧島だったが、そう言うと右耳に手を当てる。

 大村はその隙に何かを西原へ小声で話すと、西原はかすかに頷きどこかへと駆けていった。

 橋立は何か気になるのか霧島を見ていたが、岩代に促され多目的区画へ戻ると、一番最後に区画へ入った岩代は霧島へ向けて片目を瞑りながら扉を閉めた。

 霧島はそれを確認すると、右下に視線を向けて無言になる。

 傍目には考え事をしているように見えるが、霧島は無線で誰かとやり取りをしていた。

『キーン・ハルバードよりタンゴワン。内容の確認をしたい。報告を再送せよ。送れ』

タンゴワン、キーン・ハルバード。再送する。予定通り中を捜索。1尉がベッドで寝ているのを発見。起こそうとしたが、意識が朦朧としていて会話不能。現在、当初の指示通りにそのまま寝かせているが、衛生員へ報告した方が宜しいか?送れ。』

『キーン・ハルバード、タンゴワン。そっちで騒ぎを起こすとこっちもまずい。犯人は複数の可能性も捨てきれない。発見されたと分かったら、偽物以外の犯人にこっちも何かをされる可能性がある。詳細を聞き出すまで動かすな。それから、1尉の所在が確認できた。よって現時刻を持って、オペレーション【コール・ド・バレエ】を開始する。現場の全員に伝達せよ。送れ。』

タンゴワン、了解した』

『続いてキーン・ハルバードより、タンゴワンフォックストロットへ伝達。看護に当たるタンゴワンタンゴツー以外は全員“キャリア・ホエール”へ戻れと現場の全員へ伝達せよ。』

 霧島は2人の返事を聞きながら、赤龍達の声も聞き取っている。

 その声は赤龍達だけでなく、聞き慣れない男性の声も混じっている。

 霧島は誰にも聞かれないよう小さく息を吐き出すと、握っていた左の拳に力を込めて、背筋を伸ばして交信を続ける。

『キーン・ハルバード、フォックストロットタンゴフォーへ、大至急キャリア・ホエールへ戻り次第、舷門にいる予定になっているノヴェンバーの指示に従うよう伝達せよ。送れ。』

 霧島はフォックストロットから返答があった事を確認し、再度話し始める。

『キーンハルバート、T《タンゴ》ワンフォックストロット。1尉の容態が随時知りたい。よって、今後指示あるまで連絡を密にする。キャリア・ホエールとの専用チャンネルツータンゴワンとの専用チャンネルスリーは維持し、他の者には作戦中に通信が回復しても、チャンネルワンツー及びスリーは異常時以外の使用禁止を徹底するよう、T《タンゴ》ワンフォックストロットは、チーム全員に伝達せよ。フォックストロットからの交信は、キャリア・ホエールに到着まで専用チャンネルフォーを割り当てる。使用の延長するかは到着後に決定する。送れ。』

 霧島は返答を確認すると、一呼吸おいて更に通信を続ける。

『キーン・ハルバート、フォックストロットタンゴスリーには、予定通り「お隣さんを群舞の仲間に誘え」と伝えよ。以上、通信終わる。』

フォックストロット、キーン・ハルバード。了解です!』

 霧島は交信を終えたのを確認すると、小さく息を吐きだす。

(オペレーション【コール・ド・バレエ】、群舞作戦、か。1尉がこれを提案してきたのには驚いた・・・。群舞・・・1尉も短い時間でよく思いついたな。)

 視線を扉の両脇に向けると、紺色の特殊2号作業服の上にボディーアーマーを着用し、黒いキャップを被って黒いサングラスをかけている自衛官が2人立っている。

(鬼が出るのか、じゃが出るのか、はたまた悪魔か・・・。自衛官達に迷惑はかけたく無かったが、それも、もう無理だな。これも侵入者を許してしまうような、私の指導力不足が招いた結果だからな。鞍馬幕長への言い訳と詳報を、我ながら情けないが今からゆっくり考えてまとめておこう。)

 視線を廊下へ向けると、多目的区画へ背を向けて休めの姿勢をしている赤龍と、その隣には扉の2人と同じような格好の自衛官が共に立哨しているのが視界に入る。

 扉の両脇と通路で赤龍達と共に立哨で立っている彼等4人は、立入検査隊〔通称:立検たちけん(隊)〕の資格を取得している自衛官で、霧島は彼等の腰に見える特殊警棒と、訓練用の青色ではない本物の9mm拳銃がホルスターに納められており、それを見た霧島は、“いわしろ”艦長である川原の本気の度合いを感じ取った。

(通路は我々艦魂側2名と、自衛官の立検たちけん2名で通路両側の封鎖が完了した。扉の両脇にも2名の立検・・・か。これが、艦魂我々と自衛官達との初めての共同作戦になるのか。それと“お隣さん”にも少々強引になると思うが来てもらって、一緒に踊ってもらわないといけない。・・・さて、ここまで舞台を整えたんだ。せっかくだから私も頑張って、お前の指揮下で“踊らせてもらう”。指揮は頼んだぞ、1尉。)

 霧島は姿勢を正すと覚悟を決めたように扉に向かい、一度立ち止まる。

 扉両脇の立検隊は霧島に正対すると挙手敬礼をしたため、霧島も挙手敬礼で立検隊の2人に答礼すると、部隊識別帽を脱ぐ。

 右手で持ったまま入ろうとすると、右側の立検隊員に声をかけられ、霧島は足を止める。

「霧島将補、宜しければ帽子をお預かりいたします。」

 霧島は立検隊員の背後の壁に目を向けると、帽子をかけるフックが並んでいる。

 群司令、隊司令、艦長とシールで名入れされたフックには何もかかっていないが、副長の所に岩代の物らしき、クジラと輸送艦いわしろのシルエットと“LST4004”がデザインされた、幹部用の部隊識別帽がかけられている。

「私の帽子は、どこへかけてもらえるのかな?」

 立検隊員は視線を壁のフックに目を向けると、霧島へ向き直る。

「群司令の所へ、かけさせていただきます。」

 霧島は一度自分の帽子の部隊マークに視線を落とすと、表情を引き締めて右手を伸ばし、立検隊員に自分の帽子を渡す。

「頼んだ。」

「了解しました。霧島将補、お気をつけて。」

 霧島は扉を開け放つと、普段と変わらないしっかりとした足取りで多目的区間へと入っていく。

「霧島将補!止めていただけませんでしょうか!?お願いします!さっきから一方的にペンギンの話をしてくるのですの!取り調べになりませんわ!」

 ところが区画へ入って出くわした、すっかり取り乱した橋立の状態に、霧島は困惑してしまう。

「橋立1尉!君はまだまだ!全然!ペンギンさん達の魅力が分かっていないんだよねぇ!?良いかい、橋立1尉!?ペンギン君が可愛いのは正義なんだよねぇ!それにアデリーペンギン君はコウテイペンギン君よりちょっと目つきは悪いかもしれないけどねぇ?あの歩き方はとっても可愛いし、泳いでいる姿は氷上にいる時と違って、とってもスマートで格好いいじゃあないかねぇ!?そもそもだねぇ?のびのびと泳いでいられるのは腕の筋肉・・・」

 周囲で艦魂数名と大村と浜山が呆れた表情で座っている中、白瀬は立ったまま橋立に向かってペンギンの骨格や筋肉等から見た魅力についてをまくし立てていた。

「橋立、少し聞きたい。自分から偽物と言ったとはいえ、あれは・・・本当に偽物か?やはり、いつも通りの白瀬にしか見えないのは、私だけか?」

「霧島将補!何を仰っておりますの!?本物の偽物ですわ!?白瀬さんがペンギン好きなのを知っていて、わざとああやって取り調べを妨害しているのですわ!」

 白瀬へ向けていた視線を橋立に向けると、橋立は狼狽してしまっていて普段の落ち着いた雰囲気はすっかり失われていた。

「橋立、落ち着け。そんなに取り乱すなんて、普段のお前らしくない。だが、偽物も本物同様にあれでは、お前でも持て余す、か。」

 橋立が白瀬に視線を戻すと、白瀬は既に橋立に見切りをつけて、今度は浜山をターゲットにしてペンギンの話を続けている。

「分かった。私でどうにかなるか分からないが、出来る限りの事はしてみよう。」

 霧島は橋立の頭に優しく手を乗せると、白瀬の方へと向かっていく。

 霧島は白瀬のそばまで来ると、浜山へ熱弁をふるっている最中の白瀬の右肩を掴む。

「白瀬の偽物。本当に言いたい事はそれか?」

 霧島は高圧的に言い放つと、白瀬の肩を無理矢理に押して、自分の方へ向けさせる。

「痛いじゃあないかねぇ?霧島将補、乱暴者は嫌われてしまうと思うんだけどねぇ?」

 白瀬は手を退けようと、霧島の手首を掴むがびくともしない。

「そう思うなら、その口を閉じてペンギンの話を止めろ。偽物は我々の質問に答えるだけでいい。無駄口をきくな。」

「無駄口?霧島将補はそうに思うのかねぇ?本物の白瀬さんなら、こう言ってるんじゃあないかねぇ?『相手が喋る傾向にあるのだったら、好きなだけ喋らせて、その中に隠れている物事を見つけだす方がいいんじゃあないかねぇ?』って、僕も思うんだよねぇ?」

 白瀬は諦めたのか霧島の手首から手を離すと、その手首には白瀬の手形がくっきりと浮かんでいる。

「随分と馬鹿力を出してくれたな。」

 白瀬の肩から手を離した霧島は、手を軽くふると自分の手首を見る。

「馬鹿力とは失礼だねぇ?第一、僕の出力はたったの30,000PS馬力なんだよねぇ?SIエスアイ単位系で言うなら22.38MWメガワットで、霧島将補の100,000PS、74.60MWに比べれば、僕は大した力は持っていない筈なんだけどねぇ?」

「何を言っている?お前は偽物だろう?本物の白瀬のような言い方を真似て、ペンギンの話をしていただけじゃないか。黙ってそこに座れ、偽物。」

 霧島に小突かれた白瀬は、やれやれといった呆れの表情を浮かべて、中央に1つだけ置かれた椅子に渋々といった態度で座る。

「霧島将補も短気だねぇ?浜山3等陸曹、さっき僕は君と何の話をしたか、簡単にでいいから霧島将補に教えてやってほしいんだよねぇ?」

 白瀬は少し身を乗り出して浜山にそう言うと、霧島の方に顔を戻す。

 突然指名された浜山は一瞬だけ戸惑う様子を見せるが、起立して霧島に一礼すると、白瀬との会話の概要を説明し始める。

「ご説明します。先ほどの偽物の白瀬さんと自分の会話は、アデリーペンギンの生態や生息域についての話でした。それと繁殖期の話もしていました。」

 浜山はまた霧島へ一礼すると着席をする。

「浜山3曹、僕から質問があるんだけどねぇ?アデリーペンギンの営巣地はどこら辺だと、僕は言っていたかねぇ?座ったままでいいから答えてほしいんだけどねぇ?」

 白瀬からの質問に浜山は不思議に思いながらも、昭和基地周辺がおもだと返答する。

「ん~、僕の説明が悪かったみたいだねぇ?正確には昭和基地も含まれている、が正しいんだよねぇ。でも、可愛いアデリーペンギン君が見られるのだから、生息域でも営巣地でも、僕にとってはとっても幸せなんですよねぇ!」

 先程から静かに聞いていた大村は、何かに反応したように視線を白瀬に向けると、厳しい表情を浮かべて霧島に意見する。

「霧島将補、やはりこれ以上は時間の無駄でしょう。時間がありません。早く取り調べに戻った方が良いと意見具申させていただきます。」

 霧島も少し焦っているような大村の意見に同意したのだが、白瀬は自分のペースを崩そうとはせず、座ったままペンギンの話を続ける。

「ここにはせっかちな性格が多いねぇ?ちゃんと分かるようにしてあげるんだから、もう少しお付き合いいただけないかねぇ?コウテイペンギンさんは、大人しくてのんびりした性格だって、いうのにねぇ?」

 両手を軽く掲げると、腕と足を組んで全員にわざと聞かせるように溜め息を吐く。

「偽物さん?今の浜山3曹への話がなんだというのです?ただのいつものペンギン話ではありませんの。戯言たわごとも大概にしていただけますかしら?」

「戯言?橋立君がそうに聞こえるのも無理はないねぇ?でもねぇ?こういった場で相手が喋っている一つ一つに気を配ることで、本当に喋りたい事が何なのか分かることもあるんだよねぇ?でも橋立1尉。今の君には僕が言っている意味は全く分からないと、僕には思うんだよねぇ?」

「あら?随分な言い方をされますのね?」

「随分な言い方でも、今の君への言い方は僕にとっては正しいねぇ。僕からすれば、僕が偽物とはいえ、いきなり橋立1尉に難癖をつけられたのだからねぇ?僕だってそういう態度には、相応の態度で返しても問題はないんじゃあないかねぇ?」

「先に手を出したのは、偽物さん?貴女でしてよ?その言い方でしたら、わたくしのこのような態度もご理解いただけるはずと思いますわよ?そもそも・・・」

 白瀬と橋立の間で言葉の応酬が始まり、大村はこのタイミングしかないと、右で座っていた岩代へ小声で口元を隠しながら質問をする。

「岩代、ペンギンの話は長丁場になるから一切するなと聞いてるぞ?話が違うじゃないか。それに話も方向が逸れてきてるじゃないか。時間が無いって言うのに、これで本当に大丈夫なのか?」

 岩代も大村への返答のために、霧島と白瀬に橋立を視界に入れながら、大村へ小声で返答する。

「大丈夫か聞かれても、私にも何とも言えないわよ?私も予想外だもの。でも、言い出した1尉からわざと言うように仕向けたのよ?どこかで作戦の変更があったとしか、私にも思えないのよね。」

「何を悠長な事を。あの話が本当なら、時間制限があるんだろ?もしこれが失敗したら、立検たちけんを配置してもらったといっても、ここにいる俺達含めた全員が偽物に危害を加えられる可能性があるって事なんだろ?念のため西原に言ってLCACの2人にも護衛兼世話役を付けているが、安全とは言い切れないんだろ?」

「一応あの人にはまだ気付かれてないみたいだけど、千代田海将自ら他の人達と一緒に、DSRVの子を保護しに戻ってるわ。そして残念だけど、大村室長?私達の知らない間に予定変更へ舵を切ってしまってるのよ。もう後戻りは出来ないのは、理解しているわよね?」

「ああ、理解してるつもりだ。だが、あの1尉に任せて大丈夫なのか?“群舞作戦”は本当に大丈夫なのか?ついさっき立案された、ぶっつけ本番の作戦だろ?少しは検討する時間は取れなかったのか?俺は不安で仕方ないんだが・・・」

「心配でも、不安でも、信用が有っても無くても、この場をなんとか出来るのは、今は将補と作戦を立案した1尉だけよ?でしょ?」

 大村がさらに不安を覚えて岩代と話を続けようとした時、橋立が霧島の方へ向くのが見えたため、慌てて会話を中断する。

 橋立は霧島へ正対すると、手をまっすぐに伸ばして不動の姿勢をとる。

「霧島将補。大村室長の言うとおり、やはり時間の無駄だと思いますの。わたくしからも、すぐに対処される事を意見具申いたしますわ」

「時間の無駄、か。」

「ええ。ペンギンの話をしてわたくし達をはぐらかし、けむにまいて逃げようという魂胆ですわ。」

「橋立がそう思うのも、仕方ないだろう。私もそう思うからな。だが、ここまで白瀬にそっくりな偽物だ。本物は無駄に長話をする事もあるが、その長話の中には、時々だが白瀬自身の考えや真意を混ぜ込んでいる時があると、ある時に気がついたんだよ。」

「霧島将補?あの、何を考えておいでですの?」

 橋立の浮かべている不安そうな表情を横目に見ると、霧島は白瀬のそばまで歩いていく。

「さっきの話の真意は、“アデリーペンギン”にある。そう言いたいのだな?偽物。」

 霧島は見ろしながら白瀬に問うと、白瀬は嬉しそうに笑顔を見せて霧島を見上げる。

「どうしてそう思ったのか、みんなに分かるように説明していただけるかねぇ?霧島将補?」

 白瀬は左手で岩代達を示すが、霧島は白瀬から注意を反らすことなく、少し大きめの声で周囲に聞こえるように自身の考えを述べる。

「本物の白瀬はコウテイペンギンが好きだが、ここまでコピーと言える程に完璧に近い偽物が、逮捕されるかもしれないこの場でペンギン、それもアデリーペンギンをわざわざ話題に出してくるのは、本物でも偽物でも、どちらであってもこの場では不自然だからな。弁明でもなく、コウテイペンギンでもなく、アデリーペンギンだ。この中に真意があると考えて良い筈だ。そう言いたいのだろ?偽物。」

「ん~、僕はペンギン君自体が好きだから、僕の中では本当は順番が決められないんだけどねぇ?アデリー、コウテイ、ジェンツー、ケープ、イワトビ。他にも色々いるけれど、どのペンギンも大好きなんだよねぇ?でも霧島君が言うとおり、アデリーペンギンには真意があるのは、そうと言えばそうなのかも、しれないねぇ?」

 白瀬は少し間を置いて立ち上がると、霧島の正面に立つ。

「アデリーペンギン君の話で、意外とみんなは知らないのかもしれない事があるんだけどねぇ。霧島将補は、聞きたいかねぇ?」

「勿体付けず、さっさと説明しろ。」

 霧島の威圧的な返答に、がっかりといった表情を浮かべる白瀬だが、すぐに気持ちを切り替えたのかメガネを人差し指で少し上げると、両手を後ろ手に組みながら、ゆっくりと歩き始める。

「僕はアデリーペンギン君が、とってもとっても大好きなんだけどねぇ。それはさっきも言った可愛らしさや美しさがあると、考えているからなんだよねぇ。」

 岩代の前まで来るとその場で半回転して、またゆっくりと歩き始める。

「でもねぇ?アデリーペンギンさんにはそれだけじゃない、もう一つの顔も、持っているんだよねぇ。」

 霧島の前まで来るとその場で立ち止まり、また半回転すると今度は真っ直ぐに浜山の方へ向かう。

 彼の目の前で立ち止まると優しい笑顔を見せ、浜山にスマホでアデリーペンギンの動画を検索するように指示をする。

 浜山は困惑しながら大村を伺うと、大村は浜山に軽く頷く。

 浜山はそれを見てスマホを取り出すと、動画のアプリを開いて検索し、そこから検索結果の画面を白瀬に画面を向けて見せると、白瀬はある動画を再生する。

 確認だったのか、白瀬はすぐに再生を止めて別の動画を再生すると、納得したように大きく頷いて動画を止めて、霧島と橋立を近くに呼ぶ。

 その間に浜山へ、音声をみんなに聞こえるようにするよう指示をすると、浜山の準備が整うのを待つ。

 浜山は白瀬へ再生の準備が出来た事を告げると、白瀬が画面をタップして動画の再生を開始した。

 その動画は、アデリーペンギンの営巣地の様子が望遠カメラで撮影されていて、何組かの親子が順番に紹介されている。

「この動画は以前見たことがあってねぇ。この親子にちょっと注目してほしいんだよねぇ?」

 画面には二組の親子が巣にいる様子が撮影されていて、白瀬は画面中心にいる親子の左後側にいる、別の親子に注目を向けさせる。

 その巣にいた親のアデリーペンギンが離れた隙に、画面外から一羽のカモメが飛んできて近くに着地する。

 次のシーンではカモメがアップで写し出され、画面右下に二段で文字が出てくる。

 上段は【ナンキョクオオトウゾクカモメ】、下段は【チドリ目トウゾクカモメ科オオトウゾクカモメ属】と紹介されている。

 そのナンキョクオオトウゾクカモメが雛だけになった巣に近付くと、離れようとしていた親ペンギンがそれに気付き、進路を反転させると勢い良くナンキョクオオトウゾクカモメに威嚇しながら走って行く。

 周囲にいたアデリーペンギン達もそれに続いて、威嚇しながらオオトウゾクカモメに勢い良く集団で襲いかかる。

 突然に集団のアデリーペンギンによる大声とくちばしによる攻撃に遭ったナンキョクオオトウゾクカモメは、もう数歩だけ巣にいる雛に近付いたのだが、攻撃の激しさに耐えかねたのか、突然飛び上がるとそのまま上空高く飛んでいってしまった。

 白瀬はここで映像を止めると、スマホの画面を覗き込んでいた橋立の顔を、その場にしゃがみ込んで下から見上げて覗き込む。

「橋立1尉?見てもらって分かる通り、アデリーペンギン君はペンギンの仲間の中でも攻撃性が強い方なんだよねぇ。でもこれは、自分や家族、仲間を護る為でもあるんだよねぇ。あ、例え仲間でも、巣の材料を盗むような相手には容赦はしないんだけどねぇ?だって、南極では小石等の巣材に適した物は、アデリーペンギンさん同士にとっても、他のペンギン君にとっても、それはそれはとっても貴重な物だからねぇ」

 白瀬は立ち上がると、また後ろ手に組んで辺りをうろつき始める。

「さて、橋立1尉は推理小説が好きだから、見せた意味はここでは言わないでおこうかねぇ?」

「どういう事ですの!?貴女は御自分の立場が分かっていらっしゃらないのかしら!?」

「分かってるつもりなんだけどねぇ?さて、探偵の橋立1尉に推理してもらっている間に、別の話題をしようかねぇ?ペンギン君の話題から離れるのは辛いけれど、時間は有限だからねぇ。『Time is Money.』時は金なりって言うからねぇ。でも、お金と違って時間は資産みたいに運用しても増えないし、失ってしまうと二度と時間を取り戻すことは、出来ないからねぇ。」

「次は時間の話でもするつもりか?偽物」

 霧島は中々本題に入らない白瀬に苛立ちを覚え、白瀬と橋立の会話に思わず口を挟んでしまう。

「時間は時間でも、時間稼ぎだからねぇ?」

「随分、堂々と言ってくれるな。何の悪巧みだ?偽物。」

「悪巧みを考えてるのは、霧島将補と橋立1尉の方じゃあ無いのかねぇ?僕はとっても親切だから、君達がちゃんと予定通りの行動ができるように、時間をとってあげているつもりなんだよねぇ?」

 白瀬のその全てを見透かしたような言葉に、霧島は思わず表情を歪め舌打ちをしてしまう。

 橋立は表情は変わらないものの、視線がきょろきょろと忙しなく動き、定まっていない。

「やっぱりねぇ?そうだと予想してたけど、まさか本当に当たっちゃうなんてねぇ?2人共、本当に分かりやすいねぇ!」

「なっ!・・・くっ・・・偽物と言えども、侮ってはいけませんでしたわね・・・」

「なるほど・・・私としたことが、してやられたか。では、今のお前の言葉はデコイだったというのだな?」

 霧島の悔しさが滲んだ言葉に、白瀬は笑顔を崩さず、しかし、先ほどまでのような虚仮にしたような雰囲気は抑えるように、ゆっくりとした口調で霧島へ語りかける。

「正解だよ、霧島将補?そして、ダメなんだよねぇ?霧島将補、そんなに簡単に敵に隙を見せるだなんて、将補は甘いねぇ?」

「手厳しい言い方だが、失態を犯した後では何も言えんな。」

 霧島は悔しさからなのか、目を細めると白瀬を睨みつける。

 橋立も苛立ちが抑えきれないのか、無意識のように親指の爪を噛み始めたが、気がついたのか慌てて手を下ろした。

「本当に将補も1尉も分かりやすくて助かるねぇ?そう言えば、今思い出したんだけどねぇ?いつだったか、霧島将補は白瀬1尉に言ってたじゃあなかったかねぇ?」

「何をだ?」

「初の南極への往還任務に就こうとしていた白瀬1尉に訓示していたじゃあないかねぇ?」

「確かに言ったような記憶はあるが、それがどうした?」

「将補は言っていたねぇ?『いつ、何時、どんな場面であっても、我々指揮官が冷静さを失えば、全員を間違った方向に進めてしまうかもしれない。それを常に自覚しておけ。そして白瀬、お前は潜水艦達同様に単艦で、自衛艦では唯一、何かあっても我々では救助へ向かえないと思われる南極へ、お前は往還する。潜水艦達と違い、救難母艦や救難艦に搭載されているDSRVのような救助用艦艇も、行く前の白瀬には残酷な言い方だが用意などされていないそうだ。だから、例え進む道が厚い氷で完全に閉ざされ動けなくなったとしても、常に“砕氷艦しらせ”として、冷静に自衛官と観測隊員達の安全と安航を考え続け、考え抜き、その時に最良だと自分で判断した行動をしろ。最後になるが私は、元へ、我々自衛艦艇一同は、日本からお前の安航を祈っている。無事に南極へ行って、無事に横須賀ここへ帰ってこい。笑って我々に土産話を聞かせろ。以上が私からの訓示だ。受け取れ、白瀬。』って」

 白瀬は言い終わると霧島に近づき、両手を握り拳にすると10度の敬礼をする。

 霧島は驚いた表情のまま固まってしまい、答礼する事すらも忘れてしまっているようである。

「な、何故それを偽物であるお前が知っている!あの訓示を言った時周りには誰もいなかったのは、はっきり覚えている!どこでそれを聞いた!」

「霧島将補、こんな些細な事で動揺していたらだめなんじゃあないかねぇ?『指揮官たる者、常に部下から見られている事を意識せよ』なんて言っていた霧島将補と、目の前の霧島将補が同じ人物とは、僕には・・・見えないねぇ・・・。残念だねぇ・・・実に残念・・・だねぇ・・・」

 霧島は、先ほどの白瀬の言葉にも思い当たる節があるのか、驚愕した顔で言葉を失ってしまっている。

 すると、突然岩代が慌てて立ち上がると、霧島へ駆け寄る。

「霧島将補!エ、LCACエルキャックちゃん達が、部屋から、に、逃げ出しちゃったの!しかも、補足が出来ないのよ!ど、どうしましょう!?」

「何!?どこへ行くかの心当たりは、岩代には無いのか!?今は危険な状態なんだぞ!?」

 霧島は、あまりの動揺に岩代の胸倉を掴み、激しく前後に揺すってしまう。

「き、霧島将補!落ち着きたまえ!いくら偽物の僕でも、これを止めない訳にはいかないねぇ!岩代3佐!?無事かねぇ!?」

 白瀬は慌てて立ち上がり、霧島と岩代の間に割って入って引き剥がし、岩代に寄り添い心配そうに声をかけている。

 霧島も慌てて岩代に謝罪すると、周りに聞かれないように小さな声で岩代に話かける。

「チャンネルワンで聞いていたが、本当に本物のイレギュラーか?」

 霧島の問い掛けに岩代は小さく首を縦に振り、小声で耳打ちをする。

「私も本物のイレギュラーだと判断します、将補。逃げ出す演技なんて聞いていませんし、黙って直接LCACちゃん達に指示したとしても私にはお見通しですから。先ほどチャンネルワンでお聞きいただいた通り、1尉は『予定外だがこれをオペレーションに利用するため、作戦を組み直す可能性がある。無線に注意せよ』と言っていた事から、そう判断します。」

 岩代は霧島から離れると、小さく「あっ」と言うと、数秒瞑目し霧島へ舷門にLCAC達を迎えに行く事を伝える。

 霧島はそれを許可すると、岩代が開け放たれたままになっている扉に向かおうとして、突然足を止めて霧島へもう一度駆け寄る。

「LCACちゃん達、西原副室長とYT99ちゃんをどこかに連れて行こうとしているのよ!何考えてるの!あの子達は!」

「なんだと!YT99には終了後に、ここへ来るように指示してあるんだぞ!岩代、大至急YT99だけでも多目的区画へ連れ戻せ!」

 それを途中まで聞いていた大村は、顔を真っ青にして立ち上がると霧島へ岩代と同様に駆け寄る。

「将補!西原もここへ連れてこないと“機材”が届きません!場所を教えて下さい!自分が機材だけでも回収しに行きます!」

 霧島へ半分詰め寄るような大村に、霧島は岩代へ現在位置の報告と将来位置の予測を急ぐよう指示をする。

 そんな様子を面白そうに眺めている白瀬は、それとは対照的に不愉快そうな表情を浮かべたままの橋立に話しかける。

「いやあ、橋立1尉?人生って思うように行かなくても、こんなに面白くなるもんなんだねぇ?LCAC君達の行動がイレギュラーなのか、予定された行動なのかは、偽物の僕には分からないけれど、皆がこうやって慌てているのを見ると、滑稽な舞台を見ているようだねぇ?そう、思わないかねぇ?」

 だが、橋立は不機嫌な様子を隠すことも無いまま、白瀬を無視している。

 白瀬は徐に浜山へ近づき、彼にしか聞こえない小声で質問をする。

「浜山3等陸曹?岩代3佐から聞いたけど、“間違い探し”を土佐3佐の所で披露したそうだねぇ?」

 浜山は思いもかけない質問に戸惑いを隠せず、白瀬を思わず見つめてしまう。

「質問だけれど、この部屋の中に浜山3等陸曹が思う【間違い】は、僕以外で存在するかねぇ?」

 浜山は一度周りを見回して、白瀬へ小声で返事をする。

「この部屋に間違いは無いように、自分には思われます。全て【正しい】筈ですが・・・。」

「でも、【違和感】があるのかねぇ?」

「いえ、違和感が無いことに、違和感があります。“あの人”に違和感が一切無いのが、どうしても変です。“あの人”は霧島将補達と同じ本物、の筈なんです。でも、あの動きから言えば紛れもない【偽物】です」

「君も思うかねぇ?僕も偽物の分際だけど、あれはちょっとねぇ・・・」

「自分達は入隊直後の前期教育で嫌と言うほど叩き込まれましたから、大村室長から事情を聞いていなかったら、その場で指摘していたかもしれませんでした。」

「浜山3等陸曹が指摘してなくて、本当に良かったよ。修正されてたら、証拠隠滅されて危なかったからねぇ?最悪は『目の輝き不備』とか、言ってしまっていたかもしれないからねぇ?」

「それは、自分も思い出したくない不備ですね。」

 くすっと笑った白瀬は、浜山が“あの人”と呼んだ人物に視線を向けて、浜山に小声で話しかける。

「ところで話を戻すけど、【違和感がない】というのは僕にとっては予想外の答えだねぇ?いやあ面白いねぇ。」

「自分としては、不安にしか思えないのですが・・・」

「その辺は僕達が何とかするから、浜山3等陸曹は大丈夫何だよねぇ?ところで、僕は浜山3等陸曹から見て、やっぱり【間違って】いるのかねぇ?」

「その質問の答えですが、白瀬さんには分かりきった答えになると思います。それでも答えた方が宜しいでしょうか?」

 白瀬は浜山の返答を聞くと、自分の人差し指を浜山の口の近くに持って行く。

「申し訳ないけど、気が変わったねぇ。そこは、“S'ilシル vous plaîtプレ ne le ditesディツ pas.”と、言っておこうかねぇ、浜山3等陸曹?」

 白瀬はそう言って離れようとすると、浜山は白瀬を呼び止める。

「先ほどの言葉は英語では無いようで意味が分からなかったのですが、何語ですか?」

「今のはフランス語なんだよねぇ。意味は、さっきのジェスチャーで察してほしいねぇ?」

「了解しました。それと自分から意見をさせていただきますが、白瀬さんの顔色が少し悪いように見えます。大丈夫ですか?」

 浜山に言われ、右手を頬に当てて数回さすると、困ったような表情を浮かべる。

「ありゃあ、それはまずいねぇ?でも、もうちょっとだけ、粘らないといけないんだけどねぇ。せめて・・・」

 白瀬が言いかけた直後、開け放した扉に向かって岩代が走っていくのが見えて、白瀬と浜山はそちらに視線を向ける。

「赤龍ちゃん!立検さん!そっちからYT99ちゃんと07ちゃんが走ってくるけど多目的区画こっちへ通して!それから20m遅れて、西原副室長と08ちゃんもここへ来るから通して!?」

 岩代が叫ぶように指示すると、右側を向きながら4人が到着するのを待っている。

「さて、浜山3等陸曹?私のアデリーペンギンさんの性格の再現の演技、しっかりと見ておいて欲しいんだよねぇ?」

「了解しました。ですが白瀬さん、やはり様子がおかしいですよ?本当に大丈夫ですか?」

「浜山3等陸曹?それ以上は“S'ilシル vous plaîtプレ ne le ditesディツ pas.”なんだよねぇ?宜しくお願いするからねぇ?」

 そう言って白瀬が浜山から離れると、扉の外から女性の叫んでいるような声が聞こえてくる。

「橋立君?何事かねぇ?」

「さあ?わたくしには、さっぱりですわ?」

 橋立に話し掛けた白瀬は、返答を聞くと扉に視線を向けて、メガネを少し持ち上げ位置を調整するのであった。

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